56:鍛錬3日目・猫好きの女性と出会う

「でも・・・20階層のボス部屋か・・・・。ああ、どうしよう。私だけじゃそこまではいけないだろうし。んんん~~・・・・」


「ま・・・まぁな。グラナダ迷宮は中級者向けダンジョンだからな。

A級やそれこそS級冒険者ならの単独で20階層までいくのは、可能だろうが・・・・・・

オレ達だってB級だけど、パーティーを組んで複数人でやっとそこまでいけたんだぜ?」


190cm越えの大男が、<可愛らしい女性>を困惑顔で見つめている。彼の周りはいま言ったパーティーメンバーなのだろう。

いかつい男たちが3名ほど同じ顔をして、女性を見つめる。



「でも、ボス部屋には、大きな猫ちゃんがいるのよね?」



そう言って、上目遣いで可愛い顔を傾ける。



「う”・・・。だからな?そんな可愛いもんじゃねぇって!魔獣だぞ?大体、猫じゃねぇ・・・っっ!キメラだっつってるだろ!?」


「でも、顔は猫ちゃんだったんですよね?そうですよね?

いまそう皆さんとお話しされてましたものね?

じゃあ、つまりは完璧に猫ちゃんじゃないですか・・・っっ!!」



可愛らしい女性が、いかつい男に顔をグイグイと近づけながら、何ともよく分からない会話を繰り広げている。

話を流れを見るに、彼らが迷宮について会話していたところにこの女性が急に乱入してきた様子だが・・・。


周りを見ると、この光景は冒険者としても異様なのだろう。

眉を顰めるもの、興味深々な様子で眺めるものなど、様々だ。



(まぁ、私には関係ないな・・・。資料もあらかた読んだし、次は掲示板の方を見に行くか)



そう思い、足を踏み出したところで・・・・。



「でも、そうよね・・・!A級やS級に匹敵するような強いパーティーメンバーさえいれば、20階層まで行けるのよね!」


「いやいや、高ランク冒険者が普通にそんな依頼受けるわけ・・・」


「んんん~・・・A級並みに強い人かぁ・・・・あっっ!!」



勢いよく、その女性が私の方を振り返り、私を指さしながら、ずんずんと歩を進めてきた。



「??」



いままで女性と男性に集まっていた大勢の視線が、私に集中する。

ざわめきが広がる。


「え?なにあのかわいい男の子・・・」「うわっヤバっ。なんで今まで気づかなかったんだろう」などなど女性冒険者たちが口々に噂しいているが、私は彼女にぐいっと肩を掴まれたため、意識はそちらに集中していて気づかない。


ちなみに、彼女の手を避けることもできたが、公爵子息教育で女性(レディ)にはなるべく恥をかかせないよう習っているので、避けることもせず優しく受け止めた。


とりあえず、子息教育で習ったほほえみをたたえながら、肩に置かれた彼女の手に自分の手を添え、優雅に引き剥がす。



「・・・・私に何か御用ですか?」



そう尋ねると何故か女性冒険者たちのざわめきが広がった気がする。なんだというのだろう、一体。



「あなた・・・!いま迷宮に潜ろうとしてますよね?そうですよね?迷宮の資料見てましたもんね?

ならついでに私を20階層のボス部屋まで連れて行くなんて簡単ですよね??そうですよね??」



すごい早口で、<可愛らしい女性>にそうまくしたてられた。見るに見かねたのか先ほどのいかつい男が、私と彼女の間に入ってきた。



「いやいや、お嬢ちゃん。この可愛らしい坊主がA級並みに強いわけないだろう?だったら、まだオレ達みたいなB級冒険者パーティーに頼む方がまだ現実的だって・・・」



疲れたような表情で諭すが・・・。



「でも、あなたたち20階層まで行くのに、2ヶ月かかったって言ってましたよね?私、早く大きな猫ちゃんに会いたいんです!そう、会いたいんですよっっ!!」


「いやいや・・・仮にこの坊主がA級並みに強いとしても、同じくらいの実力の奴がもう一人はいないと、短期間で20階層までなんて・・・・・・・」


「なるほど・・・もう一人・・もう一人いれば・・・・・あっっ!!!・・・大丈夫です、私、心当たりバリバリあります・・・・っっ!!!」



そう叫んだかと思うと、私の手を握りしめ、グイグイと扉の外に私を引っ張っていこうとする。

女性(レディ)に恥をかかせないよう、彼女についていきながら優しく諭す。



「お嬢さん、すまないが、私はいま手持ちがなくてね。


迷宮に潜るのは今日すぐにお金を稼ぎたいからなんだ。それに長期間、迷宮に潜るなら、食料や罠(トラップ)解除の魔道具など準備するものが多いだろう?


申し訳ないが、迷宮に入ったことがない私は、そういったものも持っていない。残念だが、別の方にしたほうがいい」



ずぶの素人だと分かったのだろう。いかつい男が私と可愛らしい女性を呆れた表情で見やる。



「ほら・・・こいつはA級どころか、初心者だとよ。命が惜しいなら、やめとけ」


「大丈夫よ・・・!大丈夫!!お金なら私があるわ!!今日、お金が欲しいなら、いますぐ!いますぐ!!正式に冒険者ギルドを通して、指名依頼をしてお金を支払うわ!!。・・・そうね、前払いで100万G、成功報酬で1000万G。さらに途中の素材は全部あなたのもの・・・・って条件でどう!??」



その言葉にざわめきが広がる。この世界の通貨は「G」で統一されている。前世でいうと1G=1円。ずぶの素人の少年に、大金を払おうというのだ。それはざわめく。


しかも迷宮に潜れば、階層にもよるがそこで得た素材だけで1財産築くことだって可能なのだ。その素材もすべて支払うとは、かなり破格な条件。


B級・C級冒険者パーティーなどは気色ばむ。彼女の依頼を受けたいのだろう。



「嬢ちゃん、その条件ならオレ達がやっても・・・・」



いかつい男の言葉を他のグループが遮る。



「いえいえ、可愛らしい女性なら男だけのパーティーなんて不安よね?私たち女性だけのパーティーなの・・・・」


「お前らC級だろうが・・・!だったら、うちの男女混合パーティーへ・・・・」



なんというか一気に一触即発状態だ・・・。先ほど奇異の目で彼女を見ていたはずなのに現金なものだ・・・・と思いながら、可愛らしい女性に私は手を引かれるがまま歩き出す。


彼女はそれらを一切無視して、受付エリアまで私を引っ張っていくと、受付の若い男性に声をかけた。



「すみませーん、この人に指名依頼をお願いします。はい、これ私の身分証。」


「あ。は・・・はい」



明らかに困惑している受付の男性。そこへ気にせず、私も自分の冒険者証を出した。私の冒険者証は、F級冒険者証、一気にまわりにざわめきが広がった。

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