第23話 アグニの塔 転送紋

 突入直後はパーティ毎にランダムに跳ばされるダンジョンも、最深部へ繋がる部屋で合流するシステムになっている。ロイ、ユキノ、マナブの臨時パーティは現在、転送紋ポータルに到達していた。


「いよいよだな」


 ロイの言葉に2人は頷く。


「ボス、僕とシラサトさんはどうすれば?」


「なんかその呼び方慣れないな……まぁいいけど。問題はそこなんだ、俺がハルトとサリナを相手にしているうちにお前の土魔術で無力化出来れば良かったんだが、現状は厳しい気がする。サリナの闇武器の特性って何だったっけ?」


「彼女の武器は"魔槍・ケラウノス"武器特性は"紫電"ですね。僕が見た限り、彼女のジョブである槍術師のスキル"スラストスピア"に雷を加えた"ライトニングスピア"をよく使ってました」


「大体わかった。ハルトについても教えてくれ」


「はい、ハルトの武器は"魔剣・レーヴァテイン"武器特性は"闇の抱擁"です。ただ、ハルトは何故か特性を上手く扱えないので勇者の光属性スキルをメインに攻撃してくると思います」


 サリナについては何とかなりそうだが、ハルトが厄介だ。勇者は剣士、戦士、聖騎士、神官を合わせたジョブ、近~中距離において圧倒的な強さを誇っている。さすがに各ジョブの絶技ミスティックアーツは使えないとは思うが……サリナの相手をしてる時に神聖魔術"シャイニングランス"を使われたら一気に瓦解してしまうだろう。


 いつもすぐに作戦を立案しているロイが今回に限っては時間がかかっている。心配したユキノが近寄り、そしてロイの左手を包み込んだ。


「私は……ロイさんがこのまま逃げたいって思うのでしたら、支持します。ロイさんのおかげで戦闘経験を積んだから私、わかります。このまま戦えば負けますよね?」


 前衛が足りない、だから負ける。ユキノの言葉を否定することが出来なかった。

 全員が敗色濃厚な状況に下を向く中、マナブが呟いた。


「せめて、僕の時みたいに他に脅威でもあれば……」


 脅威……ハッ!そうか!


 ロイはその言葉にあるものを見た。


転送紋ポータルが起動してない!ユキノ、マナブ、隠れるぞ!」


 ロイの言葉に大きな岩の影に隠れる一行。そしてロイは小声で2人に話す。


『ボス、急にどうしたんですか?』

『それだよ、それ。『ボス』だ』

『ボス?』

『あの転送紋ポータルの先はどうなってると思う?』

『封印の間ですよね?』


 マナブの返答にロイは首を横に振る。


『もしかして!』


 意図に気付いたユキノが答える。


『ボス部屋ですよね!』


 ロイは頷く。ここに突入してるほとんどの冒険者はこの先のボスに用がある。そして例外はボス部屋の先にある何の変哲の無い祭壇に行く者、つまりロイ一行とハルト一行の事だ。


『幸いにも転送紋ポータルは起動してない。つまり、俺達が一番乗りと言うことだ』


 この手の話しを知らないマナブは首をかしげ、ユキノは興味津々に頷きながら次を促す。


『ふむふむ、それで?』


『何故俺達が先に着いたのか不思議ではあるが、実力の面から言っても次は確実にハルト達だろう。ってことで俺達はハルト達がボス戦を行っている最中に横槍を入れる事にする』


 マナブとユキノはロイの意図を理解し、ハルトが来るまで待機した。


 ☆☆☆


 待つこと30分、ロイのパーティはハルト達の姿を確認した。人数は3人……ハルト、サリナ、そして神官服の女治癒師だった。特段驚きはない。


 黒マナブでさえ荷物持ちに魔物行列男モンスタートレインを雇っていたからだ。違いがあるとすれば、ハルトは実戦向きの新メンバーを雇っている点だろう。


 ハルト達が転送紋ポータルを起動し、ボス部屋へと移るのを確認したロイ達はある程度時間を置いて中へ突入した。


 時空間を抜けると、目の前には10m以上の大きさの扉が鎮座していた。扉の表面には竜に立ち向かう兵士達の姿が描かれていた。


 隣に立っていたユキノが扉について質問をする。


「ロイさん、これは?」


「この先のボスに関する情報が記載されているんだ。初等部の教科書に載っている程だから俺でも分かる。竜はボス、兵士は挑戦者、兵士が複数人描かれているから協力してボスを倒せと言うことだ」


「ボス!?り、竜を相手にするのですか?」


「いや、これは表現が誇張されてるだけだ。ボスは『準火竜種サラマンドラ』、ここに来るまでに倒した雑魚サラマンダーの親玉だ」


 竜よりかは安心できたのだろう。マナブは隕石の魔道書を握りしめて気合いを入れ直している。隣にいるユキノも同様に魔杖テュルソスを構えて戦いに備えている。


「よし、行くぞ!」


 こうしてロイ達一行はボス部屋へと忍び込むことに成功したのだった。

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