第32話 ハイゴブリン再び

 翌朝、ロイ一行はギルドで説明を受けてすぐに"ラカン寺院"へと向かった。

 ギルドの話しでは寺院の人間は退避しており、そこにいるのは王都から派遣された冒険者がいると言う話しだ。


 寺院に着いたロイ一行が中に入ると、他の冒険者が血塗ちまみれで倒れていた。


「おい!アンタら大丈夫か?」


 倒れてる冒険者を抱き起こすと、規則正しい呼吸音が聴こえてきたのでロイは安堵する。


「う、君達は……?」


「俺達はラカン村から来た冒険者だ。ここで何があった!?」


「実は───」


 冒険者の話によるとここに着いた時、ホールの中央に椅子があり、そこにポツンとハイゴブリンが鎮座していたのだと言う。


 ロイの到着前に討伐すれば、自身のパーティが報酬を一人占めできるために突入したが、結果敗北し、全員深傷を負って何故か放置されたらしい。


「ハイゴブリンはどこに?」


「や、奴は中庭に向かった……後もう1パーティ来るはずだから……待った方がいい!……ゴホッ!ゲホッ!」


「ユキノ、"フェオ・リジェネレイト"頼めるか?」


「はい!」


「サリナは軽症者にポーションを!」


「……わかった」


 ユキノはアグニの塔中盤からリジェネレイトの発展強化版の"フェオ系"が使えるようになっていた。

 これは比較的重症気味の人間まで時間をかければ助ける事が出来るランクだ。


 ちなみに、無印→フェオ→ウル→ソーンの順にランクが上がっていく。


 到着までの間、マナブとソフィアには周辺の警戒、そしてロイは中庭に斥候として向かっていた。


 中庭に続くドアの隙間から中を覗き込む。



 アイツは……やはりあの時のゴブリン。だが何故アイツは中庭で本を読んでるんだ?


 ロイが見たのは、中庭で椅子に腰掛け本を読むゴブリンの姿だった。普通ならあり得ない事だ。


 通常のゴブリンはホブゴブリンやメイジに進化する。そこからロードなりキングなり色々派生していくのだが、稀にハイゴブリンへ進化を遂げる個体が現れる。


 確率的には1000ホブ中、1ハイくらいだ。ロイ自身は両親から聞いた話でしかわからないが、そのハイゴブリンですら本を読む等、聞いたことがなかった。


 いや、もしかすると……ハイの先へと進化の途中なのかもしれない。そう考えたロイは背筋が寒くなり、あの時、無理にでも追って仕留めるべきだったと後悔した。


 数分後、他のパーティが到着したが、そこで問題が起きてしまった。ロイ一行のパーティランクはD、応援に来たパーティのランクは何故かEだった。緊急クエスト故にランク度外視された受注に悪態をつきたくなる。


「こうなったら、俺達が倒すしかない!」


 仕方なく、討伐はロイのパーティが、そして新しいパーティが怪我人の護送と応援要請を担当するように指示を出した。


「おい!待てよ!俺達はここから一気に名を上げるんだ、勝手に怪我人の護送係りなんかにすんじゃねえ!」


 新たに合流したパーティのリーダーがロイに異議を唱える。恐らく、怪我人の護送が華の無い役割とでも思っているのだろう。


「お前がこのパーティのリーダーだな?告知は受けたよな?"パーティランクC、もしくはダンジョン攻略の経験者推奨"って」


「お前らはランクDだろ?」


「そうだが、ここにいる俺の仲間は全員アグニの塔を攻略しているから充分に資格はある。報酬は折半するから大人しく言うことを聞いてくれ」


 すると、リーダーの男はロイ一行を品定めするかのように見回した後、鼻で笑った。


銀髪お嬢様ソフィアおっとり系でポンコツそうな女ユキノガリ勉マナブ不貞腐れたような悪女サリナ冴えないおっさんパルコ、登竜門とは言えとても攻略できるような面子でもねえな?」


 対するパーティは全員男性で剣、斧、槍、弓をそれぞれ手に持っている。その中でも斧を持った男が巨大なバックパックを背負ってる事から中身はポーションや食糧であることが推察できた。


「ユキノは当たってるかもしれないが───」


「ロイさん酷い!!」


 こうやってたまにユキノに意地悪を言うことで悦に入るロイ、当然抗議されるが放置する。


「事実として俺達は攻略済みなんだ。それに、これは先輩としての言葉だが、お前達のパーティは欠点がありすぎる。この件が片付いたら王都でパーティの再編成を推奨する」


 ロイは親切心で教える。


「見た限り、お前達のパーティは魔術師か治癒師がいない。だったらせめて荷物持ちぐらい雇え。荷物持ちは戦況を見極めて適切なアイテム運用を行ってくれる、前衛に荷物持ちをさせるなんて三流もいいとこだ」


「な、なんだと!!」


 掴みかかる男を往なして足をかける。お尻を突き出すような無様な格好になった男は立ち上がり、剣に手をかけようとする。


「あ、あれ?」


 そこに剣はなかった。


「あ……悪いな、武装剥ぎ取りが癖でな。ほら、返すよ」


 冒険者として至上の恥をかいた男は顔を真っ赤にしながら下がり始める。それを見て溜め息をついたソフィアがロイの前に立って懐からネックレスを取り出す。そのネックレスには赤い宝石が収まっており、僅かに暖かい魔力を放っていた。


「これを見なさい。"火精の護石"、これはアグニの塔を攻略した証よ。わかったなら大人しく言うことを聞きなさい」


「なぁソフィア、俺はそれがあるなんて聞いてなかったんだが?」


「帝国は北国だから寒いの、だから……ね?」


「はぁ……わかった、もういいよ。って───」


 パァンッ!


「う───っ!?」


 破裂音と共に視界が明滅する。これは、閃光玉!?


 視界が戻り始めた時、ユキノが出口を指差して言った。


「あの人達、外に行きました!」


「アイツら、怪我人を置いて外に行くって──まさか!?」


 案の定、新米パーティは1度外に出てから回り込み、そして裏口から中庭へ向かっていたのだった。

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