第5話 そして十五年後……
あれから、十五年の月日が流れた。
四十五歳になった源太郎は、それまでの日々のトレーニングのお蔭でがっちりした男らしい体格になり、毎日規則正しい生活を送っていたため、それまでの部屋に引き籠もってゲームやネットだけの生活をしていた頃とは違い、血色も良くとても健康的になっていた。
髪型も落武者から虚無僧になり、日夜の筋トレのお陰でガチッとした身体つきになった源太郎は、魔法少女とは程遠い、一見カッコよくすら見えるマッチョなイケメンになってしまっていた。
その所為か、突然同じコンビニでバイトしてる女子高生や常連の女性客からメールアドレスを渡されたりすることが何度もあった。
しかし源太郎は節約の為、携帯電話は持っていなかったし、パソコンを起動する事もトレーニングをする時間を作るため殆ど無くなり、そういうものは全て結果的に無視をする事になってしまっていた。
その行動が、あの人は『クール』でカッコいいと逆に評判になってしまい、源太郎の知らない所で増々女性人気を獲得していた。
だが、源太郎はそんな事になっている事なども全く意に介せなかった。
とにかく、『魔法少女テリーヌ』になる、その一心で毎日ひたすら努力をした。
――そして、遂に一億円を貯めたのだ。
源太郎は通帳の残高を確認し、あの秋葉原の店に行くために郵便局で預金を全て引き出してきた。
それが今、目の前にある札束である。
源太郎はその一億円をカバンに詰め、秋葉原のあの店へ向かうために颯爽と家を出た。
十五年振りの秋葉原は、源太郎が知ってた頃の街とはすっかり様変わりしていて、最早全く知らない街も同然であった。
しかし、あの店の場所だけは正確に記憶していたので、迷わずにあの店に足を進めた。
そこに向かう途中で源太郎は、今までに努力してきた事を思い返し、その達成感で大声を上げて泣き始めた。
泣きながら歩いている最中も、後から後から溢れ出る涙を止めることが出来ず、鼻水まで一緒に凄い勢いでドバドバ垂れて来ていた。
ぱっと見イケメンだったが、スキンヘッドのがっちりした男が、顔中をくしゃくしゃにして大量の鼻水を垂らして泣きながら歩く姿は、とても異様なもので、彼の周りには誰も人が近づかなかった。
そのまま暫く泣きながら歩き続け、『あの角を曲がれば、あの店が見える』、と言う位置まで来た時、源太郎はその歩みを止めた。
「ボクは……ボクは馬鹿だ! このまま、この金をあのお婆さんに渡しても『魔法少女テリーヌ』になんかなれる訳がないじゃないか! そんな都合の良い話がある筈がない!!」
その店まで、ほんの目と鼻の先までやってきて、源太郎は自分の馬鹿さに加減に嫌気が差すほど呆れた。
このまま店まで行き、一億円を渡しても、魔法少女になれる事はないと、この瞬間まで気が付かなかったのだ。
毎日ひたすら働き続けて貯金をし、寝る間も惜しんで特訓を繰り返すだけの日々で、誰でも気がつく当たり前な事を見落としていたのだ。
「何でこんな子供でも分かる様な事に、ボクは気が付かなかったんだ……」
源太郎はその場で倒れこみ、四つん這いになってアスファルトを何度も叩いた。
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