9 私の話
膠着していた事件は収束していく。雑木林の遺体の身元を突き止めると、容疑者の男が全てを認めたからだ。
自動車で女を轢き、焦って車のトランクに詰めて、近くの雑木林に向かった。春日町に長く住んでいたこともあり、土地勘もあった。見つけにくい場所まで、女を背負って歩いたという。
耳元でタスケテという声を何度も聞いた。それが怖くて仕方なかった。どうしようもなく。まだ息をしていたかもしれないが、恐怖で女の体に土をかけて、逃げた。タスケテという声が今も耳に残っている。反省よりも恐怖を語り続ける犯人に同情の余地はなかった。
私とヒビキの物語はここで終わる。あとは刑事と鑑識の仕事だ。
私は幸運な男だと揶揄されながらも、二つの事件を解決した男としてヒビキとともに表彰された。
これはのちに、刑事の友人から聞いた話だ。
遺体の女は二十九歳の細川友里という。親との縁も薄い、一人暮らしの女性だ。自宅のものは最低限しかなかった。女性としては殺風景にも思える部屋だった。しかし、断れなかったのか、読んでもいない新聞の束が玄関の下駄箱の上に積まれていた。一番上は派手なスーパーのチラシだったらしい。
「チャオチュールの特売日でしたよ」
「なんだ、それは?」
私が尋ねると、猫が直接袋のチューブから食べるエサだという。
それを聞き、捜索班が訪れていたときには消えていた、少女の抱えていた猫の話をした。すると、友人は驚いていた。部屋には猫の写真が何枚か飾られていたという。
「まさかな」
ヒビキの顎を撫でてやりながら、私はまた訓練に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます