第6話 ギルドにて

森を抜け、大きな川を越えてしばらくすると、低い柵に囲まれた、小さな町が見えた。

 「おや、小さな旅人さん。ロンベルへようこそ。」

 町に入るやいなや、声をかけられ面食らってしまう。僕は出来るだけ愛想よく尋ねる。

 「こんにちは、おじいさん。この町のギルドはどちらにありますか?」

 自分でも意外なほどスラスラと言葉が出てくる。これも悪魔の知恵のおかげだろうか。

 「それなら、この通りをまっすぐ行って、青い屋根の宿屋を左に曲がったところだよ。どれ、案内してあげよう。」

 「ご丁寧にありがとうございます。では、お言葉に甘えて。」

 

 ギルドとは、同じ職に就くもの同士が寄り合って作られた、共同体のことだ。鍛冶屋なら、鍛冶ギルド、冒険者なら、冒険ギルド。大きい国ならば、それぞれのギルドの街が存在するらしいが、大抵の町では、僕の祖国アーデルのように、全てのギルドをひとまとめにした「総合ギルド」が置かれているのみである。ロンベルでもそれは同じのようだ。

 ギルドに着くと、受付嬢が退屈そうに、ちょこんと座っているのが見えた。

 「冒険者の登録をしたいのですが、よろしいですか。」

 「え、ああ、いいですよ。では、こちらの紙に名前と特技と、担いたい役割を書いてもらえますか?」

 特技は…魔法でいいか。担いたい役割…特になし、と。

 「これでお願いします。」

 受付が受け取ると、極めて事務的な所作で、何枚かの紙を取り出し、読み上げる。

 「それでは、冒険ギルドについて簡単にお話しさせて頂きます。まず、このギルド証は、あなたの身分を証明するものなので、大切に保管してください。また、もしラドバルド同盟の外に出ることがあれば、まずはその地のギルドで新たにギルド証を発行してもらう必要があります。つまり、このギルド証はラドバルド同盟内でしか使えないということです。次に、冒険依頼についてですが、これは各地のギルドの周辺から寄せられた依頼を基に、その都度ギルドが発行するもので、その依頼の難易度に合わせて冒険者を募ります。例えば、ワームの被害に困っている農家が、ギルドにその旨を訴えれば、冒険者がそれを解決しに赴くように、ギルドが依頼を掲示して、冒険者にはたらきかけます。そして、冒険者がその依頼をこなせば、ギルドを介して報奨金を手にすることができます。」


 説明はそれからも続いたが、かなり冗長だったので割愛する。

 イルガンドと契約したときから考えていたのだが、旅をしながら日銭を稼ぐには、おそらく冒険者が最も適している。それに、冒険者として活動していれば、身元もある程度保証される。まさにうってつけの職業なのだ。

 「それじゃあ、早速依頼を受けたいのですが。」

 「初めての依頼なので…こんなのはどうでしょう?」

 ルビービーという蜂の討伐依頼か。ルビービーは決して攻撃的ではないが、作物を荒らすことで人々に被害を与える。妥当な依頼だろう。承諾して狩りに向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る