第64話 VS邪神軍⑪/さらば師よ

「行きます! 『我が手に集いし魔力よ! 氷柱となりて全ての敵を葬らん! ――【アイスマシンガン】――』」

「あたしも! 『精霊達よ! 大きな木をお願い! 伸びて伸びて伸びて相手を潰して! ――【ウッドアップ】――』」


 2人の魔法が周りの魔物とヘイドーラへ向けて放たれた。

 佳織ちゃんの魔法は先端が尖った氷を連続で周りの魔物達に浴びさせ、完全にスプラッタを量産している。


 そして凜々花さんは何故か少し離れたところに大きな木を何本も生やしている。その木には枝や葉は無く、幹だけの木であった。

 その木をどうするのかと思ったら、約20メートル程伸び、太さも1メートルぐらいになるまで成長すると、自動的に倒れてきた。

 その木に多くの魔物が潰され、その内の1本はヘイドーラへ向けて倒れていく。


 しかし、ヘイドーラは木が当たる寸前、木に手を当てると、その部分だけ木が吹き飛んでしまった。

 その隙にヘイドーラからの魔法が止み、俺と光君、小音子、そしてウルスさんはヘイドーラへ向けて飛び出した。


「『我が遺志により具現化した鎖よ! 我が魔力を糧に更に強度を増し、かの者の身動きを縛り、その体を苦しめよ!――【パワフルチェーンバインド】――」


 正さんはその隙を逃さず、ヘイドーラを拘束する。俺達はそのまま更に接近し、ヘイドーラへ攻撃しようとした。


『――じャまダ――我ガ神――ヨ――オチかラを――授ケたまへ――』


 そう言うと、ヘイドーラは自分の周りに魔法陣を複数出現させた。

 そしてその魔法陣から次から次へと魔物が出現し、俺と光君、小音子ちゃんはそいつらの相手をしなくてはいけなくなった。


「ウルスさん! 後はお願いします!」

「任せてください! 必ずや、奴の供給を断ってみせます!」


 俺は出てきた魔物を倒してなんとかウルスさんの援護に行こうとするが、余りにも大量に召喚されてしまったため、完全に足止めを食らっている。

 光君や小音子ちゃんも同じように、多すぎる魔物が邪魔で援護に行けない。大技をするとウルスさんを巻き込んでしまうし、小技を連続で放つしか方法がない状態だ。


「行きますよヘイドーラ! 『【デメンションカッター】よ! 今その姿を解放せよ!』」


 ウルスさんはチェーンソー型魔法具のエンジンを掛けた。

 その直後、とんでもない音と共に、チェーンソーの刃が回転しだした。


「食らいなさい!!」


 ウルスさんはチェーンソーを振り抜いた。ヘイドーラは相変わらず虚空を見ている。

 チェーンソーはヘイドーラの体に当たった。

 その直後、膨大な魔力がヘイドーラから溢れ出し、ウルスさんを吹き飛ばしただけに留まらず、少し離れていた俺達や、魔法を放っていた3人までも吹き飛ばした。


「なんて魔力量だ! 俺達まで吹き飛ばすなんて!」


 これが邪神の魔力か! そう思った俺だが、他の皆も同じ気持ちなのか、全員驚いている。

 未だに魔力の奔流が止まらず、俺達はずっと地にひれ伏しているいる状態だ。俺達の他にも多くの魔物達も耐え切れずひれ伏している。


 しかし、その中で唯一動ける存在がいた。ヘイドーラだ。

 しかもヘイドーラはさっきまで虚空を見ていたのに、今は俺達の方向をしっかりと向いている。


『邪魔シタナ――人間ドモメ――セッカク我ラノ神ヲ蘇ラセ、ヨリ多クノ贄ヲ集メテイタノニ――許サン――』


 さっきまでと違い、はっきりと聞き取れる声をだし、ヘイドーラは殺気を向けてきた。

 そして右手を翳し、魔力を込めだした。

 その魔力量は先程よりかは少ないが、最上級魔法並みの魔法を放とうとしている事はわかった。


 俺や小音子ちゃん、そして魔法を使える面々は、少しダメージを受ける可能性があるがレジストが可能だ。

 しかし、光君はマズイ。魔力攻撃にはそれなりの耐久性はあるが、最上級魔法となると防げていない。今光君を狙われたらマズイ。

 その事を全員気が付いたのか、光君に注目をする。本人もかなり焦った表情を浮かべている。


「光さん、私が防御します! 佳織さん! お願いします!」


 比較的光君に近く、また佳織ちゃんと凜々花さんと一緒の場所に吹き飛ばされた正さんが、防御魔法を光君に放った。

 これで大丈夫。そう思ったが――


『死ネ――【だくねすげーと】――』


 奴の魔法が放たれた。その魔法は闇の玉と同じような魔法だったが、魔力の圧縮度が違う。先ほどの魔法よりもさらに魔力が込められていた。

 その魔法は俺の傍を通り、光君、正さん達、小音子ちゃん、の傍まで移動し、何故かヘイドーラの方へ戻っていった。

 そして――


 ――急に方向を変え、ウルスさんの足元に着弾し、ウルスさんの下半身を一瞬で失わせた――


「――ガハァ!!」


 そんな声がウルスさんから聞こえた。


「「「「「「ウルスさん!」」」」」」


 俺達は一斉にウルスさんの名前を叫んだ。

