34:鍛錬2日目、迷宮都市にまだ着かない(3)
「アルフレッド殿・・・・ッッ!!」
彼が倒れているのを目にした瞬間、私は思わず大きな声で叫んだ。
そうして、彼の元に駆けだそうとした瞬間、そこにいるのがアルフレッドと
倒れている彼・・・アルフレッドの後ろにもう1人<剣を携えた人物>が立っていたのだ。
(あいつは・・・・・・)
その人物は、黒い布を顔に巻き付けた覆面をした男だった。
しかし、その男の手に持っている剣にイヤに既視感を覚え、私は思わず眉根を寄せた。
(あの剣は、兄・フレデリックの襲撃の際に男に持っていかれた<私の剣>にそっくりじゃないか・・・?
・・・・・・というか、絶対そのものだろう・・・・!)
つまりはこの覆面男は、兄・フレデリックを茶髪男と一緒に襲い、私の剣を・・・そして兄・フレデリックの右足を、奪った襲撃者の男だということじゃないだろうか?
(まだ兄・フレデリックを狙っている?そして、兄のふりをしている私を勘違いして襲いに来たのか・・・?
だが・・・・・・おかしい)
さっきまで混乱状態だったとはいえ、私の<剣聖>由来の気配察知の能力は優秀だ。
覆面男の殺気すらまったく感知できず、こんな状況になるなど考えられない。
(もしかして、あいつ、前より・・・かなり実力があがっている・・・?この短期間で・・・私の感知能力をかいくぐれるほど・・・・・・・)
もしその通りであれば強敵だ。慎重に行動する場面だろう。
だが、アルフレッドが倒れているいま、そんな悠長なことは言ってられない。
「お前・・・・・今度、私の半径1㎞以内に入ったら、問答無用で消し炭にするっていったずだが・・・・?」
私はそう言うと、アルフレッドから昨日、買い与えられた剣の柄に手をかけて、一気に駆け出す。
・・・と同時に向こうも私の存在に気づいた。
「お前・・・・!!!・・・・・・・あのときの妖精か・・・・・・ッッ」
私はいま兄・フレデリックのふりをしている。
だからか・・・やはりというべきか、小屋の前に立っていた少年(私)を以前、会った貴族令嬢レティシアと関連付けれてなかったらしい。
まぁ、そんなことはもうどうでもいい。
彼はもう私の魔法の射程圏内に入った。
「フレア・・・」
「・・・・ッ!!テレポート」
私が高威力の火魔法「フレア・ボム」で覆面男を消し炭にしようとしたところ、覆面男に先手を打たれてしまった。
前にも使った時空魔法での転移だ。
だが、いまの時空魔法は・・・以前と違い<詠唱省略>だった。
以前は、確かに詠唱して使用していたはずなのに。
「詠唱省略が出来るようになるほど、この短期間でやはり実力をあげた・・・・・?」
色々考えなきゃいけないことは多そうだが、首を振る。
余計な思考を投げ出すために。
覆面男が本当にいなくなっているのなら、やることは1つだ。
もちろん伏兵や・・・また覆面男が転移して、戻ってくるという状況に気を付ける必要はあるが・・・・・・。
そう・・・・・・・それよりもいまは、倒れているアルフレッドをどうにかするべきだろう。
急いでアルフレッドに駆け寄ると、思った以上に彼の傷が深いことが分かった。
それはそうだ、彼は魔法騎士・・・しかも公爵子息教育で習った内容によるとその中でも特に<荒事が多い>と言われる第三騎士団の副騎士団長だった男だ。
軽い傷なら、無理にでも立ち上がって、闘っているだろう。
「・・・はぁ・・・・はぁ・・・・わりぃな。やられちまった」
浅く息を吐きながら、彼がそう笑いかけてきた。
アルフレッドの背中には大きな斬り傷ができていた。
うつぶせに倒れたままの彼の、その下には・・・・大きな血だまりが出来ている。
(前世で習った人間が死に至る出血量はどれだけだっただろうか・・・・・・?)
あまりの出血量に、イヤな思考が一瞬頭をよぎる。
こんな時、VRMMOのアクションゲームで使用していた<剣聖>のキャラクターに治癒魔法を覚えさせていなかったのが悔やまれる・・・。
もちろん、いまのレティシアにそういった素養がなければ、治癒魔法を使えることはないだろうが、この世界のレティシアの<剣聖>時代のキャラクター再現度を考えると、もし覚えていたら使えた可能性の方が高いと思ったのだ。
とりあえず、止血を・・・と思ったところで、声がかかる。
「わりぃ・・・ポ・・・ション・・・を・・・・・・・」
アルフレッドは
(そうか・・・ポーション・・・!なるほど、ポーションなら・・・)
この世界には通常の医療のほかに、大きく2種類の特殊な治療方法がある。
治癒魔法とポーションという魔法薬での治療だ。
治癒魔法については、レイ皇国では国としてその使い手を厚遇しており、ほとんどが神官として普段はカトレアを創生神とあがめる宗教・カトレア教の神殿で働いている。
・・・・・・そのため、<いま>はもちろん治癒魔法での治療は期待できない。
だが、もう一つの治療<魔力を含む特殊な薬草を煎じて作った薬>・ポーションを持っているならば、この場での治療は可能だ。
ポーションには、通常の<ポーション>と<ハイポーション>がある。
ハイポーションの方が上位薬にあたるので、効能は高い。
大怪我では、さすがのハイポーションでも治療に時間がかかるが・・・・・・それでもハイポーションさえあれば、この大怪我でも命を繋ぐことは容易いだろう。
賢い馬だ。いまの私たちの状況を・・・・そして会話を理解しているのが分かる。
即座に
公爵子息家教育で得た知識によると、普通のポーションは緑色。
そして、ハイポーションは紫色の液体だったはずだ。
カバンの中の液体の色を見て、思わず眉根をよせる。
緑色・・・・・・つまり<普通のポーション>しかないのだ。
でも、なにもしないよりはましだ。
とにかくポーションをありったけ使って、この血をとめることにした。
そして一刻も早く・・・・・・森を抜けて街の神殿で<神官の治療を受けさせる>か、<ハイポーションを入手>しよう。
アルフレッドの背中にポーションをかけると<シュウゥウゥ>と音がして、傷口が少しずつふさがっていくのが分かる。
そして、もう1本のポーションを手に取り、蓋を開けた。
「・・・口を開けろ。・・・・・ポーションは傷口にかけるだけじゃなく、飲むのも効果的だ・・・アルフレッド殿なら、知ってるだろう?」
そう話しかけるが、アルフレッドは先ほどから閉じてしまったまぶたを開けようとする気配がない。
「はぁ・・・はぁ・・・・」という彼の浅い呼吸音が私に焦燥感をつのらせる。
彼の口元にポーションの瓶を寄せても、無駄だった。
(確かに私は剣と魔法の世界を楽しみたいと思っているが、こういった自分以外の人間の命のやり取りを楽しみたいわけじゃないんだよ・・・・!!!)
色々な感情が混ざり合い、噴出した。
もう羞恥心などどうでもいい。私はポーションを自分の口に一気にあおり入れ、アルフレッドの口をふさいだ。
薬草の苦味と彼の唾液の味・・・・そして、彼の血の味が・・・・私の口の中、いっぱいに広がるのが分かった。
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