69:勇者は、攻略キャラに出会う(3)

「ハハッ。いや、一昨日、斬られたとき、勇者並みの能力だなぁ・・・とは思ったが・・・・・お前、本当に勇者だったのか!」


そう、アルフレッドはオレ、仲河光輝なかがわこうきを見つめながら、言い放つ。


乙女ゲームの隠しキャラ、S級冒険者<アルフレッド・ブラッドレイ>こと王弟<アルフォンス・レイ>は、傲慢で不遜、力こそすべてのような戦闘狂キャラクターではあったが、バカではなかった。・・・直感ですべてを判断しているようで・・・・その実、すごく分析をしているんじゃないか・・・・・・と感じさせるような節があった。


目の前のこの男も同じなのだろう。オレの回復魔法の異常さを見て・・・・即座に<勇者>だと断定してきた。



「特殊召喚魔法陣は、基本各国の王が管理している。つーことは・・・・他の五大国の王のどいつか知らんが、勇者を奴隷化させるヤバいヤツがいるのか。


まぁ、でもどっちにしろ、いまやることは一つだな。


・・・・・・・・・・オレと闘おうぜ?」



そう言って、アメジストの瞳を細め・・・・・・アルフレッドが一気に10Mの間合いを詰めてきた。



(普通、そこはオレからもっと情報集めるとかするところだろうが・・・・!)



心の中でアルフレッドへの悪態をつきながら、とっさに懐から出した短剣で彼の長剣の勢いを流す。・・・がすぐさま足払いが飛んできた。


彼の性格設定、戦闘狂をなめていた。その目は<勇者と闘える絶好の機会を逃がすかよ>と言わんばかりをしている。


思考を高速で巡らせる。

とりあえず、彼の気のすむまま闘うのは・・・・かなりまずい。


<レティシア・フランシス>と同様、<勝つビジョン>が見えてこない。防戦一方だ。



(こいつ・・・・一昨日瀕死の重傷だったくせに、いまこれだけ動けるとか本当は、どれだけ強いんだよっっ!)



一昨日の襲撃・・・・アルフレッドに初手で上手く重傷を負わすことが出来たのは、かなり幸運な出来事だったのだと思い知る。


もし一撃で仕留められず、レティシアとアルフレッドがそろっていたとしたら・・・・確実に死んでいただろう。



(本当にイヤになるな・・・・・この状況。でも、考えるのをやめるわけには・・・・・・・・いかない)



「オレを・・・・っっ殺す気か?」


「ハッ。んなことしねーよ。まだ情報も仕入れてねぇし、隷属化されてるとはいえ<女神の子ども>である勇者殺すとか、この国では、タブーだっつーの!


・・・まぁ、模擬戦のようなもんだ」



「・・・っっ。その剣じゃ・・・っっ普通に死ぬっっ!!」



胴体を狙った剣での一撃を素早くしゃがみながらよける。


どうやら、殺す気はないらしい。だが、いまのは当たっていたら・・・・・・確実に上半身と下半身が真っ二つだった。


背中に冷たく汗がツーっと流れるのを感じる。



「回復魔法があれば、死なないだろ・・・っ?」


(ああ・・・ヤバい。こいつ・・・・)



確かに真っ二つになっても、完全に死ぬまで数秒、下手すれば数分の猶予はある。

すぐに回復魔法を唱えれば・・・・オレなら恐らく全回復させられる。


この世界に来てすぐに行った実験では、真っ二つになった直後や、首だけ落とした直後の魔獣もかなり魔力を消費したが、<ヒーリング>さえかければ、一瞬で治った。


キンキンッとアルフレッドの攻撃を両手に持った短剣で流しながら、勝敗が続くまで・・・・もしかしたら、オレが死ぬ寸前まで行くまで・・・・・もうこの闘いを止める術はないのか・・・・と少し遠い目をしてしまう。


厩舎は目の前だってのに・・・・<白い馬>に会いに来ただけだってのに・・・・・・・。


そうして、どのくらい打ち合っていただろうか。

ここに来たのは深夜2時ごろだったはずなのに、空の一部が白んできているのが見える。

初夏に近づくこの季節のせいか、夜明け時間がすごく早い。


もうすぐ日が昇りそうだ。


このままここにいるのは、まずい。


万が一、目が覚めた<ベルタ>にオレ、もしくはアルフレッドの状況を

<固有魔法>で覗き見されたらと思うと・・・・・・・気がせいてくる。


<ベルタ>は基本、夜明けとともに起きるのだ。



「なかなか決まらねぇなぁ・・・・すげぇ防御力だな?おい」


「・・・っっ!模擬戦はもういいんじゃないか?・・・いつまでやる気だ?」


「そういうなよ?・・・・いつまで・・・?・・・・まぁ、フレドが起きるまでだなぁ?」


(なんでここで、フレデリック・フランシスのふりをしたあの少女が出てくるんだよ!!)



理不尽な怒りが、湧き上がる。


オレが<勇者>で<奴隷>だと理解した<レイ皇国王族>であるアルフレッド。

今後のことも考えて、少しでも連絡できる状態を確保したい、

もしくは有益な情報を得たいと思って、この戦いを続けていたが・・・

もうどうでもいいという気分になってくる。


アッシドの一軒家。その自分の部屋まで一気に転移しよう決める。

魔素を素早く集め、詠唱する前にアルフレッドの目を見つめる。



「また会いにくる」


「あ”っ?」



ここまで長い間、模擬戦に付き合ったオレが転移するとは思わなかったのだろう。

少しだけアルフレッドの眉がぴくりと動く。



「ヒーリング」



まずは、アルフレッドの負傷を癒す。

一昨日、ベルタの命令に逆らえなかったとはいえ、やはり何の罪もない

彼を傷つけたのは、心のしこりになっていたのだ。



「あ”ぁ・・・?」



せめてもの罪滅ぼしで、彼を治癒した。

もしベルタに気づかれても、彼女は猫以外はそこまで興味がない。

だから、彼が3日ほどで全快していても、疑問にも感じないだろうし、問題ないはずだ。



「・・・・・テレポート」



そう唱えた瞬間、身体が一気に浮遊する。

アルフレッドの前からオレの姿が掻き消えた。


次の瞬間、ストンと床に足がつく。

周りを見ると、ベッドと簡易な棚のみ置かれた殺風景な・・・・・


・・・・・・いつものオレの部屋だった。


黒い覆面を脱いで、少しでも仮眠しようとベッドに足を運ぶ。


小一時間だけなら眠れるだろう。

なんせ今日から、初めての迷宮探索だ。


何が起こるか分からないのだから、少しでも万全の状態でいたい。


ベッドに横になると、昨日の<レティシア・フランシス>の表情が思い浮かんだ。



(やっぱりちょっと理奈に似てるよなぁ・・・・・)



いままで初恋の相手・・・・理奈にしか高鳴らなかったオレの胸が・・・・

彼女を思い出した瞬間、同じように高鳴っている事実に

オレは気付かないふりをして・・・・・・・・


そっと・・・・まぶたを閉じた。

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