4陽咲のクラスメイトが家にやってきます③
「喜咲、あんた本当に私たちが嫌いなのね。とはいえ、仕方のないことかもしれないわね」
「喜咲、喜咲の気持ちもわからなくもないが、そこまで言う必要はないんじゃないかな。お父さんもお母さんも、そこまで言われるとさすがに傷つくよ」
両親は、私の言葉に怒ることなく、静かに諭してきた。傷ついているというのは本当らしい。悲しそうな寂しそうないろいろな負の感情が混ざった表情をしていた。
「ねえ、喜咲って、結局何がそんなにむかつくの?」
そんな雰囲気を壊すかのように、のんきな声が私にかけられる。陽咲が私にわかりきったことを質問する。
「決まっているでしょう。このくそ両親が……」
「確かにうちの両親にむかつくのはわかるけど、根本は違うでしょう?いや、もしかしたら、嫌い嫌いも好きの内ってやつかな」
「嫌い嫌いも……」
「好き……」
陽咲の言葉を反芻する両親に嫌な予感がした。大好きなBLを読んでいるときのような、嬉しそうな表情を両親がともに浮かべていた。陽咲は、両親の嬉しそうな顔に大げさに頷く。
「おお、さすが私の両親。気付いてくれましたか?」
「それって、本当は、喜咲ちゃんは、心の奥底では、私たちも、BLもす」
「まじで一回死んでくれないかな」
「ということは、これはもしや、あれか。いや、今のところ、ツンしか見たことがないが、デレが見られる可能性も」
『ツンデレ』
私の言葉を聞き流し、くそ両親と陽咲の三人が声を合わせて、一つの言葉を口にする。それは、見事にハモっていた。あまりにきれいなハモりを見せたので、私はあきれて何も言うことができなかった。
「それで、友達を家に呼びたいと言っていた話だけど、陽咲、あなたのお友達ってどんな子なのかしら?」
私が『ツンデレ』という、意味不明なことを言いだした陽咲のせいで、本題である陽咲の友達を家に呼ぶという話は、途中で終わってしまうのかと思われた。しかし、母親はすぐに本題を思い出したようで、改めてどんな子なのか問いただす。
「私が好きみたいで、なんか私と喜咲のイチャイチャを見て喜んでいる人。でも、悪い子じゃないよ」
「それって」
「うん。私もこっち側の人間なのかなって思って、誘ってみたら、もとはノーマルだったみたい。でも、今は完全にこっち側だね。初心者向けの百合を進めたら、がっつり沼に落ちた」
「まあ、はまると出られないのは、気持ちはわかるなあ。そうか、陽咲の友達も沼にはまってしまった人なんだね」
「陽咲は良いお友達と出会えたのね。お母さん、本当に嬉しいわあ!」
私を無視して、彼女のクラスメイトの鈴木麗華についての話で盛り上がる三人。調子に乗った陽咲は、さらに彼女の情報をくそ両親に開示する。
「それに、私が男アレルギーなことを心配して、自分が私を守るんだって、彼氏役を買って出てくれた。最初はそんな感じだったんだけど、今では男装が趣味になったみたいなんだよね」
「ちょっと待った。陽咲、あんたそんな重要なこと、なんで私に早く言わなかったの?」
教室で会った彼女の姿はそう言うことだったのか。髪型や立ち姿がどうにも女子に見えなかったのは。彼女の男装の理由が理解できた。これから家に呼ぶ人間が、まさかの趣味を持っていたなんて知りたくなかった。その趣味に至ったきっかけが陽咲だなんて、考えたくもなかった。妹のせいで、哀れな犠牲者が出てしまったというわけだ。
「早く言うも何も、喜咲なら気付くと思っていたけどね。それで、麗華のことだけど、そんな彼女を家に招いても、何の問題もないわよね」
にっこりと威圧的に微笑まれ、私はたじろいだが、それとこれとは話が違う。いくら、やばい趣味に目覚め、くそ両親と妹側の世界に飛びこんだとしても、関係ない。やはり、私はくそ両親を他人に紹介したくはなかった。
「その顔だと、納得していないみたいだけど、もう麗華には今週末遊びに来ていいよって言ったのは、その場にいた喜咲も聞いていたでしょう。今更ドタキャンは無理。どうせなら、喜咲もあの二人を呼んだらいいんじゃない?」
「あらあら、喜咲にも友達ができたのね。いつでも家に呼んでいいわよ」
「お父さんにも紹介してくれるとうれしいなあ」
こうして、私の説得も無駄に終わり、週末に陽咲の友達(彼氏?)だという彼女が家に来ることになってしまった。
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