コンビニ

 姉貴との帰り道。音山と分かれた道から三分ほど歩いた俺たちは、目的地のコンビニへとたどり着いた。

 駐車場にも車は止まっておらず、コンビニの中にも、それほど人がいるようには思えない。

 俺は、スキップしながらコンビニの中に入っていった姉貴を追いかけるように、コンビニの中へと入っていく。

 自動ドアが開き、俺はゆっくりと顔を上げる。

 真っ先に見えた、レジに見知った人物がいることに気付く。

 別に、それは姉貴ではない。いや、っていうか、一ノ瀬静音だった。

 黒色のジャージに、ファスナーが開けられ、中に着ている白地のシャツが見えている。

 ってかあいつ、いっつもヘッドフォン付けてんな。現に、今もつけてるし。

 いや、つけてると言うよりかは、首にかけてるって言ったほうが正しいか。

 そんなことを思っていると、レジを終えた一ノ瀬がこちらの方に歩いてくる。

 どうやら、俺には気付いていないよう。

 耳に、ヘッドフォンをつけようとしたとき一ノ瀬の瞳が俺を捉える。

「「あ」」

 二人の声が、綺麗にハモる。

 後に、お互い見つめ合っての沈黙が続く。

 何故だろうか。とても短い間のはずなのに、とても長く感じる。

 まるで、時が止まったかのように。

 肩にも届いてない短い髪に、男らしいつり上がった目。

 その一つ一つが、鮮明に瞳の中へ入っていく。

「なにしてんの?」

 一ノ瀬をじっと見つめる俺に、まるで、時を止める魔法を解除したかのように話しかけてくる一ノ瀬。

「え。いや、別に、何も」

 我に帰った俺は、少し戸惑いながらも返答する。

「あっそう。なら、いいけど」


「それで、お前も何してんの?」


「ん?私は別に、買い物に来ただけ」

 明後日の方を見ながら、そう言う一ノ瀬


「まあ、そりゃ、コンビニ来る用事なんて買い物しかないだろうけど」

 そう言った俺は、もう一度一ノ瀬の方を見る。

 すると、どこか焦ったような表示を浮かべ、心なしか額にも汗が見える。

 

「あ、ああ。それもそうだな。じゃ、じゃあ、またな。明日、学校で」

 より一層、焦った表情を浮かべながら、早足気味でコンビニから出て行った一ノ瀬。

 なんだったんだ。

 すれ違いざまに見えた、レジ袋の中には、おにぎりやサラダなどが入っていた。

 朝ごはんとかなのかな。そんな風に、俺は予想を立てる。

 まあ、気にしてもしょうがないか。俺も、さっさと買うものを選ぼう。

 そう思ったその時だった。ポンと俺は、誰かから肩を叩かれる。

「ほほー。もしかして、あれが翔の彼女?」

 俺は慌てて振り返るとそこには、ニヤニヤしながら俺を見つめる姉貴がいた。

「んなわけねーだろ。ってか、さっき彼女はいないって言ったし」

 やれやれと、姉貴の手を払いながら俺は答える。

「ふーん。でも、あの子とはなんかお似合いだったけど?」


「は?」

 さっきよりも、数段声のトーンが真剣になった姉貴に、俺は少し驚いてしまう。

「ってかあの子……。ああ、そういうこと。はは、運命ってすごいねー」

 一ノ瀬が出て行った出口の方を見ながら、姉貴は何かが分かったような顔を浮かべる。

「何言ってんの?」

 姉貴の言葉が、全く理解できなかった俺は、間髪入れずに聞く。

「ふふ。今はまだ教えられないさ。その時が来たら、きっと思い出すよ」

 そう言った姉貴は、優しい笑みを浮かべながら、俺の頭を撫でる。

「ちょ。やめろよ恥ずかしい」

 頭を撫で続ける姉貴の手を払いながら、俺は言う。

 なんだろうな、将来、姉貴を敵には回したくないな。

 そう思った夜。コンビニの入店音と共に、俺と姉貴はコンビニを後にする。

 腕には、姉貴が買ったアイスと、俺が買った肉まんが入った袋を、それぞれかけている。

 さてと、これでやっと帰れる。そう思ったのも束の間。通りかかった公園から、一人の少女の声が聞こえてくる。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る