家族。

 カランコロンカランという音とともに、俺たちはカフェから出て行く。

 少し前まで、鬼のようにいた人も、今では少し落ち着いてきて、思いっきり体を上に伸ばすことができるくらいの余裕ができた。

「それにしても、けっこう話したなー。今何時だ?」

 一ノ瀬は、そう言いながら、さっそく体を伸ばす。


「えーっと。5時40分……ってもうこんな時間!?」

 スマホを見ながら、驚きの声を出す真彩。

 5時40分か、思ったより時間が経ってるな。冬なら小学生は帰らなきゃ行けない時間だ。

「え?5時40分!?それまじですか!?」


「まじだけど、若菜ちゃんなんかあんの?」


「えっと、今日ゴールデンウィーク最後なんで、家族みんなでご飯を食べに行くことになってるんですよ!」


「家族でご飯ねー、一人暮らしの私たちからしたら羨ましい限りだな」

 一ノ瀬はそう言い、藍倉を遠い目で見ながら微笑む


「それで、私6時までに帰らなきゃ行けないんですけど……」



 「えっ!?でも、もうあと20分しかないよ!?大丈夫?」


「走ればギリギリ間に合うかもです!なので、私はこれでおさらばさせていただきます!」

 藍倉はビシッと敬礼しながら、俺たちに一つお辞儀をし、走って出口に向かっていく。

 

「足はえーなー」

 一ノ瀬は、額に手をかざし、もう既に出口から外に出て行った藍倉の方を眺めながら言う。

「中学のころ陸上部だったらしいよ」

 それに、付け加えるように真彩は言う。


「通りで足が速いはずだ」

 一ノ瀬は、どこか関心を見せながら言う。

 それにしても、藍倉が陸上部だったとわ、見る限り体とか小さかったし、どっちかっていうと運動苦手そうなタイプだと思ってたんだけど、実際、さっき見た走る姿も素人目から見てもとても綺麗だったし、足も早かった。

 やっぱり、人を見た目で判断しちゃダメだね。

「それで、俺らはどうする?」

 俺は、真彩たちより一歩前に出て、振り返りながら言う。


「正直疲れたから、私は帰りたい」

 真彩は、ぐてーとうなだれながら言う。

 なんか、真彩見てたらこっちまで疲れてきた。

 と言うか、溜まってた疲れに気づいた。

「それには同感。時間も時間だし、もう帰ろうぜ」

 一ノ瀬は、手に持っていたギターケースを肩にかけながら言う。


「私たちは帰る気満々だけど、天谷は……聞くまでもないか」

 真彩は、俺の顔を見ると、何かを悟ったような表情をして、そう言った。

 きっと、俺も帰りたがってることが、顔を見て分かったのだろう。

「まじで、疲れた。はやく帰ろう」

 俺は、額にかいた汗を拭いながら言う。


「よし、じゃあ帰るか」

 そう言って、一ノ瀬は歩き出す。

 俺と真彩も、それにつられるように歩き出す。




 

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