屋上で

 時は流れ六月。

 制服も冬服から夏服に変わり、段々と夏が近づいてきていることを実感させられる。

 俺が通っている学校は、制服の上からパーカーを着ることが許されているので、俺は多少の寒さ対策として、黒のパーカーを着て登校している。

 ほんと、この学校の校則ゆるゆるだよな。

 最近では、ブラック校則と言って、厳しすぎる校則が若干の社会現象を起こしているが、うちの高校はそんなのもろともしない。

 むしろ、ホワイト校則。ホワイトすぎてホワイトスクールと言っても差し支えないだろう。いや、あるか。


 そんな、くだらないことを考えていると、あっという間に学校へとたどり着く。

 校門を抜け、昇降口にたどり着くまでに、たくさんの生徒とすれ違う。

 バラバラの足音に、のべつまくなし耳に入ってくる話し声が、俺の中のストレスへとうって変わる。

 やっぱり、このガヤガヤしてる感じは苦手だ。

 俺は、ストレスしか生み出さない空間を早く抜け出そうと、少し早歩き気味に靴箱へと

いく。


 そそくさと、靴から上履きへと履き替えて、俺は遠い遠い自分のクラスへと向かう。

 手を、パーカーのポッケに入れたまま、俺はノンストップで階段を上っていく。

 階段までくると、さほど人は多くなく、階段を上る、自分の足音がしっかりと聞こえる。

 3階まで上れば、目の前に俺の教室の二年一組へとたどり着く。

 扉を開けて、教室の中へ入ると、もう既に殆どの生徒が登校しており、さっきの校庭と同じようなガヤガヤ感が場を支配していた。

 そんな教室に、若干のイライラを抑えながら、俺は自分のせいへと向かう。

 窓側の一番後ろ。

 学生誰もが憧れる席を、俺は勝ち取っている。

 ほんと、この席は最高すぎて最&高。

 俺は、机に今日使う道具を入れ、教室から出ていく。

 流石にこの空間に、長居はできない。

 ホームルームが始まるまで、あと15分ほどある。


 そんな俺がむかったのは、端の扉を開けた所にある、非常階段。

 廊下にたまる人混みを、綺麗に通り抜け、俺は非常階段へと続く扉を開ける。

 開けた瞬間に来た、強めの風に驚きながらも、俺は非常階段をゆっくりと上っていく。

 一段一段上がるたびに、結構遠くまで響いてそうな金属音が鳴る。

 なんだこれ。久しぶりに上ったけど、こんなに音響いてたか?

 この金属音、あまり好きじゃないんだけど。

 そんな、不快感に耳を押さえながら、俺は非常階段を上り切り、屋上へと辿り着いた瞬間だった。

 ビューと強い風が空を舞う。

 俺の視界に映ったのは、一人の少女だった。

 長く伸びた金色の髪が、綺麗になびいている。

 それを、抑えるように、しっかりと包帯が巻かれた腕を、頭にやる。

 その腰には、パーカーが巻かれている。

 そして、その少女。いや、香月沙也は泣いていた。

 横から見ても分かる、綺麗な青色の瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちていた。

 その悲しい涙を、その悲しそうな顔を、俺は見たことがあった。

 そして、俺の脳裏に一つの言葉が過ぎる。


「あんな家族が、欲しかったな」

 この言葉に、どんな意味が含まれているのか、俺はわからなかった。

 でもそれは、例えば可愛い妹が欲しいとか、かっこいい兄が欲しいとかいう、そんな薄っぺらい意味ではないことは分かった。

 多分、あいつは俺と同じだ。

 根拠や自信なんてないけれど、そんなふうに思える。

 あいつも、俺と同じように、家族がいなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

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