003 事後
「ああ……つっかれた~」
もうすぐ夜が明ける時間帯になる頃、リナは裸のままベッドの上で上半身を起こした。
晒された身体に構うことなく、隣で寝ているカオルに意識を向ける。ただでさえ慣れないプレイで疲れているのか、完全に眠りに落ちていた。
「しっかし、これからどうすっかな~」
二人がいるのはカオルが購入した分譲マンションの一室である。明らかにファミリー向けなのにもかかわらず、その広い部屋の中で縦横無尽に行為に及んでいたのだ。リナの体力も限界に近い。
「……人に弱みぶつけるなってのよも~」
ベッドボードに置かれている写真立てに八つ当たりするように、リナは毒づいた。
カオルは確かに女が好きなのだろうが、実際はバイセクシャルだった。いや、同性愛者だが異性との付き合いを機にやめていたのが、男が消えたために元に戻ったというところだろう。しかも何らかの反動があったのか、非現実的な官能に憧れていた節もある。
「……ま、いっか」
それでも仕事は仕事、そしてもう用はない。そう考えて下着を身に着け、服を着始めたリナの背中に、声がかかった。
「せっかくだし、朝食食べてかない?」
「やめときます。家でペットが待っているので」
「あら、そうなの」
振り返ったリナが見たのは、ベッドの上で頬杖をつき、静かに見下ろしてくる大人の女だった。ただし、その瞳はどこか暗く、答えによっては何をしてきてもおかしくはない。
そう思わせる眼差しにも、リナは無頓着に返した。
「ええ、だから早く帰らないと」
「そう……じゃあ、またお願いね」
リナは手ぶりだけで挨拶し、カオルの家を辞した。しかし、もう二度と訪れることはないだろう。
マンションを出てから、朝靄で視界の霞む街中を歩く。帰路に着く身体を押しながら、リナは周囲を警戒しながら進んだ。
「ああいう手合いって、いざとなったら、欲しいものは力ずくなんだろうな~あ~やだやだ」
それがリナの恐れている事態だ。
以前の男と何があったかは知らないが、そのせいで欲望の矛先がリナに向くということは、独占欲で縛り付けてくることも十分ありえる。
「とりあえず仕事は慎重に選ぼっと。お金も入ったし、一回寝たらクロ連れて服を買いに……」
常に気を張っていても疲れる。
本能的だがそれが理解できているリナは、楽しい予定を思い浮かべて家路についた。面倒なら断ればいいと考えながら。
……そう思っていたが、実際には甘かった。
「……ねむ」
一週間で四回目となるカオルとの仕事終わり、帰りに缶コーヒーを呷りながら、リナは眠気を堪えていた。
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