出会い

 中学校の卒業を前にしたとき、君たちは何を考えた?

 高校に行き、春を迎えた幸せな生活を思い浮かべただろうか?彼氏彼女と出かけまくる日々、友達と渋谷に行ったり、何気ない登下校を繰り返す日々の想像に胸を躍らせただろうか?

 否…そこにあったのは俺にとって終わりのない、創造の日々であった…。


 行列のできるラーメン店、はじめ。ここ浅草店は東武浅草線の老舗エキナカ、EKIMISEというデパートを背にし新仲見世通りのストリートを歩くことおよそ10分。オレンジ通りを超えたさらに向こう側、右側に位置する。


「久しぶりやね。僕は古賀 正義こが せいぎといいます。と、いうか知り合いだし別に細かい紹介はいらないね?まだ4月にもなっていないのに面接に来るっていうから驚いたよ。」

 そういって差し伸べられたのは古賀さんの大きなてのひら。がっしりとしていて、熱かった。

「はい!急にご連絡してしまってすみません。少し気がはやりすぎました」

 古賀さんの言葉にも見受けられるが、今は3月。具体的には桜が咲くか咲かないかぐらいのころで…。

「こうして一人の人間同士お話するのは初めてやね」

「いつもは常連と行きつけのお店の店長さん、という関係でしたから」

「そうやね」 

苦笑する僕に、微笑みを浮かべ首肯する古賀さん。

「本題に入ろか。履歴書には…都立高校に入る、と書いてあったんやけど許可のほうはどうするん?都立やと普通に親御さんとか学校側の承諾が必要やけん」

「いえ、まだ正式入学は4月入ってからなので…学校には許可をもらってくるので、詳しくはLIN〇(誤字じゃないよ。みんな知ってる緑色と吹き出しのアプリ)で後日ご連絡させてください。」

「了解、じゃあ次行くよ。あゆむがこの仕事をしたい理由は?」

「俺は、このお店に憧れ続けてきました。俺がはじめと出会ったのは、僕がまだ物心ついたばかりの頃でした。親父に手を引かれお店に訪れた俺が初めて食べたあの、めっちゃ熱くて、バリカタの麺に、クサくないのにコクがガツンと舌の上で主張する、でした。あのラーメンこそ、この浅草店のでした。さらに店員さん全員が親切なこと、カッコいいBGM、おしゃれなお店の内装。このお店のすべてに幼い頃の僕は目を輝かせました。」

古賀さんはうなずきつつ、俺の目を見つめ話を聞いてくれている。

「だからこそ、俺は浅草店を、僕の憧れを、このお店に訪れた一人一人に伝えたいんです。」

そして古賀さんは口を開いた。

「そうやね。ただ、すべての人に100%のものが出せるということは、ざんねんやけど、ないね。マザーテレサの言葉も同じようなことを言っとるんやけど、僕は出会った人が全員、お客さんや従業員関係なく、お店のドアを引いて出るときに最高の気分になれるように、来た時よりもいい気分で出れるように努力しとる。それでも、かなわないことがあるけん。その、ままならないことをいかに減らすか、それは僕の両の肩にかかっとる。でも、歩がこのお店に仮に入ってくれたら、歩がこの店を去る時まで、僕は必ず同じ努力をし続ける。お前をいっぱしの人間にするけん、ついてこい。」

「はい、必ず、必ず…!」

気づけば古賀さんの言葉に、目頭が熱くなっていた。俺は、この人についていこうと己に誓った。

「よろしくお願いします。俺を、いっぱしの人間に、この店の店主に、育ててください。俺の師匠に!なってください…っ!」

「うん。ええよ。んじゃまずは来週、アルバイトの登録をやるけん事務所まで来て。よろしくな、歩」

そういって再び俺は古賀さんと握手をした。二度目の握手は、さっきよりももっと熱を帯びていて…俺の交わしてきたものの中で一番情熱に満ちていて…。

ここに、俺にとっての初めての師弟関係が結ばれた。これは、古賀正義という師との邂逅だったのだ。

















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