第7話 母性
ユキノはロイが眠りについたのを確認して1人夜空を見ながらハルトを想っていた。
「ハルト……会いたいよ。寂しいよぉ……ぅぅ……」
ユキノが寝袋に入ろうとすると、隣からロイの声が聞こえてきた。
「母さん……置いてかないで……」
私達異世界組の両親はほとんどが健在で、戦いとは無縁の世界で今も生きている。なのに彼は私達の愚かな行いのせいで両親や仲間を失った。
それはきっと、失った人にしかわからない悲しみなのだろう。気付けばユキノはロイの前髪を撫でていた。そしてロイについて考えた。
ロイさんは何歳なのだろう?黒い髪、でも瞳は赤……目を閉じていれば日本人に見えるよね。観察していると気付いてしまった、涙の粒がロイの目尻から漏れ出ていることに……。
ごめんなさい。ユキノはそう口にして人差し指でロイの涙を拭った。
☆☆☆
翌朝、ユキノを起こそうとするも中々起きる気配がない。揺さぶって起こしてみる。
「ユキノ……起きろ。夜更かしでもしたのか、仕方ない」
ロイはユキノが起きるまで支度する事にした。簡易テントと魔物避けを"シャドーポケット"に収納して代わりに保存食と水筒を取り出す。
本当はユキノの"アイテムボックス"に入れた方がいいのだが、裏切られたときの事を考えて食べ物は俺が持つことにしていた。アイテムボックスは異世界組のエクストラスキルらしい。魔力消費も無く、手に持てる物は5kg程入れる事ができるらしい。
シャドーポケットは容量も制限が無いが、入れた分だけ魔力消費が激しくなるので、基本的に魔力の自然回復量を越えない範囲で収納している。
「ン……」
ロイはユキノが起きたのを確認して飲み物と朝食を持っていく、しかしユキノはロイを見ると凍結したかのように固まってしまった。そしてボッと顔を赤くして捲し立てるように言った。
「ど、どうして……ふ、服を着てないんですか!?」
「あ、悪い。起きなさそうだったから濡れタオルで体を拭いてたんだ。別に男の上半身なんて見慣れてるだろ?勇者で」
「あ、そうですね……って見慣れてません!あなたが初めてです!」
その言葉でユキノとハルトの恋人としての浅すぎる遍歴を知ってしまったロイはポリポリと頬をかきながら謝ることにした。
「そ、そうか。悪かったな。次からは気を付けるよ(ハルト、お前奥手だったんだな)」
そしてユキノの準備がある程度終わったので朝食を摂ることにした。
「「いただきます」」
ユキノはロイをジロジロ見ながら少し微笑んでいた。
「なんだよ。言いたいことでもあるのか?」
「ん〜なんと言いますか。『いただきます』って言ってくれてるので少し嬉しくって」
手を合わせて故郷の言葉を使ってくれることにユキノは感動を覚えた。そして思う。この言葉を世界のみんなで言い合いながら食事をすると少しは平和になるんじゃないかと。
「
最後に少しだけ微笑んでユキノは何かに気付いたかのような顔になった。
「ロイさん、口元に付いてますよ」
そう言ってユキノは食べかすを手に取ってそのまま食べた。
「お、おい。やめろよ……言ってくれたら自分で取るから……」
こうして和やかな食事は終わり、セプテンに向けて旅立った。
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