第62話 放課後に陽キャ美少女とラーメン屋ってデートなのだろうか②

 店長は冷水が入ったコップを配りながら、二宮さんにも訳知り顔で呟く。


「嬢ちゃんは自分から告白したいけど、玉砕するのが怖いって顔をしている……」

「わ、私は、別に……!」


 店長の視線に気圧されているのか、二宮さんはいつものコミュ力も発揮できず、赤面し始めてしまった。


 強面の店長は、二宮さんにオーダーを尋ねる。


「そこら辺を深く聞くのも無粋か……。お好みは?」

「えーっと、身近な人で例えるとですけど、隣のヨッ……吉屋くんみたいな?」


「悪いな嬢ちゃん……。そっちの好みじゃなくて、ラーメンのお好みだ……」

「あぁーっ! それならこの前と同じで、ネギ多め背脂少なめで!」


「はいよ……。単品並ネギ増し脂少、っと……」


 他人の人相をあれこれ言うのは失礼かもしれないが、店長は怖い組織の偉い人ですか? と思えてしまうほど強面なので、二宮さんといえど緊張しているのかもしれない。


 男友達は俺しかいないとはいえ、咄嗟に俺の名前しか挙げられないくらいだ。


「さてと、隣のキミは初来店だ……。メニュー表を見てお好みをどうぞ……」

「悩ましいなあ。ラーメン大盛り、ネギは多め、味は少し濃い目で」

「はいよ……。単品大ネギ増し味少濃、っと……」


 店長はメモを取るでもなく暗唱して、厨房へと戻っていった。


 ネギの量や味の濃さまで細かくオーダーできるのに、『ニンニクの量だけは変更不可。悪しからず』と書かれた貼紙を見つけてしまい、くすりと笑ってしまった。


 二宮さんは先程からそわそわと、こちらの視線を伺っている。


「さっきの二宮さんのお好み発言なら、気にしなくても大丈夫だよ」

「いやいや、あれは事実ですし! 普段からそういう発言してますし!」


 引っ込みがつかなくなった子供みたいに、頬を赤らめながら弁解する二宮さんに、俺はまたくすりと笑みを零してしまった。


「なんか最近のヨッシー……。手強いなぁ~……」

「こうやって何か一緒に食べに行ったりとかさ、貴重だなーって感じてた」


「おや? そんな恋人に向けるような、お言葉を頂けるとは」

「まあ、二宮さんの恋人になれる人は正直羨ましいなーとは思うけど」


「……っ」


 マシンガントークが得意の二宮さんが、何故か悶えながら沈黙してしまった。


 まさかコミュ障って人に伝染したりしないよな、などと莫迦なことが脳裏に浮かび始めた頃に、店長がニンニクラーメンを持ってきた。


「おっと嬢ちゃん、気を付けな……」

「さすが店長、人を見抜く目だ~! ヨッシーは不意打ち気味に、切れ味鋭い発言をすることがあるからね!」


「ラーメンは器まで熱いから気を付けなって意味だ……」

「……えっ」


 確かに目の前に置かれたラーメンは、グツグツとスープまで煮立っていて、二宮さんが顔を赤くして頬に汗を流すのも分かるレベルで熱々だ。


 ラーメンに詳しくないが、煮立つほど熱して提供するのは中々珍しいはずだ。

 もう少し空調を効かせてほしいが、暑い中食べるラーメンというのも乙である。


「そろそろ食べようか二宮さん。めちゃくちゃ美味しそうだなー」

「え、あ、うん! ここのラーメンは本当に美味しいよ! いただきます!」


 ラーメンを食べる俺たち高校生二人を見て、強面の店長がぽつりと小声で呟く。


「久しぶりに嫁さんとイチャつきたくなってきたな……」


 どうやら奥さんがいるらしく、少しだけ優しげな表情を浮かべた店長に、俺は「気の強そうな男性ほど甘えたがり」という迷信は、割と正しいのではと思い直した。


 汗だくになりながらラーメンを完食した二宮さんが、面白おかしそうに笑う。


「今の私、すごく女子力ゼロだ~w お口がもうニンニク一色だし!」

「しまったな、ミント味のガムとかコンビニで買えばよかったね」


 二宮さんと一緒に会計へ行ってみると、店長が気の利いたオマケをくれた。


「二人ともニンニク臭は困るだろう、レモン味の口臭ケア用タブレットだ……」

「いやいや! ま、まだ、そういうことをする仲ではなくてですね!」


「これは帰り道の電車やバスで、他人様にニンニク臭をさせない為の代物だ……」

「あぁーっ!? そういえば、お兄と前来た時もコレ貰ってたーっ!!」


 普段と違う慌てぶりの二宮さんに、俺は『強面の人が、実はちょっぴり苦手』と彼女の弱点(?)を、記憶に留めておくことにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 前回の店長、お兄には物静かに接客したのに、

 今日は違っててアタフタしちゃった!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「正直俺も、当たらずといえども遠からずな、店長の発言にはビクッとしたな」

 二宮さんへの発言は的外れだった気がするが、それでも二宮さんの反応は、俺に気でもあるんじゃないかと、それこそ的外れな誤解をしたくなりそうになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る