#chapter2
真実を述べる者(パート1)
『京州署、犯人発砲『根拠なし』』
「...いや、違う!」
咄嗟にパソコンの文字を消した。
「...うーん」
「オオアルマジロさん、お茶でも飲みますか」
「あ、ヤマバク...。ありがとう」
ヤマバクは、お茶を入れ彼女のデスクに置いた。
「何思い悩んでるんですか?私で良ければ相談に乗りますよ」
彼女は微笑みながら言った。
「この前、『アイドル誘拐事件』があったでしょ?あの時、警察は誘拐犯に発砲したじゃない。私はその対応に納得いかないの」
「あぁ...、たしか、同じメンバーの方が逮捕されてましたね」
「私の考えではね...」
彼女は左手でペンを回しながら考えを披露した。
「どれだけ相手が取り調べで黙秘したとしても、家宅捜索や聞き込みで繋がりは証明できたんじゃないかって。それに誘拐犯は精神疾患を患っていた。…つまり、アレは、裁判になったとき、彼女が生きてれば精神鑑定で無罪になる。それを防ぐために射殺したんじゃないかってね」
「罪人はどんな手段を使ってでも処罰する...、って事ですか」
ヤマバクの要約にオオアルマジロは頷いた。
「けど...、それは私も想像でしか過ぎないし、確固たる証拠もない。だけど、京州署が違法捜索ギリギリのことをやってるのは間違いないの」
「...過去の京州署が担当した事件を洗い出して、それでネタ書けばいいんじゃないですか」
そうヤマバクは提案したのだった。
「ああ...、そうか!それなら...。ちょうど私の知り合いに詳しい人がいた!
よし、さっそく電話しよ!」
*
数週間後...。
オオアルマジロの元に一本のメールが届いた。
『オルマー、京州署の重大な秘密を掴んだよ。メールだと心配だから、情報の入ったUSBを私が言った場所まで取りに来てくれる?時間は14時頃に』
その情報を元に急いで、指定された場所に向かった。
(というか、なんでセンちゃんはこんな神社に呼び出したんだろう?私の住所知ってるんだから普通に家でいいのに)
時間通りに14時頃
京州市郊外にある普通の神社。
石段が何段にも続いている。
頑張って上りきって、辺りを見回した。
「あれ...、どこだろう?」
そこに彼女の姿は無かった。
彼女が時間に厳格なのは知っている。
その上、無断で約束を破る事もない。
オオアルマジロは、周辺を探ってみることにした。
「おーい、センちゃんー!来たよー!どこにいるの?」
声を出しながら呼んだが返事がない。
神社の本殿の裏手に回った。
すると、そこには....。
「セ、センちゃん...!!」
うつ伏せに倒れた彼女の姿があった。
*
刑事課は何時ものように静かで平和だった。
あの当時、発砲現場にいた私と、かばんと、ドールは別の署から派遣された人物に聞き取り調査を受けた。私は、ありのままを素直に話した。
2人も何も問題無かったようで、射殺の正当性が認められた形だが、この話を聞いたサーベルタイガー総監は不機嫌そうだった。
それは置いといて、今私が気になっているのはドールの事である。
いくら命令だからと言っても、1人の命を殺めたのだ。彼女は警官になってから日が浅いと言っていたはずだ。
隣に座る彼女に声を掛けた。
「ドール」
「なんですか?ハクトウさん」
「個人的な話だけど、今度お茶でもどう?」
私がそう誘うと、
「いいですよ」
意外にも即答だった。
「いやー、私以外先輩なので、気を使っちゃって、中々気楽に話せる人がいないんですよね」
“えへへ”と、あどけない笑いをドールは浮かべた。
「...私で良ければ何でも話してちょうだい」
私は彼女にそう伝えた。
プルルルル...、プルルルル...。
電話が鳴った。
かばんが即座に受話器を取った。
「はい、刑事課です。はい...、はい。
わかりました。40分で着くと思います。はい、失礼します」
受話器を置くと、すぐに立ち上がった。
「事件だよ、行くよ」
「了解ー」
「はーい」
カラカルとサーバルも返事をしすぐに立ち上がった。
「ハァ...」
ドールだけ溜め息を吐いて立ち上がったのが、とても私の脳裏に強く焼き付いた。
ーーーーーーー
[京州市 神社]
事件現場は小高い丘の上にある神社だった。
階段を数十段あがったところに本殿がある。
