目玉焼き

 香月と共に、5分ほど歩いた頃。ようやく家までたどり着くことができた。

 スマホを見ると、時はもう既に21時。

 小学生は寝る時間だ。

 そんな時間に帰宅とは、ふふ。高校生とは偉いもんだな。

 なんて、小学生相手に優越感に浸りながら、俺は家の中へと入っていく。

「お、お邪魔します」

 同時に、香月の緊張した声が聞こえる。

「なに沙也。緊張してんの?別に、自分の家と思っていいからね。って言うか、ここに住んでいいからね」

 そんな、若干重い台詞を軽いノリで吐く姉貴。

「というかさ、ずっと気になってたんだけど姉貴と香月はどういう関係?」

 俺は、当初から気になっていたことを単刀直入に聞いてみた。

「関係?まあ、先輩と後輩?」


「いや、もっと具体的に」


「具体的にって言われても、まあ、友達みたいなもんよ。な?沙也」

 そう言って、同意を求めるように香月の方を見る姉貴。


「そうですよ。天谷先輩は友達です」


「あっそう。それじゃあ、まあ、適当にくつろいでくれ」

 そう言って、俺は自分の部屋がある二階へと上がっていく。



* * * * * *

 

 久しぶりに感じる、穏やかな家の香り。

 久しぶりに感じる、家族の香り。

 こんなに清々しく、玄関で靴を脱げるのはいつぶりだろうか。

 いや、初めてと言っても過言ではない。

 こんなに、静かな家の雰囲気。

 これが、みんなが言う普通ってやつなのかな。

 これが、普通の家庭なのかな。

「沙也。お腹空いてるでしょ?何か作ってあげようか」

 呆然としている僕に、天谷先輩は優しく声をかけてくれる。

「え。気付いてたんですか?」

 お腹が鳴るのを必死に我慢してたつもりだったんだけど。

「うん。やっぱり沙也は、嘘が下手だねー。多分、翔も気付いてたと思うよ」

 そう言いながら、うふふと上品に笑う天谷先輩。

 翔って、さっきも天谷先輩が言ってたな、まあ恐らく、村人Fの名前だろう。

 翔って言うのか、天谷先輩の弟ってことは天谷翔か、なんか、見た目と同じでカッコいい名前だな。

「ほら、作ってやるから、なにが食べたい?まあ、簡単なものしか作れないけど」


「じゃ、じゃあ、め、目玉焼きが食べたいです」

 俯きながら、必死に照れを隠して僕は言う。多分、今の僕の顔は真っ赤だ。


「目玉焼き?いいよ、作ってあげる」

 そう言って、天谷先輩はキッチンへと向かう。

 長く伸びた金髪を結び、可愛いピンク色のエプロンをつける。

 フライパンを温め、冷蔵庫から卵を取り出す。

 まるで、子供に料理を作ってあげる母のように見えた天谷先輩に、僕は少し感動を覚える。

「ほら、テーブルに座って待ってて」

 呆然と天谷先輩を眺める僕に、天谷先輩は優しく声をかけてくれる。

「は、はい」

 そう言って、僕はキッチンのすぐそばにあるテーブルの椅子に、腰を掛ける。

 キッチンから聞こえる、ジューという音が僕の耳の中で響く。

 



 

 

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