リフレイン

「人を殺せるものだけが、人を変えることができる」


 火は。殺せる。

 包丁は。殺せる。

 宗教は。殺せる。

 

 心地よい風に満ちる元素は、その濃度が変われば致死の毒へと変わり。

 いつも手に握っているスマートフォンも人を追い詰め殺すことができる。


 俯いて歩いている人々はゾンビのようで。

 SMSなんてシリアルキラーの御用達。

 殺せ、殺せ、弱肉強食。

 あなたは知らない。既読は知らない。お前はすでにいないもの。

 

「「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」」


 意訳しなくてもはっきりくっきり見える文字列の悪意。

 偉い人から卑しい人まで。

 ほら、今日もヒステリックな呪文が飛び交っている。


 世界は憎悪で満ちていて、善意の鉄槌を振り下ろす時を誰もが待っている、気がする。

 

 いいね、「殺せ」。

 いいね、「殺せ」。

 死んでもいいね。


 死ぬのは運命だから、運命の出会いは何かの死だと思う。

 『結婚は人生の墓場』だというし。まあ、そう思うというだけの話。

 結婚しなかったから解らないけどね。


 笑う。

 

 電車は。殺せる。

 道路は。殺せる、足がつる。

 ブロック塀。殺せるかな?

 

 車も船も殺せる殺せる。

 

 遠くに見える橋は。完璧に殺せる。

 

 紺碧の空も、紺碧の海も。

 人はなんて世界に嫌われた存在だろうか。

 

「人を殺せるものだけが、人を変えることができる」

 

 逆に言えば。

 

「人が変わるには、人は死ななければならない」


 そんなどうでもいい妄言を最後の言葉。

 

 ただ、この場所が美しかったから。

 ただ、何か理由が欲しかったから。

 ただ、絶望に何か言いたかったから。


俺には生きてきた意味の何かがあって、これはその意味を込めた意義のある言葉だという夢幻に浸った。

 

 それだけだ。












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『ソード・エッジ / ブライト・アズール』に載せていたものをこちらに移しました。


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