現場はこの裏らしい。何とも罰当たりな犯行だと、思った。
「こんにちは、マーゲイさん」
「はぁ...、おはようございます」
かばんさんが手招きした。
「ハクトウさん、まだ紹介してませんでしたよね。
鑑識のマーゲイさんです」
「どうも...。中央署から出向してきましたハクトウワシです」
「ああ、どうも...」
なにやら元気のないような萎れた返答だった。
「どうしたの?彼女」
私はかばんに尋ねた。
「彼女、PPPの大ファンなんですよ」
「あぁ...、そういう事ね...」
「....別に私に構わないでいいですよ、サーバルさん達先に行っちゃいましたよ」
マーゲイを憐みの目で見ながら、私は奥へ進んだ。
神社の裏手、サーバル、カラカル、ドールがいた。
「被害者はオオセンザンコウ、フリーアナウンサーです」
ドールがメモ帳片手に言った。
「後頭部に傷があるから、鈍器で撲殺ってところかしら?」
「カラカル、死亡推定時刻は?」
私は尋ねた。
「第一発見者がいて、話によると14時頃には既に亡くなっていた様だから、正午から14時までの間ってとこね」
「白昼堂々犯罪を犯すなんて...。とんでもない奴ね」
「残念ながら、ここは郊外。しかも人口も少ない地域で、地元住民もこの時間帯はこの付近には来ないそうですよ」
「じゃあ、第一発見者以外に目撃者はいないと?」
ドールは頷いた。
「今、車で逃走したかもしれないので、不審な車が無かったか調べます」
「待って、それなら私も一緒に手伝うわ。ついでに聞き込みもしちゃいましょう」
「あたしはもうちょっとこの境内を調べてみるわ。凶器が落ちてるかもしれないからね」
第一発見者に話を聞いていたサーバルの元にかばんがやって来た。
「京州署のかばんです、第一発見者の方ですね」
彼女は、何やら嫌そうなものを堪えるような顔をして、頷いた。
「彼女はオオアルマジロ、京州新聞社の新聞記者だって」
サーバルが聞いた情報を伝えた。
「そうですか、記者さんなんですね」
「...はい」
「オオセンザンコウとは、古い友達なんですよね」
「...ええ。
今日はここで会う約束を...。私が来たとき、彼女は襲われた直後でした。
犯人の姿は見ていません...」
かばんは腕を組み、
「...なんの約束をしたんですか?」
と、尋ねた。
「...約束の事は申し訳ありませんが、言えません」
「何故ですか?」
「協力したいのは山々ですが、生憎警察の事は信頼していません。
私の仕事は真実を述べる仕事です。私はこの目で、この足で、この耳で。
総合的に判断して、警察はダメだという真実に辿り着いたまでです」
彼女は真面目な顔をして言った。
横のサーバルは不可思議な顔を浮かべていた。
「.....」
「ちょっと!サーバル、課長!来てもらえる!?」
カラカルの声が聞こえた。
「なに!?」
サーバルは先にカラカルの元へ向かった。
「...オオアルマジロさん、
警察に対してどのように思われようがそれは勝手ですが...。犯人を捕まえたいのであれば、多少の情報を頂けるとありがたいです。それがオオセンザンコウさんの為だと思いますけどね」
かばんはそう伝え、カラカルの元へ行った。
「.....」
(誰が警察なんて...)
「これをちょっと見て!気付かなかったけど、これ、何かの文字に見えない?」
カラカルはオオセンザンコウの伸びた右腕の先にある地面の模様を指さした。
「んー?なにこれ?ZS?」
サーバルは動き回り、様々な角度から見た。
「確かに、何かの模様...、いや“文字”ですね」
「課長、あたし思うんだけど、“記”って漢字じゃないかしら?」
「“記”...」
かばんは後ろを振り返り、オオアルマジロの姿を見た。
白昼堂々、神社で起きた罰当たりな犯行。
オオアルマジロは何の為にオオセンザンコウと接触したのか。
何故、オオセンザンコウは殺されなければいけなかったのか。
(....USBが無かった。アレがないという事は...、犯人は...)
『京州署の重大な秘密を掴んだ』
彼女の残したこの言葉が意味することは...。
(犯人は....、あの中にいる....?)
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