第7話 いくさ船が足らない
その頃、海峡向こうのフランキは海を越えた北への版図拡張戦争の準備を進めていた。
ピオニアも、レーニアも船団のメンテナンスと新船の建造に一ヶ月近く忙しかった。
小型船で湾や潮の急流に誘い込み取り囲んで敵船をつぶすのがレーニアの戦闘法だが、海賊船ならまだしも、対フランキとなると敵の注意をそらす頑丈な大型船の必要を感じた。
しかし、国内には使える大木は少ない。海風にさらされ、まず真っ直ぐな木が少ないのだ。メルカットのルーサーに材木を注文すると「ただでわけてやる」だの、「船はメルカットで作る」だの云いかねない。
「木のない島国では今後も立ち行かないだろう、さあわが腕の中に」と云われるのは目に見えている。
気候も似ており、海洋国家という点でも共通しているサリクトラに書状を出すべきだろうか?
「木材はわが国でも貴重な資源、そうやすやすとは」というサリウの渋い顔が目に浮かぶ。
パラス、ジャレッド、ラドローの国々は実をいうと訪問したこともないので木材事情がわからない。
顔を見て話すのが一番と次の「聖なる燭台会議」に向かった。
「覆面殿!」
ジーニアンが聖なる燭台の広間に入るなり、パラスが大きな体躯を揺さぶりながら近づいてきた。
「私は城下で病痕の残る子供を抱いて練り歩きましたぞ。国民たちも少しずつ慣れて何が危ないか理解し始めました。医師たちも貴国の研究には感嘆すること頻りで。王宮からはガーゼやシーツの支給を行い、患者は着実に減っています」
「あなたのその勇気の賜物です」
因習にうち克つパラスの剛さにジーニアンも心を打たれた。
弟が病気になっていなかったら、自分は伝染に怯え、パラスのようには雄雄しく行動できなかったと感じた。
皆が席につくと珍しくサリウが口火を切った。
「恥ずかしい話なのだが、わが国では船を造る木材が足りない。フランキとの開戦に備えてゆえ、できる限り良質なものを安く大量に都合したい。ついてはジャレッドかラドローのところで木を見せてもらえないか?」
「レーニアからもお願いする」
ジャレッドは、今日は機嫌が悪いらしい。
「オレたちは聖なる燭台の騎士だよ、木材の斡旋屋じゃない。どうも覆面さんが来てから威勢の悪い話ばっかで陰気でしょうがない」
「おいおいジャレッド、海戦で船がないのは陸上戦で馬がないってこと以上に重大だぜ。陸の上なら馬から落ちても歩けるが、海の上じゃ沈んでいくしかない」
ラドローがくさる若者をたしなめた。ジャレッドの国はサリクトラとランサロードに挟まれた内陸で、海岸線はない。
「うちの杉やひのきでいいなら使うといい。値段のことまではわからんから材木屋同士で話をつけさせよう」
ラドローが軽く請け合う。
「かたじけない」
低姿勢なサリウは珍しい。
「ランサロードは遠い。サリクトラの西岸は貴国と地続きで海岸線を分ける仲、海路もすぐだが、うちまでとなると運べないだろう。いかだ状態でサリクトラ岬を越えられるとは思えない。申し訳ないがレーニアとしてはランサロードで船を組上げたい。小さな港と人足を数名、木材とあわせて使わせて欲しい。対フランキにもレーニアで造るより目立たなくて都合がいい」
昨晩考えあぐねたピオニアの苦肉の策だった。
「わかった。覆面殿も一度遊びに来られるがよい」
「遊んでいる暇はない」と仮面の下で呟いた。
休憩中にサリウが詰め寄ってきた。
「どういうつもりだ。貴国にとって造船技術はトップシークレットではないのか? 他人の国の木を使うだけで何が起こるかわからんのに、人足まで使うのか? 狂気の沙汰だ」
「サリクトラで造ろうとは思わん。技術を盗む知識があるからだ。ランサロードで誰に見られようとレーニアをしのぐ船はつくれん。それだけだ」
自分は覆面ジーニアンだ、と心を固くして答えた。
「急いでいるな」
「お互い様だ」
「あと二ヶ月ないだろう」
「ああ」
サリウの冷厳さには脱帽だ。時間と人手があれば大事な船、自国で造るにこしたことはない。
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