弟子と師匠08
この砂漠には、毒をもったサソリが生息している。
だから、踏み入れる者は、必ず毒消しの薬を持っていなければならない。
セルスティーも自前の薬を所持していた。
けれど、脱走してここまでやってきた少年には、薬を調達するすべがなかったのだろう。
セルスティー達がこなければ、エルバーンから逃げられたとしても、何もできずに命を落としていたかもしれない。
毒のまわりは遅い、一時間ほどで全身をめぐる。
致死率は高くないが、その反対を言えば数パーセントでも死ぬ可能性があるという事。
普段家から出ない少年の抵抗力がどれくらいになるか分からないが、一般人のそれよりもかなり低くなるのは確かだろう。
「ここで治療しないと」
セルスティーは即座に判断した。
けれど、治療に専念するには害獣に襲われないようにしなければならない。
羽ばたきの音がする方向へ視線を向けると、エルバーンが自分の体を覆っていた炎を払い落とすところだった。
「戦うしかないわね。ビビ、下がっていて」
「わかた。でも、あぶない、だめ。むり、だめ」
戦えないビビに念を押して、さがらせると即座に心配の声がかかった。
が、首を縦に振れるほど余裕があるわけではないので、謙虚に対応するしかないのが悲しい現実だ。
「善処するわ」
携帯している小瓶を手の中に、そっと握りしめる。
緊張で汗がにじむ。
油断したら、手が滑りそうだ。
エルバーンに効きそう調合薬は、数個だけ。リカバリーは数回ほどきくが、無暗に失敗はできない
戦闘終了が遅くなればなるほど、治療の成功率が下がるからだ。
セルスティーは、風が吹いているのを確認しながら、位置取りを行う。
「こっちに来なさい!」
ビビから離れつつも、目標の注意を引きながら、風上へ移動。
そして、エルバーンがこちらに追いかけてくるのを待つ。
射程圏内に入ったのを見て、小瓶を投げた。
内部に入っているのは、黄金の液体。
一応言うが、成金趣味とかではない。
調合してたら偶然そんな色になってしまっただけだ。
ともかく、最初の攻撃を受けたエルバーンは学習したようだ。
小瓶を警戒して距離をとろうとする。
だが、セルスティーはその行動を読んでいた。
拾い上げたいくつかの小石を、宙で待っている小瓶めがけて投擲。
命中して小石によって中身の黄金色の液体がばらまかれて、風によってエルバーンに降り注いだ。
そして、黄金水は粘着物質となってエルバーンを絡めとる。
その結果、羽をうごかせなくなった害獣が、浮かび続ける事ができずに、地に落ちていった。
「なんとか、なったわね」
大地の上でもがくエルバーンを確認したセルスティーは、少年の所にもどる。
そして、解毒の小瓶を取り出した。
毒が全身にまわっているなら、口から摂取させた方が早いが、まだ刺されてから時間は経っていない。
なら、傷口に塗ってしみ込ませた方が良いだろう。
持っていたハンカチに液体をふりかけて、傷口を覆い、しばる。
「これで、大丈夫よ。しばらくは安静にしていないといけないけれど」
治療した間、少年は大人しくしていた。
だが、終了の言葉をかけると、様子が一変した。
少年肩を震わせながら、こちらをにらみ付けてくる。
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