真実を述べる者(パート3)

アナウンサーのオオセンザンコウが殺害された翌日。

刑事課課長、かばんは署長に呼び出された。


「失礼します」


「出勤早々申し訳ないですねぇ」


彼女はピーチパンサー。

2年前に起きた“例の事件”で前署長のカバは辞任、

新しく、安院警察署の署長だった彼女が京州へ来たのだ。


そんな彼女が、卓上に置いたのは今日付けの京州新聞の朝刊だった。


見出しを見ると、こう書かれていた。


【京州警察署 過去の不正隠ぺいのため殺害か】


そのまま黙って、読み進めた。


『フリーアナウンサー、オオセンザンコウ氏が昨日昼頃、京州市内の神社で死亡しているのが発見されました。オオセンザンコウ氏の所持していたUSBメモリが発見されておらず、犯人が持ち去った物とみられます。関係者の取材によるとUSBメモリの中には地元警察である“京州警察署”の不正に関するデータが入っていたとされ、

察した京州警察の関係者がこの事件に関与しているのではないかと推察されます。

京州署は過去に不祥事をいくつも発生、また、前科持ちの警官もいる為今回の事件にも何らかの形で関与しているのではないかと思われます』


その文面はあたかも『オオセンザンコウ殺しの犯人が京州警察署員である』と言っているような

書き出しだった。


「これは...」


「色々とツッコミたい所はありますが...、どういう事ですかね?」


ピーチパンサーは眠たそうな目をかばんに向けた。


「全くわかりません。青天の霹靂です」


「圧力で蓋をしていたのが、どっかから零れ出した様ですね」


「....」


「ここの事は、市民も知りません。厳密に言えば小さく報道した。

この京州新聞が2年前の死体遺棄事件や、サーバルの過去に関して掘り返せば、

何が起こるか。中央署の警視総監も目を付けていると聞きます。

最悪、署長の私だけでなく、あなたも危ない目に遭いますよ」


「はい、それは...」


「...ともかく、これ以上変な詮索を世論にされない様に真犯人を見つけてください」


「わかりました」



かばんは刑事課にいつものメンバーが集まると、今朝の新聞の話をした。


「...恐らく、この新聞記事を書いたのはオオアルマジロさんでしょう」


「かばんちゃん、ずっと気になってたよね?

何の為にオオアルマジロさんがオオセンザンコウさんに会ったのかって」


「それの答えが『USBメモリ』って訳ね」


「彼女は、きっと京州署の“やり方”について疑問を持っていた。

親友のオオセンザンコウさんはテレビ局に精通している。テレビ局なら情報が

色々あるから、それを持ってきて、直近に起きたアイドル誘拐事件をネタに、

京州署に批判的な記事を書こうとしたと。

...僕の推理だけど、今回の事件の犯人は、ヤマバクさんだよ」


「えぇっ?唯一の親友って言ってた?」


サーバルが驚いた声を出した。


「彼女は犯行当日、休みと言っていた。そして、オオアルマジロと親しかったら、

オオセンザンコウといつどこで会うかなんて容易にわかることでしょ」


「でも、犯人がヤマバクだとしたら、

オオセンザンコウを殺害する動機がイマイチわからないわね。

後調べるべきは...」


「私達が調べたカメラの人物と一致しているかですね!」


ドールがパンッ、と手を叩いた。


「リーダー、鑑識のマーゲイに靴を割り出してもらってるわ。

もうすぐ来ると思うんだけど」


ハクトウワシの言葉通り、コンコンとノックが聞こえマーゲイが入って来た。


「はい...。神社と言われたボートから採取した靴跡の靴、これですね。

郊外のショッピングモールなんかで売ってる安めの靴です。

早く」




「じゃあ、僕とサーバルはまた新聞社に行って2人の関係を洗い出してくるよ。

ハクトウさんたちはカラカルの指示に従って」


かばんに指名されたカラカルは...。


「...えっと、じゃあ、先に靴屋を調べましょう。

ヤマバクの犯行を裏付ける証拠を見つけないとね。ハクト、ドール」



[京州新聞社]


