005 ドタキャン

 休日の次の日、リナは観念してカオルからの仕事を受けた。最初は待ち合わせをして彼女の家に入ったが、その次からは直接来て勝手に入ってから、好き放題してから犯して欲しいと言われて言う通りにしてきた。

 そのついでに高そうなおやつを食べたり、高そうなワインをスクバに詰めて持ち帰ったりもしているので、リナ自身あまり強くはいえないのだが、相手の性欲が強すぎた。

 だからとうとうグロッキーになり、休日を挟んでの仕事である。さて溜まった性欲はどう爆発するのか?

「いっそモデルガンと称して銃振り回して強盗劇でも……ん?」

 マンションにあるカオルの部屋の前につき、指示通り無断で開けようとしたのだが、中から話し声が聞こえたために、リナは伸ばしかけた手を止めた。

「なんだろ?」

 一回首を傾げてから、リナは扉に耳を当てて声を拾おうとした。どうやら電話をしているようで、カオルの声が一方的に聞こえてきた。

「こういう時耳がいいと助かっちゃうな~なになに」

 聞こえてくる単語を適当につなげて推測しようとするも、分かったのは誰かがカオルに会いたいだの会いたくないだのの押し問答位である。

「やっぱあの写真の男かな~っと!」

 リナは慌てて扉から耳を離し、廊下の端に音を立てないようにして逃げ込んだ。スクバから化粧用の手鏡を取り出し、鏡面を使って角に隠れながら様子を窺う。

「うわぁ……めっちゃ周り見てるぅ」

 電話を終えたのか、部屋から顔を出したカオルが、廊下の端々まで見渡している。幸いなのは光の反射等で、鏡で覗いているリナに気づかなかったことだろう。

 少しして、まだリナが来ていないと考えたのか、カオルは部屋に戻っていった。

「さてと、これから……ん?」

 丁度その時、リナのアップルフォンが鳴った。メールらしく、開いてみるとなんとカオルからだった。

「『場所を変えたい。今どこ?』か。……さて、どうしようかな~?」

 一先ずリナはメールを出してから、駅前に先んじて戻ることにした。ここかマンションのエントランスで待って、僅かでも盗み聞きされたと疑われるよりも、一度離れていた方が余計な誤解を生まなくて済むと考えて。




「元婚約者?」

「そうなのよ。もう会うつもりがないと思っていたら、いきなり向こうから電話が来て困っちゃったわ」

 合流した二人は現在、初めて会った時と同じファミレスに入っていた。ドリンクバーで適当に持ってきた飲み物を口に含みつつ、カオルの口が動いている。

「彼、両親の借金のために働いていたんだって。それで今迄連絡一つ寄越さなかったって……あ、ごめんなさいね。リナちゃんに話しても仕方ないのに」

「別にいいですよ~。なんなら仕事代わりに話聞きますし」

「ごめんね。いつも通り払うから」

 リナの了承を得て、カオルは話を続けた。

「それで彼、タチの悪い闇金業者に借用書を買い取られたせいで、利子の支払いすらままならなくなってしまったのよ。貯金もあるから建て替えようかとも言ったんだけど、頑として聞いてくれなくて、喧嘩になっちゃったのよ」

「それはまた、大変ですね……」

 金額自体は分からないが、カオルが払うと言ったのならば、払いきれるのだろう。今日、リナにも払うということは、余裕すらあるのかもしれない。

 それでも、喧嘩になった以上彼女達はどうするのだろうか?

「一応、彼には明日の朝会う約束はしたけど、私、どうしたらいいのかしらね……」

「カオルさん……」

 リナは言葉をなくした。いや、そもそもこんな時に何を言えばいいのかが分からないのだろう。たとえ働いていたとしても、所詮は非合法の援助交際で身体を売る、頭の軽い未成年でしかない。

 だからリナには分からない。何を言えばいいのか、どうすればいいのか。

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