109「魔石の扱い」②




 森の中で見たときに比べ、部屋の中という身近な物が比較対象としてあると、魔石が信じられないほど大きことを改めて思い知らされる。


「――これは、なんの冗談かな?」

「……冗談だったらいいんですけど」


 ティーダの声は震えていた。

 魔石の存在こそ稀であるのに対し、ちょっとした椅子くらいの大きさの魔石が目の前にある。

 価値がわかる者こそ、驚愕も動揺も大きい。


「……控えめに言うが、これが魔石であるのなら国宝級だ」

「控えめ、で国宝級なんですか」

「近づかなくてもわかるよ。控えめに言わないのでいいのなら、国宝以上だ。まるで血のように赤い。よほど魔力を溜めているのだろう。大きさもだが、秘めた魔力の濃度も素晴らしい」


 国宝以上と言われて、どう反応をすればいいのかわからない。


「ここだけの話、国宝級の魔石を見たことがある。いずれ、なにかしらの動力に利用するために取ってあるものだ。加工が難しいことや、大きいためそもそも加工していいのかどうかも悩み長いだ眠っている魔石があるのだが……」

「あ、嫌な予感がする」

「国宝級の魔石が、拳ほどの大きさ」


 レダたち全員が、災厄の獣から出てきた魔石に目を向ける。

 拳いくつ分だろうか。十倍でも控えめだ。


「は、はははは、よかったな、レダ! 子々孫々が遊んで暮らせる!」

「嫌だなぁ、ティーダ様ったら。俺だけの魔石じゃないですから。ねえ、テックスさん、ルルウッド」

「ちょ、こっちに振るなよ! 俺はいらないからな! こんなでけえ魔石の分け前なんてもらったら身を崩しちまう!」

「同感です。金はあっても困りませんが、ありすぎると身を滅ぼします」

「じゃあ、俺もいらないです!」


 レダも三十年生きている。

 冒険者家業だけでも十年。その間に、金で身を滅ぼした者を知っている。

 借金で首が回らなくなった者、予期せぬ大金を得て金銭感覚が狂い破滅した者。金のために殺された者。

 稼ぐことはいいことではあるが、分不相応の金は身を滅ぼす。


「参考までに言っておくが、君たちがどれだけ遊んでも破滅はしないだろう。それだけの価値がある。問題は――どうやって換金するか、だ」

「仮に、冒険者ギルドに持って行ったら、大パニック間違いねえな」


 テックスが「笑えねえ」と肩を竦めると、ティーダも頷く。


「ギルド職員が善良であっても、どこから情報が漏れるかわからない。いや、それ以前の問題として、冒険者ギルドでも支払いは難しいだろう。大陸中のギルドから金を集めれば可能だろうが、それでは事が大きくなる」

「レダ先生のアイテムボックスに放り込んでおいて、見なかったことにするのが一番かもしれませんね」


 ルルウッドが冗談なのか本気なのかわからないことを言い出した。

 彼の顔は笑っていない。

 笑えないのか、冗談ではないのか。


「……じゃ、じゃあこうしましょう。ローデンヴァルト辺境伯家に」

「絶対にやめてくれ!」

「まだ最後まで言ってませんけど」

「聞かずともわかる! レダのことだ、差し出すとか言うつもりだろう!」

「…………そんなことありませんよー」

「嘘をつけ!」


 予想していた通り、魔石の扱いに揉めることとなった。






 〜〜あとがき〜〜

 本年の更新はこれにて最後となります。

 来年度も更新を頑張りますので、よろしくお願いいたします。


 お正月に時間がありましたら、他作品を読んで頂けますと幸いです。

 商業のほうでは「いずれ最強に至る転生魔法使い」のコミック最終巻が発売したばかりです。

 書籍では、「異世界から帰還したら地球もかなりファンタジーでした。あと、負けヒロインどもこっち見んな。」の一巻が発売中です!

 もちろん、「おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ~中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる~」の最新10巻まで発売中ですので、こちらもよろしくお願いいたします!

 揃ってよろしくお願いいたします!


 ――よいお年をお過ごしください。



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