第72話 陽キャ美少女を気になり始めたキッカケを思い返してみた②

 思い返してみると、二宮さんは高校入学当初から人の目を惹く存在だった。

 コミュ障にとって最初の難関、クラス総員に向けて自己紹介の際である。


 二宮さんは「えっと、趣味はお喋り! 皆にどんどん喋りかけるから宜しく!」と、コミュ障の俺では絶対に言えない自己紹介を述べた後、驚くべき行動に出た。


「誰か質問ない? さっき読書が趣味って自己紹介してた吉屋くん! どうぞ!」

「え? お、俺……? 質問と言われても……お喋りが好きな理由とか?」


 初対面、しかも陽キャオーラ満々の女子に話を振られ、キョドりながら尋ねた。


「良い質問だね吉屋くん! なんでお喋りが好きかと言うと、知らない人や物事を知ることが出来るからです! もちろん単純に、お喋りという行為自体も好き!」

「そ、そうか……。羨ましい限りだ」


 ほとんど人と接する勇気のないコミュ障の俺は、そんな素直な感想を零した。


 入学早々、型破りな自己紹介をやってのけた二宮さんは、その日から有言実行とばかりにクラスメイト総員に話しかける。


 二宮さんの会話は、今も変わらず凄まじい熱量だ。当然気後れしてしまう生徒も居たが、その辺りも敏感に察したのか、長く話し込む相手は自然と絞られた。


 俺は口下手なので聞き役に徹するなら、当時でも苦ではない。

 むしろ積極的に話を振ってくれる二宮さんとは、意外なほど相性が良かった。


 お喋りが好きな理由の一つに、知らない物事を知ることが出来るからと挙げていた彼女は、本当に何も知らなかったサブカル方面の知識の吸収も早かった。

 恐らく自分からそういう情報収集もし始めたのか、ラノベトークも出来る程に。


 吉屋くん呼びからヨッシー呼びに変わるのにも、そんなに時間はかからず、今の今まで二宮さんとの交流が続いてきたわけだ。


 そんな高校生活を過ごしているなかで、偶然彼女の裏アカを知ってしまったが、果たして人の裏アカを知った場合、その裏アカはずっと気になるものか……?


 嫌いな人間の裏アカであれば、自分に悪意が無い限り閲覧しようとは思わない。

 好きでも嫌いでもないのなら、次第に関心は薄れて裏アカ自体も忘れるだろう。


 では、無意識に多少なりとも気になっていた相手の裏アカだとしたら?


 ただの日記用アカウントだと思っていたのに、「もしかしたら自分を好いていてくれているのではないか?」と曲解したくなる呟きが何度も投稿された場合は?


 高校入学から今日に至るまでの日々を思い返してみると、二宮さんのことばかり考えてしまう。


 クラスカースト最上位で校内一の陽キャ美少女なのだから、一凡人の男子の俺が惹かれたところでおかしくないと蓋をしていたが――好きなのだ。彼女のことが。


 だから引っ越してしまう直前も直前、一学期の終業式に告白すると決めたのだ。




 そんな決意を、委員長の質問に回答する流れで、本人にも伝えてしまった。


 どうあがいても俺はコミュ障だなと思うと共に『冗談を言ったら滑りました』というコミュ障の俺だからこそ通じそうな、誤魔化し方に持って行ったが……。


 俺の言葉を聞いてから沈黙していた二宮さんが、再びその口を開いた。


「ち、近々っていつ頃、告白するのかな?」


 二宮さんは話しかけている人が「自分とは話したくない・気疲れする・長く相手したくない」と思っているかどうか、その辺りを察するのが上手だ。


 俺は二宮さんの質問の意図も掴めないまま、正直に答えた。


「一学期の終業式が終わって、皆が下校するってタイミングかな」


 そして俺は、嘘もついた。


「告白の直前の時に勇気づけて貰いたいから、二宮さんも下校するのは少し待って残っていてほしい」


「……ヨッシーの告白直前まで、私は待機できるわけだ~。私としてはヨッシーを応援したいところだけど、う~ん。想定外のことが起きないと良いね?」


 二宮さんらしい飄々とした返答で、昼休みの三者密談は終わったが、間違いなく俺の『告白する』という発言を『本気』と見抜いた上での返答であった。


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 ど、どうしよう!?

 もしかして私、最悪の事態も覚悟しないといけないのかな!?

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「俺の告白とか玉砕率百%だよな……。俺の方こそ覚悟しないと……」

 しかも俺の告白相手は誰もが羨む二宮さんなのだ。もはや玉砕率百二十%だ。

 だから本人を前に口が滑ったのもあるが、何にせよ告白を止める選択肢は無い。

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