51「重症な冒険者たち」
冒険者ギルドに辿り着いたレダは、血の匂いに眉を顰めた。
「――レダさん、こちらです!」
「はい」
ジェイミーが前を走る。
すでにギルドの中は負傷者で溢れている。
治癒待ちの冒険者たちだ。
彼らに目配せをしながら、ギルドの奥へ向かう。
(治癒待ちの冒険者たちが……いつもよりも酷い。それだけ、治癒待ちの冒険者が酷いということか)
普段ならば、軽く手を挙げて「仲間を頼むわ」と軽口を聞ける冒険者たちが、すがるような目でレダを見ていたのが印象に残った。
明るい冒険者たちから、悲壮感も漂っている。
最悪の事態が起きていることが用意に見て取れた。
身体に巻かれた包帯も血が滲み、ギルド職員や、仲間の冒険者たちが手当に勤しんでいる。
レダと協力関係にある医者と薬師もすでにこの場にいて、治療にあたっている。
歩みが早くなる。
(冒険者ギルドにはお母さんもいるはずなのに……)
モンスターの群れの発生。
冒険者たちの想像以上の負傷。
今後のことが心配であるが、今はまずレダができることをするところから始めなければならない。
「――こちらです!」
いつも治癒が必要な負傷者が寝かされている部屋に通されたレダは、驚きに目を見開いた。
「う、あ」
隣でエンジーが、情けない声を出した。
――目の前に広がる光景は、赤一色だった。
モンスターに腹部を削り取られた者、手足を食いちぎられて血を流し続ける者、自らも重症なのに仲間を優先してくれと泣く者。
酷い光景だ。
かつて、アムルスにきたばかりのことを思い出してしまう。
「レダ! こっちにきて手伝って! 手が足りないわ!」
「はい!」
母フィナ・ディクソンの大きな声に、レダの意識が現実に戻る。
彼女は手と服を赤く染めて治癒にあたっている。
彼女の治癒術はレダ同等かそれ以上だが、それでもひとりの治療に時間がかかっているのだ。
「エンジー!」
「は、はい」
「君のことは理解しているつもりだけど、ここが正念場だ」
一番の重症者に駆け寄り、レダはエクストラヒールをかけた。
いつもよりも魔力を消費し、時間はかかるが、腕と足を食いちぎられていた冒険者の欠損部位が戻っていく。
痛みから解放された冒険者が涙を流すが、失った血までは取り戻せない。
失血死する可能性だってあるのだ。
「ありがとう、レダさん。他の奴らも」
「わかっています。大丈夫、今は安静にしてください」
「――ありがとう」
きっと仲間のことを言いたかったのだろう。
冒険者は、感謝の言葉を述べると、意識を失った。
「エンジー」
「はい!」
「頼ってもいいかな?」
レダは次の負傷者にエクストラヒールをかけながら、尋ねた。
エンジジーの顔は見えない。
見ている余裕がない。
失われた肉を取り戻す治癒は、魔力以上に精神を遣うのだ。
「――はい! 任せてください!」
エンジーの心強い言葉と共に、背後で彼が患者に駆け寄るのがわかる。
彼なら大丈夫だ、と信頼し、レダは治癒に集中した。
〜〜あとがき〜〜
ヒールは、かけたら勝手に治るのではなく、治癒士が認識して治そうとしたほうが効果が出ます。
傷を見ず、ただヒールで治る怪我ならば、重症ではない感じです。
本日(5月15日(水))に、コミカライズ9巻が発売となります!
何卒よろしくお願いいたします!
※近況ノートにカバーイラストを公開させていただきました!
ぜひご覧ください!
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