三代目きづち野郎の日常と秘密

まっく

きづち野郎の存在意義

「我々がこの世に存在出来るのは、きづちを手にしているからである!」


 私が祖父や父から何度も聞かされている言葉だ。


 戦闘はもちろんのこと、ねぐらを造るのも、食料である木の実を採集するのも、きづちを使う。書物を書き記すのも編み物をするのも、きづちのを使う。


 言い換えれば、きづちが無いとほとんどのことが出来ない。


 おかげで我々一族は、他の魔王軍の魔物から「きづち野郎」とか、「おお、きづち君じゃないか」なんて揶揄されている。


 我々は駆け出しの冒険者しか相手に出来ない最下級の魔物だ。

 ひと昔前までは、それでもある程度の成果を上げられていた。ろくに準備もせず旅立つ冒険者も数多くいて、充分とは言えないものの、我々の存在意義は少なからずあったのだ。


 しかし、近年情報を効率的に集められる手段が発達し、魔王軍のデータが冒険者間で容易に交換される事態になっていた。


 さらに、転生や召喚が神の世界でトレンドになって、より強大な力を持つ冒険者や、特殊な能力を有する冒険者が、この世界に現れるようになった。


 魔王軍の魔物は、すべて魔王様の魔力によって産み出される。

 今や我々一族を含む最下級の魔物は、冒険者に経験を与えるだけの存在に成り下がり、魔王軍の幹部から、以前にも増して不要論が噴出していた。

 魔王様の貴重な魔力を無意味に消費するだけの存在だと。


 そこで私の祖父は立ち上がった。

 冒険者駆除数の功績で魔王様より勲章を賜った経験のある祖父は一線を退き、そして、一族が生き残る方策を見つけ出した。


 それは最下級の魔物スカウターとしての役割の確立だ。

 冒険者に経験を与える代わりにデータ収集を行い、魔王軍に還元することで生き残る道を切り開いたのだった。

 結果、多くの種族が整理されずに済んだ。

 それなのに、いまだに「きづち野郎」とか揶揄されるのは、私としては納得いかないのだけれど、祖父は「そこに愛はある」と意に介さない。大人になればわかると言うのだが、本当にそうなのだろうか。

 我々一族にとって、命と同じくらい大切なきづち。だから、きづち呼ばわりされるのは悪くないんだけど。でも、複雑な気持ちになってしまう。


 その初代スカウター隊長に任命されたのが、私の祖父で、現在、その任務を引き継いでいるのが父だ。

 なので、私はみんなから三代目と呼ばれている。

 まだ正式に任務を引き継ぐとは決まってないのだけれど、我々一族のすべての職業は世襲制なので、例え一族の中で歴史の浅い職業だとしても、誰もそれに異議を唱えたりはしない。


 だから尚更、私はみんなが納得するような三代目にならなくてはならない。

 父は誰よりも強くあろうと努力し、今では一族から絶大な信頼を得ている。

 私が父と同じだけ努力しても、父に追い付くことは絶対に出来ない。

 だから私は色々なことを思考する。

 それが一族の信頼を得る為の鍵になると思っている。


 もちろん父以上の鍛練は必須条件だ。

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