第3話 シールド

この国アーデルは、中央にそびえる王族の住まい、「シールド」と、その周りを取り囲むように存在する城下町とで構成されでいる。国というには少し頼りない気もするが。外側には高い城壁が建ち、さらに外側には深い森が続いている。僕の家は爵位なしの中流家庭なので、ちょうど城壁と「シールド」の間くらいにあり、商店集落にも近い。

 僕はふらふらと歩き回っていると、気付けば「シールド」の前まで来ていた。そこに着くまで僕の呼びかけに答えてくれた人はいなかった。藁にもすがる思いで、「シールド」の中へと足を踏み入れる。見た目は美しい白で、城塞然としたたたずまいだが、実際は四方に門戸を開いており、防衛能力はない。だから僕も、何度か中に入ったことはあるが、今はほとんど崩れかかっていて、以前の面影は感じられない。建物の中で何度か呼び掛けてみるものの、空しく反響していくだけだった。諦めて出口へと足を向けると、半壊の廊下の先に、不自然なほど綺麗に残った扉が見えた。

 ―これは、母からきつく言われていたあの扉か

 絶対に触れてはいけない、と母から何度も言われ、気にはなるものの恐ろしくて近寄れなかった扉。好奇心に引かれ、扉に手をかける。鍵はついておらず、呆気ないほどあっさりと開いた。地下へと向かう暗い螺旋階段が、僕を誘いこむ。カツンカツンと、靴の音だけが響く中、何百段くらい降りただろうか。目の前にさっきと同じような扉が現れ、さすがに疲れていたので安堵する。躊躇なく扉を開く。

 すると、そこには何もなかった。いや、語弊がある。何もない空間がただ、彼方まで続いていた。あまりに異様な光景に息を呑んだ。僕がいるのはその空間の中央で、足元から淡い光が浮かびあがっているために、周囲を見渡すことができるのだが、目を凝らしても壁がどこにあるのかさっぱり分からない。まさか「シールド」の地下にこんな空間があるとは思いもよらなかった。ひょっとしてこの空間のために「シールド」が築かれたのではないかという印象さえ受ける。

 ふと、足元の淡い光が、不思議な模様を描いていることに気付いた。無意味な模様のはずなのに、なぜだか僕はその模様に導かれるように歩き始めた。

「おい小僧、ここがどこだか分かっているのか。」

 腹の底に響くような低い声がして、思わずひっ、と情けない悲鳴を上げてしまう。

 「だ、だれですか?どこにいるんですか?ていうか、ここはなんなんですか?」

 「下等生物のくせに質問しすぎだ。上を見てみろ。」

 言われたまま上を向くと、真っ暗闇の中に赤い光が二つ、こちらを見据えていた。

 「我が名はイルガンド。この世界を滅ぼさんと遣わされた悪魔が一体よ。まぁ、封印されてこのザマだが。」

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