「驚きましたわ、てっきり今日の朝刊にクレームを入れにきたのかと」


編集長のケープキリンは冗談を飛ばした。

しかし、かばんはその冗談を無視して、要求を出した。


「今日はヤマバクさん、来てますか?」


「今、お呼びしましょう」


2分後、平気そうな顔をしてヤマバクが来た。


「こんにちは、はじめまして。ヤマバクと申します。

警察の方がどのようなご用件ですか?」


「あなたと、オオアルマジロさんの関係を教えてください」


「編集長からお聞きしたかもしれませんが、ただの友達です」


「本当にそうなんですか?」


サーバルが聞く。


「本当って、本当ですよ。それ以外の何があるんですか?」


その返答を聞いて、かばんは。


「...オオアルマジロさんの事を好きではなかった?」


「え?」


「オオアルマジロさんに恋愛的感情は抱いてなかったんですか?」


かばんは踏み込んで、そう質問した。


「あの...、それを聞いて何になるんですか?そもそも、何の事件で?」


「オオセンザンコウさんが殺された事件です。

こちらでは、あなたが犯人ではないかと推定しています」


「ふふっ、私が何故彼女を殺した犯人だと?興味深いですね」


「だから、その為にあなたとオオアルマジロの関係聞いてるんですよ!」


サーバルが躍起になって言った。


「...僕の想像では、あなたはオオアルマジロさんに恰好のネタを提供したかった。

オオセンザンコウさんを殺害し、あたかも、それが京州署の署員がやった様に書く。

彼女は、警察の事は信頼していないと言っていました。

京州署の信頼の失墜こそが、オオアルマジロさんの真の目的。それを知っていたあなたは、オオセンザンコウさんを殺し、USBメモリを奪ったんです。

全て僕達、警察のせいにする為です。

策略通り、オオアルマジロさんが今朝の記事を書いたんですよね」


「ふっ...、面白い想像ですね。かばんさんでしたか。

私を逮捕したいのなら、逮捕しても構いません。

アナタが天才であることは存じております。

ただ、メディアを敵に回すと恐ろしいですよ」


彼女はへらへらと笑いながら、脅すようなことを言ってきた。


「敵に回すも何も、あなた達と同様僕達は真実を追求しているだけです」


「なるほど。なら私も、真実を述べる者として、然るべき対応をさせていただきます」


「証拠は着実に集まってますからね!」


「ふふふっ、どんな捜査結果が出るのか、楽しみです!」



結局、ヤマバクは最後まで関係を話そうとはしなかった。

かばんとサーバルは、しかたなく引き下がる事にした。


2人が帰った後、ヤマバクはオオアルマジロに声を掛けた。


「オオアルマジロ...、残念だったね」


そう声を掛けたが、彼女はむしろ、熱意に満ち溢れていた目をしていた。


「でも...、これで京州署の奴らがいかに極悪か世間に知らしめることができる...。

センちゃんの無念を晴らす為にもね...。今、2年前に起きた死体遺棄事件の容疑者として、刑務所にいる彼女に、話を聞き出して、もっと不正を暴くつもり...。

最終的には、署長とあのかばんって刑事を謝罪させるの、上手くいけば、警察官を逮捕して崩壊させることができる...。京州の警察は“普通じゃない”って、みんなから思われるよ」



数日後、カラカルたちの捜査により靴屋が特定された。

購入履歴や現場周辺のカメラの解析、

そしてオオセンザンコウの残したダイイングメッセージの

『記』の文字と、ヤマバクが新聞“記”者であることから、

容疑者がヤマバクである事は確固たるものとなり、逮捕状を取った。


取り調べに対し彼女は、あっさり自供をした。


だが....。



「...何ですか、署長」


ピーチパンサー署長はかばんに無言で新聞紙を渡した。


【京州警察 またも犯人偽装。隠ぺい工作か】

『オオセンザンコウ氏が殺害された事件で同社のヤマバクが容疑者として逮捕されたが、これは警察による犯人のでっちあげ、組織的な隠ぺいであるとの見方が強い。

過去の不祥事に関連するデータが入ったUSBメモリを入手していたオオセンザンコウ氏を警察署員が殺害したものの、容疑者とは認定せず、京州署に対して批判的な記事を書いたヤマバクを容疑者として逮捕したと推測される。

