終章 不穏の影



 エルケ西部  火山上空 『+++』


 町の西側、岩砂漠を超えたその先には、熱く燃えたぎる灼熱のマグマを吹き出す火山群が存在する。


 その中の一つ、ひときわ大きい火山の火口付近に、大きな影がさした。動く者のいないはずのその場所で、唯一影だけは風に流れて西から東へと流れていく。

 もしそこに人がいたなら空を見上げ、そこに浮かぶ影を作り出した物体に気がつけば腰を向かしていただろう。動物ですらその眼を疑ってしばし動きを止めたかもしれない。


 それほど影の主は異様な物だった。


 空の雲と共にゆっくりゆっくりとたゆたうそれは、大地そのものだ。


 目を疑うような光景だがしっかりと存在している。

 誰がどうやって、地面を抉り取り崩れ去らせることなく空へ押し上げたのだろうか……。小さな町ひとつぐらいにもなる面積の大地を。


 だが空から俯瞰するように眺めてみれば、この世界にはあるはずのない建物が大地の上に乗っている事に気づけただろう。


 その建物の玄関にはこう書かれた石材があった。

 中央心木こころぎ学園、と。


「妙なものを持ち込んだな」


 一つの声が誰もいないはずのその浮かんだ大地の上で響いた。

 瞬間、フードを被った女性が現れる。

 だがその体は、ところどころが透明になっていて向こう側が透けていた。その不安定な部分が、吹いている風とは関係なく今にも消えそうに揺らいでいる。


 ……あまり本体から離れられないようだな。


 女性はさっそく用を手短にすませることにした。

 羽織っているローブのから、布の袋を取り出して、入っていた中身を宙にばらまく。


「せいぜい利用させてもらうさ……、この世界を壊す為に」


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