a scene〜僕と山本さんの○○生活〜

リヒト

scene1 玄関先で迷子?

 なんで?

 

 呼び鈴が鳴り玄関の引き戸を開けてから、心が発した第一声だ。

 

 夏の日差しの中に、見知らぬ美少女が立っていたからだ。

 

 まだ幼さを残した大きな二重の目、髪はブラウンのショートボブ、品の良い空気をまとった、かなり控えめに言っても超美少女だ。

 水色のノースリーブワンピースから伸びる白い腕、すっとした脚の先にはオレンジ色のスニーカーを履いている。

 

 一目見られただけでラッキーと、何かしらの運を使い切ってしまうような可愛い系美少女。

 そんな女の子が、良く言えば味のある、普通に言えば古い日本家屋の玄関先に立っていた。

 

 ……超絶可愛い美少女です。

 大事なことなので、もう一回繰り返してみました。

 

 いや、わかっているよ、僕の語彙が少ないことくらいでも一万人が見たら一万人とも同じように思うと思う。と思う……。

 

 鳴いているセミの声も遠くにやってしまうくらい、僕はまじまじと顔を見つめ続けてしまっていた。

 

「わたし何か間違えていましたか?……えっと……こんにちは?」

 

 あ。

 そうだ。

 挨拶をしてくれたんだから、返さないと。

 

「こ、こんにちは」

 

 ……普段は反射的にしているような挨拶もできないくらい、見とれてしまっていたのでした。

 

 明日から二学期を控え、宿題もきっちりと平均点狙いで仕上げ終えている。

 順調にやることを全てこなし終え、バイトも入れなかった高一夏休み最後の日の午後三時。

 まさに予定通り自分のご褒美デイ。

 

 そんな日に急に目の前に美少女が現れたというのが今のシチュエーションですよ?

 僕なんかヨレヨレの黒地のTシャツに皺だらけのカーキの短パンという油断しっぱなしの格好ですよ?

 平々凡々にだらだらと心地よく過ごしてた夏の日の午後に、急に美少女があらわれたのですよ?

 

 どう対応すればいいんだろう?

 

 そもそも、何のためにこんな古ぼけた平屋の、僕の家の呼び鈴を鳴らしたんだろうか?

 

「えっと、失礼ながら、どちらさまでしょうか?」

 

 良かった。

 僕は続けて質問できるくらいの普通さが戻ってきているみたいだ。

 

 すると、

「どちらさま?わたしはそんな様をつけられるような身分ではないですー」

 と、ちょっと変わったイントネーションで返答があった。

 

 ん?今のどういうこと?

 

「わたしは、山本ありすと言います。すずさんはいらっしゃいますか?」

 

「すず?ですか?」

 

「そうです。鈴木すずさんです」

 

 祖母の知り合い、なのか?

 どう見ても高校生とかにしか思えないんだけど?

 

「ああ、祖母ですか。二年ほど前に他界しまして……」

 と、言うとすぐに、

「高いしましたか?東京タワーに行きましたか?」

 と、返ってきた。

 

 って、なに?今なにが起きたの??

 

 一瞬、間を空けてしまうと

「ああ、今はもっと高いですか?スカイツリーですか?」

 と続いた。

 

 スカイツリーの発音はネイティヴ感ばりばりで、服装もおしゃれで今風ではあるけど……。

 内容は古典的なボケ。

 なのかな?

 

「え?」

 

「すみません……何か間違えていますか?わたしはずっとイギリスにいて久々に今日帰ってきたもので、難しい言葉がわからなくて」

 

 なるほど。横の白いスーツケースはそういうことか。

 

「ふむ、そうですか。えっと……他界したというのは亡くなったという意味です」

「無くなったのですか?落としましたか?」

 

 なるほど、なかなか難しいものだ。

 

「ストレートに言いますと、亡くなったというのは、死んだということです」

 と、もともこもない言葉にしてみる。

 

「ああ、そうでしたか……。すみませんでした……。それは悲しいですね……。そしてわたしは困りました……」

 

 ここでまた見とれてしまう。

 美少女は困った顔でも美少女で。

 むしろ美少女度が増すというか、新たな魅力というか。

 

「わたし、実は母とすずさんとの約束を頼りにやって来たのです」

「ふむ、約束ですか?」

「そうです。わたし、今日からすずさんの家に住まわせてもらうのですー」

 

 うん?

 

 さっきから何だか「?」ばかり使っている僕は、自分の家の玄関で人生の迷子になっています。

 

 

 

 

 

 神さま、お天道さま、僕の答えはどこに行けば見つかりますかー?

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