実際、2年前に起き未解決とされてきたJPR車掌銃殺事件の犯人も京州署の前課長であり、このことを京州署は隠ぺいし続けているが、今回の事件も同様であると思われる』


「完璧な証拠もそろっての完璧な逮捕ですよ、そもそも彼女は自白しています」


「今回の逮捕に納得しない多くのマスコミが押しかけています」


ピーチパンサーはかばんの声を無視して、遮るように言った。


「我々は2年前の“事件”が、未解決扱いのままというのも真実でしょう?

更には1年前の彼女が絡んだ強盗殺人事件が掘り返されれば....」


「....」


「これ以上古傷を舐められ続けたらたまったもんじゃありませんよ」


「じゃあ、どうしろと言うんですか?」


ピーチパンサーは重苦しい溜息を吐いた。


「1つ目は、そのまま毅然とした態度で、ヤマバクが犯行を行ったと主張を貫くか。

2つ目は、ヤマバクを釈放、不起訴にし、こちらが悪かったと謝罪するかです。

どちらにせよ...、こちらにも大きな傷は出来ます。しかし、過去の不祥事を隠すには致し方ない事です」


「...僕はもう決められません、署長に任せます」


頭を下げて、署長室を出た。

すると、廊下に立っていたのはハクトウワシだった。


「リーダー」


「ハクトウさん...」


「話があるの」



[京州署 屋上]


「私は...、悔しいわ」


「....」


「警察を叩く為に、被害者は殺されたの?

その犯人は、私達を良いように陥れて、反省もなし?

その上、批判に怖気づいて犯人を釈放するの?

何の為の警察なのよ。悪を裁くためでしょ?」


「ハクトウさん、どうしてそれを?」


彼女は目を一度閉じ、大きく息を吐いた。


「...もう隠してはいられないわ。

私は警視総監に依頼されて中央の捜査一課から、ここへ来た。

かばんやその他の人達が不正な行為を行っていないか捜査するためにね。

もちろん、秘密裏だから署長にも伝えていない。

さっきの話は、盗聴して聞いてたの」


「...そうでしたか」


「盗み聞きしたのは謝るわ。

けど...、私も中央署も知らなかったことがあったわ」


「1年前の、暴力事件。ですよね」


かばんは、目を閉じて思い出すように口を開いた。



[某日 某時刻 刑務所内面会室]

“あの記事”を掲載した新聞が出る数日前...。

オオアルマジロはとある人物と接触していた。


「へぇ...、また京州の人がやらかしたんですね」


「本当に信じられません...。私の親友がそんなことするはずがない」


オオアルマジロは未だに、犯行を行ったのは京州署員であると思っている。


「かばんさんは、特指課時代から違法捜査ギリギリのラインを攻め込んでいたらしいですからね。

やってもおかしくない話じゃないと思いますけどね」


「何か他に、事件に関して知ってる事はありませんか?」


アクリル板の向こうの彼女は微笑むと、オオアルマジロに近づき小声である事件を語った。


「未解決事件とされていますが、前の課長...、

フェネックさんは2年前に起きたJPR車掌銃殺事件の犯人です。

彼女は自分の意志で自殺をし、私に死体遺棄を依頼したんですよ。

このことは取り調べでも一切口外していません。

これも、隠ぺい工作の一つだとちょいちょいっと書いてもらえれば、私が完全なる悪じゃないということが証明されますよね?」


「...ええっと、自らの犯行を隠すために、濡れ衣を着せられたってことですよね」


「やらざるを得ない状況になった...。そういうことです」


「勿論です...、情報提供感謝します、アードウルフさん」


「堅苦しいので、アドさんで大丈夫ですよ」


ニッコリとオオアルマジロに向かって言った。


(これで...、あの京州に復讐できる...。2年前のあの笑顔を...)


.....。


『アドさん、この際だから、僕の好きな物を教えますね。

僕は一般人が犯罪者になる瞬間が、一番大好きなんです』



(あの笑顔を...。潰すことが出来る...)

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