第130話 やっぱりお風呂イベント

 ロイの生きる世界、エスクート世界には異世界召喚という技術がある。


 大人から子供まで、魔方陣さえ登録インストールすれば誰にでも使える技術だ。


 ただ、それはレグゼリア王国の切り札の劣化版であり、人を召喚することはできず、召喚できるのはもっぱら鉛筆や本などの小物だけだった。


 ユキノの世界で言うところの"物がなくなった"や"探すけど見つからない"はこれによるところが大きい。


 大国には必ず存在する【伝承保管機関】はその国独自の伝承を解析、保管すると共に、その国で発生した召喚物を翻訳したりして、それによって生じた技術を国へ提供するなども行っていた。


 初等部を卒業した不良が、"お礼参り"と称して校庭で異世界召喚を行い、翌日には様々な召喚物が散乱している──なんてのも、意外と世界に貢献する結果となっていた。


 カポーンッ!


 ロイの眼前には、そうやって作られた召喚の成果が立っていた。


 紺色で、水分を吸うと身体にピッチリと張り付き、ヘソのくぼみから乳房の境界線までキッチリ浮かび上がらせるそれの名は──スクール水着。


 ユキノと2人旅をしていた頃にモニック村でユキノが試着した水練用の服だったが、まさか買っていたとは思わなかった。


「流石に全裸は恥ずかしいので、水着を着ちゃいました。どう、ですか?」


 どうと聞かれてロイは返答に困った。


 露出度は低いのに、下手な下着より遥かにエロい光景にロイは喉をゴクリと鳴らしてしまった。


 整った顔立ち、程よく肉付きの良い身体、そして何より目を引くのは、歩く度に揺れ動く大きな乳房だった。


 サリナはプルン、アンジュはブリン、ソフィアはブルン、そしてユキノはバルン──女性のそれに擬音を付けるのもどうかと思うが、とにかくそんな感じだった。


「ねえ、聞いてるんですか?」


 言葉に詰まるロイにユキノは詰め寄った。


「その……水着、良いと、思う」


 その言葉を聞いたユキノはパアッと笑顔になって、ロイの手を引き始めた。


「お、おい! そんなに急いだら危ないぞ」


「へーきへーき、早く身体を洗いましょうよ!」


 広めの浴室でユキノが強引にロイの手を引く。床はすでに湿っており、その結果ユキノはズルっと転倒してしまった。


「きゃうっ!」


「うわっ!」


 ──ズテーンッ!


 ユキノの世界と違って胸パッドの概念がないため、ピッチリ張り付いたスク水の胸の部分は尖端が少しだけ浮いていた。


 ユキノと至近距離で対面し、ロイの右手はユキノの左乳房を鷲掴みしていた。浄化行為と何ら変わらない状況なのに、2人の心臓はいつもより激しく高鳴り始めた。


「ん、んン……あっ、ンンッ!」


 自然と指が動き、そしてプルンと瑞々しくも美しい唇からは嬌声が漏れていた。


 ユキノ自身も戦闘力向上とは関係の無いロイの触り方に、女としての本能に火が点き始めた。


 度重なる女性達との接吻によってロイのハードルは下がりつつあり、更に魅惑的な肢体によって鋼の精神も軟化し始めていた。


 ユキノはそっと目を瞑り、ロイはゆっくりと顔を近付けていく。


 唇と唇が触れ合うかに思えたその時、浴室の入口の方で大きな音がした。


『こら、お爺ちゃん! 2人の邪魔しちゃダメ! ここは絶対に通さないからね!』


 聞こえてきたのはアンジュの声だった。


 そう言えばアンジュって、俺が複数人と恋人関係になることを画策していたっけか?


 今にして思えば、完全にアイツの思惑通りだよな。


 ロイとユキノの熱気はすでに冷めてしまい、2人は淡々と身体を洗い始めた。


 機を逸したとは思っていない。むしろこれで良かったとさえ思う。ユキノにきちんと言うこと言ってから恋人らしいことしないと、俺の主義に反するからな。


 ☆☆☆


 風呂から上がると、居間でシュテンが縛られていた。


「アンジュ……仮にも村長だぞ?」


「だって、私の計画の邪魔をするんだもの。てか、その様子だとそこまで発展しなかったみたいね。残念」


 アンジュの言葉に、ロイは鼻で笑い、ユキノは苦笑いを浮かべていた。


「それで、ロイ君──奥義は習得できそう?」


「やり方はわかった。だけどこれは難しい」


 疑問を感じたユキノが質問をする。


「ただ影を自身にまとうだけじゃないってことですか?」


「ああ、完全に固形化させて、尚且つそれに見合う状況判断能力が必要とされる。しかも裾が炎みたいに揺らめいてるのが少し難しい。あれを奥義足らしめてるのはきっと"焔"の部分だと思っている」


 ロイの考察を聞いたシュテンは『くくく』と笑い始めた。


「技を受けてそこまで理解するとは、さすがはロイじゃ。カレル程ではないにしろ、お前さんは充分に才能ある影魔術使いじゃ。これなら自主練でも何とかなりそうじゃな」


「は? 明日もやらないのか?」


「無理じゃ、腰がやられてもうた。他の者に頼みたいが、加減できるほどの熟練者はいないしの~。すまんが1人でなんとかしてくれ」


「……はぁ。わかったよ、取り敢えず影を纏う練習から始めてみるよ」


 今日はもう遅い、と言うことでソフィア、サリナ、アンジュもシュテンの家に泊まることになった。

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