第62話 VS邪神軍⑨/【邪神】トゥクルフの影
俺と光君と小音子ちゃん、そして正さんの4人は、敵将に向かって魔物の群れのど真ん中を駆け抜けている。
正直、正さんが1人加わるだけで、こんなに移動ペースが変わるとは思わなかった。
邪魔な敵が立ちふさがると同時に正さんの魔法が発動し、出てきた鎖が魔物の身動きを止める。
そこをすかさず俺達が止めを刺す。あまりにも簡単に進むため、最初から正さんにお願いして、一緒についてきてもらえばよかったと思った。
その証拠に――
「すげー……俺、クラーケン倒すのにかなりの時間を使ったのに、正さんがいるとこんなに一瞬で片付くなんて……」
正さんは10メートル以上あるクラーケンを一瞬で鎖で雁字搦めにし、身動きを封じる。
その状態のクラーケンなど怖くなく、俺と光君と小音子ちゃんがすかさず止めを刺すために、スキル技を発動した。
この間わずか20秒程である。クラーケンと1体1をしていた光君にとっては、納得できないのもわかる。
その後も大海魔が数体襲ってきたが、クラーケンと同じパターンで仕留め、とうとうヘイドーラの近くまで来ることが出来た。
今も魔法部隊から継続的に魔法が降り注いでおり、時折大きな氷塊も何度も振ってくる戦場において、ヘイドーラは虚空を目詰めている様で、こちらの接近には気づいてない様だ。
「正さん! 今がチャンスの可能性がありますので、強力な拘束魔法をお願いします!」
「わかりました! 行きます! 『我が遺志により具現化した鎖よ! 我が魔力を糧に更に強度を増し、かの者の身動きを縛り、その体を苦しめよ!――【パワフルチェーンバインド】――」
正さんは強力な魔法を放つためあえて詠唱し、強大な魔力を含んだ鎖をヘイドーラに向けて放った。
ヘイドーラはやはり気にした様子はなく、相変わらず虚空を向いている。
そんなヘイドーラの様子などお構いなしに、正さんが放った鎖は、確実に奴の体を絡め捕り、その体を蝕んでいった。
「――栄治さん! こいつはマズイ! 私の鎖があまり効いてない様です!」
「どういう事ですか!」
「身動きは止めれたと思います。しかし、殺す気で縛っているのですが、効果が無いようです!」
正さんの鎖は、縛った相手をそのまま引き裂く事が出来るほどの締め付け力を持っている。
それが効かないとなると、対魔力が凄いのか、または純粋に防御力が強いのかのどちらかだと思う。
このヘイドーラという魔物。大きさは2メートルぐらいとそこまで大きくはないが、強さはシードラゴンやクラーケンよりも遥かに強いようだ。
『ジャ――マダ――』
ヘイドーラからそんな言葉が聞こえた。まさかこちらの言葉を喋れるのか?
そう思っていると、特に何も動作を起こすことなく、巻き付けられていた鎖を粉々に砕いた。
「っく! 拙いです、栄治さん! 私の力では、奴の動きを封じる以外は出来そうにありません!」
「それだけ出来てれば十分! 正さん、援護お願いします! 栄治さん! 小音子ちゃん! 一気に叩くぞ!」
そう光君の号令が聞こえ、反射的に俺と小音子ちゃんはヘイドーラへ向けて跳び出した。
正さんから相手の動きを止めるだけの魔法の鎖がヘイドーラへ放たれる。やはり奴は避ける様子はない。
そのまま鎖はヘイドーラへ絡まり、俺と光君、そして小音子ちゃんはそれぞれの得意なスキルを発動した。
「【爆豪拳】!」
「【雷剛剣】!」
「【剛力旋風】」
俺達3人のスキル攻撃は、それぞれ重たい、または固い敵を想定したスキルであり、威力も高いスキルだ。
その攻撃を食らえば、大抵の魔物は倒れると思ったが――
『――い――いたーーイ――』
ヘイドーラは少しだけ青い血を流し多が、特にダメージを食らった様子は無かった。
「マジかよ! 俺達の攻撃を受けて殆どダメージ無し!?」
光君もそうだが、小音子ちゃんもこれには驚いている。
流石ボスといったところか――今までの魔物とはレベルが違い過ぎる。
ヘイドーラは再び鎖を破壊した直後、両手を点に掲げ、魔力を溜めだした。
『おオ――われラの神――とぅくるふヨ――貴方ノ力はスーーばら――し――い――この力――デ――にんゲンドもを――根絶ヤしニ――してみセまス――」
ヘイドーラはそんな事を口走ると、溜めていた魔力を右手のみに集め、暗黒の魔法を作り上げた。
「拙いです! あの魔法は闇の最上級魔法! しかも広範囲に状態異常を起こさせる魔法です!」
そんな魔法が後方にいる兵達が食らった場合、大混乱が起こる事は目に見えている。
そのため、俺と正さんは、奴の魔法を止めるべく、対抗魔法を唱えた。
「『我が魔力よ!我が信頼なる者に大いなる助けになる事を――【ギフト】――」
「『我が手に集いし魔力よ!我が敵の魔力を拡散したまへ――【マジックデフュージョン】――』