 ウルスさんは胸から下が完全に消失しているが、呼吸は出来ている状態みたいだ。

 正直生きている事が不思議な状態だ。


「み……なさ……ん……い、今で……す……」

「ウルスさん!」「そんな、ウルスさん……」「ダメ! それ以上喋らないで!」


 俺や凜々花さん、佳織ちゃんがウルスさんに声を掛けるが、ウルスさんは気にせずに喋り続けた。


「わ……たしの……命……は……もう……長くあ……りま……せん……」

「そんな!」

「奴の……きょう……きゅう……を断ち……ました……い、今が……チャン……ス……です……」


 確かにヘイドーラからは先程から感じていた莫大な魔力はもう感じない。

 つまり倒すには今しかないという事だ。それはわかっている。既に魔力の奔流は止まっており、俺達も動ける状態になっている。


 佳織ちゃんと凜々花さんはウルスさんの元へ駆け寄り、氷で消失した体の部分を氷漬け、木属性の回復魔法を必死で掛けている。

 しかし、体の半分以上が無くなっている状態だ。生命活動に必要な臓器がごっそり無くなっているいるんだ。ウルスさんが言った通り、恐らく助からない。それがわかってしまった。


「佳織……殿、り……りか殿……ありがとう……ござい……ます……少しだけ……楽に……なりました」


 二人は泣きながら魔法を続けている。ウルスさんは俺にとってもそうだが、正さんや2人にとってはお世話になった魔法の師だ。俺とは違い一緒にいた時間も長かった筈。

 だからウルスさんは2人に任せて、俺達は改めてヘイドーラに向き合った。


「行くぞ皆! ウルスさんの仇を取る!」

「ええ、行きましょう! 援護は任せてください!」

「ぜってーにぶっ飛ばす!」

「うん。行く」


 俺と光るくな先に飛び出し、小音子ちゃんは後に続いた。


「『我が遺志により具現化した鎖よ! 我が魔力を糧に狂暴化し、我が敵を貪り喰らい付け!――【デビルチェーンタイタン】――」


 正さんから禍々しいオーラを出した鎖が飛び出し、ヘイドーラに向かって行く。

 ヘイドーラはその鎖が鬱陶しいのか、両手を振って払いのけようとしている。

 しかし、意思を持つように鎖は動き、ついにヘイドーラの体に巻き付いた。

 それだけではなく、まるで肉を削ぐように鎖が動き出し、ヘイドーラの体に傷を付けていった。


『――っぐ――貴様ラ――鬱陶シイ――』


 ヘイドーラは苦しそうな声を出しているが、そんな事はお構いなしに今度は光君がスキルを放った。


「くらえ! 【金剛連弾】!」


 光君から放たれる黄金の闘気を纏った拳を大量に浴び、ヘイドーラは膝を着いた。

 すかさず俺がその間に入り、休ませないよう剣術スキルを使う。


「【雷剛剣】! からの【雷神剣】!」


 俺は雷を帯びた剣術スキルを2連続行い、ヘイドーラへダメージを与えた。

 俺の剣術スキルをくらい、口から吐血し始めたヘイドーラ。

 更に――


「【剛力旋風】からの【飛燕の舞】」


 小音子ちゃんの強烈な一撃から始まる連続攻撃。ヘイドーラは更に体のあちこちから青い血を噴き出し、苦しんでいる。


『オ――オノレ――矮小ナ――人間ノクセニ――タダノ贄ノクセニ――』

「その人間にお前はやられるんだよ! 邪神の魔力が無いお前なんか、俺達の敵じゃねーんだよ!」

「光君の言うとおり! お前の負けだ、ヘイドーラ! お前を倒して、この戦争を終わらせる!」


 ヘイドーラは反撃の為魔力を溜めようとするが、俺達の連続攻撃の手は止まらず、奴に魔力を溜めさせる隙を作らせない。

 そして、俺と光君は更に闘気を高め、ヘイドーラに向けてスキルを放つ。


「くたばれ! 【絶壊拳】!」

「終わりだ! 【アルテマブレイク】!」


 光君の拳がヘイドーラの腹部に当たり、俺の剣が頭に当たった。

 ヘイドーラは背中から大量の肉片と青い血を吹き飛ばし、俺の剣が頭からその空いた腹部まで切り裂いた。


『オ――オ許シーーヲ――とぅくるふ様――セッカク復活シタ――貴方様ト――蹂躙――デキマ――センデ――シタ――」


 そう言い残し、ヘイドーラは死んだ。最後に最悪の情報を残して――


「ハァハァ――邪神は、もうすでに復活しているだと?」


 その確認をしたかったが、既にヘイドーラは死んでいる。そのため確認しようがない状況だ。


 ヘイドーラが死んだ直後、魔物達にも異変が起きた。数千体の魔物は未だに戦っているが、後方に控えていた殆どの魔物が、急に来た道へ戻り始めた。

 どうやら一時的狂気も解除され、正気に戻った魔物達は、統率していた魔物が減っている事に気が付き、海に帰っていったらしい。


 俺達は疲れた体に鞭打って立ち上がり、ウルスさんの元へと向かった。

 凜々花さんと佳織ちゃんは泣き止んでいた。そして――

 ウルスさんは、安らかな顔をして、まるで眠るような表情で息を引き取っていた。

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