第25話 陽キャ美少女が陽キャすぎて風邪だと気付かれていないのだが③
「ヨッシー一つ良いですかね? 肌掛け布団を被ると、やっぱり暑いのですが!」
「二宮さん熱あるからなあ。肌掛け布団はお腹の辺りまでにしておいたら?」
「お? 胸の谷間は見せておくように、ってリクエストですかね?」
「二宮さんらしいノリだけど、今はゆっくり休まないと」
そう即答して保健室の書類棚からA4ファイルを拝借した俺は、ベッドの近くの椅子に座り、団扇代わりにファイルを扇いで二宮さんに風を送る。
「おお~、涼しいぃいぃ~……。ほらほら、汗が乾いて胸元もスースーするし」
「汗が蒸発して冷えすぎるのは良くないぞ。ハンカチで汗を拭いた方が良い」
大きく開いたYシャツをわざとらしくパタパタさせていた二宮さんは、それを気にせずアドバイスしてきた俺を見て、わなわなと震え始めた。
「リアルJKが頬を火照らせ誘惑してるのに微動だにしない、だと……!?」
「実際に二宮さんは熱があるから顔赤いだけでは? 二宮さんに今みたいなことされたら、俺以外の男子は絶対に惚れてると勘違いするから止めた方が良いとは思うけど……」
「なぜヨッシーは勘違いしない~!」
「分相応というものを弁えないと、俺みたいな低スペックは上手くやっていけないんだ。ほら、二宮さんは体調悪いんだから横になって目を閉じよう」
「前々から思ってたんだけど、ヨッシーって自己評価低すぎだぞ~」
しばらく俺にA4ファイルで扇がれて幾分熱っぽさが取れた様子の二宮さんは、何だか腑に落ちていなさそうな表情で、首元まで肌掛け布団を被る。
「ねえヨッシー? 目を閉じたらすぐ眠っちゃいそうなんですが……」
「病人なんだから寝た方が良いよ。氷枕もあるみたいだけど、持ってこようか?」
「あ、たのも~。冷却シートだけだと、また暑くなりそうだ~……」
俺が持ってきた氷枕を頭に敷いた二宮さんは、振り絞った元気を使い切ったかのようにウトウトし始めた。
「クラスの皆がお見舞いに来るものと思ったけど、誰も来ないと静かで良いな」
「あはは、体調不良と見抜けたのはヨッシーだけだからね~。ありがとぉ~……」
「どういたしまして。そろそろ昼休みも終わるし教室に戻るよ」
椅子から立ち上がると、二宮さんは身を起こして俺の腕を掴んできた。
三十八度を超えてるだけあって、二宮さんの掌から、熱さが伝わってくる。
「気持ちが伝わりきってない気がするから、もう一度! ヨッシーありがと!」
「おう。充分に気持ちは伝わったよ。早く体調が良くなると良いね」
俺だけ立ち上がった状態なので自然と二宮さんを見下ろす形になるが、第三ボタンまで外した状態でまともに胸の谷間が見えていたので、慌てて目を逸らしながら答えた。
「すぐ治すよ~。お母さんが迎えに来てくれるらしいから、今日はさよならだね」
「そっか、それじゃあまた明日だな」
名残惜しそうな二宮さんに軽く手を振り、ベッドを仕切るカーテンを閉める。
氷で冷やしていたお陰で左膝の痛みも和らいでいるのを確認。
教室に向かおうとしたら、息を切らした保健室の先生と廊下で出会った。
「頼まれていた『濃ゆいお茶』は購買で売り切れていてな……。校内の自販機も回ったがどうやら購買でしか売ってないようだ。類似品を買ってきたから受け取ってくれ」
「ありがたくいただきます。二宮さんのことを、よろしくお願いします」
「了解だ、任せてくれ。あの子は保健室に来るまで、どうしても教室で話しかけたい人に声を掛けようと、最後まで粘ってたらしい健気な子だからね!」
「そうなんですか。いくらお喋り好きだからとはいえ、凄い精神力だ……」
「お目当ての人とは話せたはずだから、あの子は満足じゃないかな。では失礼」
ひらひらと手を振って保健室に入っていく先生。
どこか面白おかしい者を見るような微笑みを返されたと感じたのは気のせいか。
俺は首を傾げながら、次の授業に間に合うように教室を目指した。
養護教諭が戻ってきてからの保健室内での会話――。
「先生~。ヨッシーに声を掛けるまで粘ってたこと、内緒にしてくれました?」
「少し口を滑らせてしまったが、気付いていなかったよ。天然かな、あの少年は」
「それなら良かった。もし知られたら『無茶しないで』って怒られちゃうので♪」
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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き
いつもの男子は、私がしてほしいことばかりしてくれる。
明日はお礼したいな~。
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就寝前に二宮さんの裏アカを見てみたら、もう体調が良くなってきたらしく、少し前に呟きが更新されていた。
「してほしいこと……? 昼食を差し入れて看病がてら雑談しかしてないぞ」
無理やりにでもすぐ寝かせてあげた方が、二宮さんも身体がしんどくなくて良かったんじゃないかとも思ったが、SNSで呟けるほど体調が良くなっているなら大丈夫か。
何故か悪寒がし始めた俺は、身体を震わせながら布団に包まり寝ることにした。
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