俺は自身の魔力を正さんに私、なおかつ正さんが放つ魔法をブーストする魔法を掛けた。
そして正さんは相手の魔力を封じる魔法をヘイドーラに向けて放つ。
俺達召喚者組で、一番魔法が上手く、効力も強い正さん。しかも本人は攻撃魔法よりも支援魔法が得意という。
その正さんが本気で放っている魔法だ。絶対に掛かるに決まっている。
案の定、ヘイドーラに溜まっていた魔力や、作られた魔法の魔力が少しずつ拡散されていく。
このままいけば、あと数秒で放たれようとした魔法が拡散される。
そう思っていたのが拙かったのか、奴が行動を移してしまった。
『――我ガ――かミノ――ちカラーーヲ――見よ――【さにてぃばーすと】」
ヘイドーラから魔法が発動した。
その魔法はヘイドーラを中心に爆発的な広がりを見せ、あたりを暗闇が襲った。
その直後――
『ガアァァァア――!?』
『ギシャァァァーー!?』
『ウゴアァァァ――!?』
周りの魔物達が急に暴れだした。どうやらヘイドーラの魔法は無差別らしく、味方であるはずの魔物達にも状態異常を起こしたらしい。
ある魔物は傍にいた魔物に噛みつき共食いを始め、別の魔物は急に自殺しだし、またある魔物達は急に交尾を始めた。
「正さん! これってまさか!」
「もしかして、あの物語の設定に出てくる一時的狂気に堕ちた可能性が高いですね、。栄治さん、調子はどうですか?」
「いえ、俺はなんとも……光君、小音子ちゃん、異常はあるか?」
そう言いながら光君と小音子ちゃんの方へ向くと、何故か光君は地に伏せ、小音子ちゃんはその光君の体を足で踏んづけていた。
「――どうしたの?」
「いきなり襲ってきたから倒した。多分状態異常にかかったと思う」
「そうか――それにしても光君、なんか嬉しそうな顔してない?」
小さい子に踏まれる小太り気味の高校生。もしかしてそういう趣味があったという事か?
それはともかく――
「俺や小音子ちゃん、そして正さんが無事なのは何ででしょうね?」
「多分自分の魔力でレジストした可能性があります。光君は確か魔力が無いに等しいと聞いてますし……」
「なるほど――」
幾らヘイドーラの魔力を拡散させ、威力を弱めたといっても、最上級魔法だ。かなりの範囲に広がった様だ。
その証拠に、ある程度離れた場所にいた兵士達にも異常をきたし、暴れ回っている様子が見える。
「正さん、どうやらここを中心に範囲2キロに広がり、あの魔法の影響があるみたいですね」
「2キロですか……かなりの広範囲ですね。もし私の魔法が聞いていなかったら、もっと広がってたと思うと、とんでもない魔法ですね」
その魔法を放ったヘイドーラはと言うと、やはりずっと虚空を見つめている。自分の仲間である魔物が暴れていてもお構いなしだ。
「さて、あいつをどうやって倒しますか?」
「そうですね――魔力を沢山使わせる方法も考えましたが、どうやら無理そうですね」
俺にも奴が魔法を使った時に感じた。ヘイドーラは別から魔力を貰っているようだ。恐らく奴が言っていた邪神から魔力を貰っているのだろう。
そうなると、別の方法を考えないといけない。しかし、そんな暇は無さそうだ――
『わガ神――ヨ――い――マいちド――我ニち――カらを――』
ヘイドーラは再び魔力を溜めだした。しかし、今度は状態異常の魔法ではなく、俺達に向けての攻撃魔法と予測できた。何故なら――
「栄治さん、小音子さん。どうやら状態異常の聞いていない私達を標的に攻撃をするみたいです。
あの魔法も闇魔法である事が確認できますが、攻撃魔法です。しかも範囲魔法ではなく、対戦闘魔法です」
魔法に長けた正さんの解析だ。恐らく間違いないだろう。
俺は光君の傍に行き、状態異常解除魔法を掛けた。しかし、強力な魔法だったためか、なかなか解除できず、仕方なく光君を担ぎながら解除魔法を掛け続けた。
『――【えすくりだぼーる】――』
ヘイドーラから無数の闇の玉が放たれる。俺は光君を抱えたまま避け続け、正さんは防御魔法を展開し、その後ろに小音子ちゃんは隠れている。
闇の玉は近くで暴れていた魔物に当たると、解けるようにその魔物は消えて行った。
何とか正さんの防御魔法の中に入る事ができたと同時に、光君は目を覚ました。
「――あれ? 何で俺栄治さんに抱えられてるの?」
どうやら少し記憶が飛んでいる様だ。小音子ちゃんに踏まれて喜んでいた事は覚えていないらしい。
「よかった。解除出来たか――光君状況を説明するから、解決策がないかを一緒に考えて欲しい――」
まだまだヘイドーラの攻撃は止まず、俺は正さんに先程行った魔力供給をしながら、解決策を考えるのであった。
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