第54話 短剣演舞
ロイ一行がイグニア邸に辿り着くと執事が門前に立っており、華やかな一礼と共に出迎えてくれた。
「あなた方の到着、心よりお待ちしておりました」
と、すでに歓迎ムードが漂う中、アンジュが執事を呼び止めた。
「私、一応元王族だけど、エイデン=イグニアはもう知ってるの?」
「はい、旦那様は存じております。こちらの情報網はスタークだけではありませんので。では、邸へ案内させていただきます」
執事は笑顔を崩さず先導し始める。
中に入るとエイデンらしき人物が両手を広げて近付いてきた。風貌はやや細身でメガネをかけており、髪は申し訳程度に整えられている。服装は貴族服の上に白衣を羽織っているため違和感が凄い。
顔つき含め、全体的な印象は──変な優男だ。
そしてエイデンらしき人物はソフィアとハグを交わしてその無事を喜んでいる。
「ソフィア、元気にしてたかい?」
「エイデン、とても険しい道程でしたが、なんとか影の一族を救出できましたわ」
「ふむ、ではこちらの黒髪の少年が?」
「ええ、彼がロイよ」
エイデンはロイの前に立って挨拶を始めた。
「僕はエイデン=イグニア、辺境の下級貴族であり
「俺は影の一族のロイ、亡命の手助け感謝している。よろしく」
握手を交わし、続けてアンジュ、村長の順に挨拶を行った。
「さて、今日はもう遅いので積もる話しは明日にしましょう。皆さんの部屋は用意しておりますので案内の者が来るまで少々お待ち下さい」
軽めの代表挨拶を終えたあと、ロイが立ち去ろうとするのをエイデンは引き留めた。
「ロイ君、ちょっといいかな?」
「俺?」
手招きされ、巨大なホールに通された時……ロイの足元に短剣が刺さった。
「どういうつもりだ?」
次元の裏に格納された聖剣に、魔力によるパスを通す。すぐに射出できるように、だ。
「ソフィアがいない間、ずっと机に向かう毎日だったからね。ちょっと手合わせを頼みたい、ダメかな?」
そもそも勝てるわけがない、年齢も40は越えてるだろうし、王国騎士が放つ武威も感じられない。
かといって体格に恵まれてるわけでもない、絶対に勝負にならない。……と、普通は思うだろうが、俺は違う。一点において俺より秀でてる可能性だってありうる、その一点が天秤を大きく傾けることがある。
何よりソフィアと手合わせ出来てたならその実績は十分驚異だ。
ロイは短剣を投げ返してシャドーポケットから自前の短剣を取り出す。
「Sランクの聖剣には劣るが今渡した短剣はCランク、高級品だよ?」
「この短剣もCランクの短剣だ。ハイゴブリンから拝借したものだが、使う機会がなくてな。ちょうどいいから使うことにした」
その言葉にニヤリとエイデンが笑い、
「了解、では──」
「──来いよ」
エイデンは地を蹴り疾走する。
最初は単純な刺突、次に脚を狙った払い斬り、最後に足払いを放ったが、ロイは冷静にそれらを捌いた。
見た目通り力はない、スピードと巧さに特化したタイプだ。
「時に──その短剣の名前は知っているのかな?」
ロイは攻撃に転じながら答える。
「風の短剣・フラガラッハ──だろ?」
ロイは鍛治の村シミュートの鑑定士にこの緑の短剣を鑑定してもらっていた。フラガラッハはCランク故に加護も薄いが、空気抵抗を少なくすることができる。
今回フラガラッハを取り出したのは武器に遊ばせるためでもあった。
カキンッ!
涼しい顔で
「君は復讐のためにスタークに参加したのかな?」
カン、カン!
「あ? 参加したつもりはない、ただ亡命という利害が一致したから共闘しただけだ」
ギンッ!
すでに外は完全に夜になり、ホールは薄暗く、打ち合う際に生じる火花が明るく感じた。
「あんたらこそ、下らん復讐をするつもりなら、俺はすぐにここを発つつもりだ!」
「ある程度予想はついてたのか。そうだよ、スタークは貴族で苦しい思いをした人間ばかりを集めてる」
没落し、王国に亡命したソフィアを多額のお金で引き取った帝国貴族……使い道なんて世継ぎくらいなものだろう。
ソフィアとエイデンのやり取りを見ていてわかった。親愛の情は抱いていても、恋愛感情は抱いてないことに。
「ソフィアも両親が罠に嵌まり、辛い思いをした……だから引き取った。"私の身体は渡しても、心は渡さない!"彼女が僕に言った最初の言葉だ。そういうつもりで引き取ったんじゃないって納得してくれるのに時間かかったよ」
カンっ!
エイデンは短剣を大きく弾いて刺突を繰り出す。ロイはそれを後方回転しながら蹴りあげる。
「──ッ!!」
ドサッ!
短剣は天井に突き刺さり、エイデンは両手を上げて降参した。
「君は強いな」
「スキル有りなら結果はわからなかったな」
「謙遜はよせ、しかしまぁ、君の気持ちが確認できて良かったよ」
「気持ち?」
「ああ、みんな復讐に"落とし所"を決めて参加している。君はパーティメンバーに支えられて立ち直った……僕はスタークという居場所でメンバーを立ち直らせた。復讐で暴走することはないだろ?」
許したわけではない、ただ今の居場所のために戦う……それを聞きたかったのだろう。
「あ、でも君達は何か目的があったんだよね?」
「ああ、だけどそれは明日でいいか?」
「ん?」
「そろそろ戻らないとルームメートがむくれるんだ。心配かけるわけにはいかないだろ?」
全員1部屋に振り分けたはず、エイデンは疑問符を浮かべながら取り敢えずは部屋に案内することにした。
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