チート魔力をもらったはずなのに、何故か今日も筋トレさせられています

読ミ人オラズ

第1話 転生特典ゲットだよ!

 ウエイト・トレーニングの器具がずらりと並んでいる。


 そして私の目の前には、器具に寝そべって「フン! フン!」言いながら、超重そうなバーベルを持ち上げているお爺さんが1人。


 ここはどこなんだろう?


 私、信号無視してきたトラックに撥ねられた筈だよね?


 それなのに、何故か私はこの謎の部屋のベンチに座っている。


 交差点を渡っているときに、猛スピードでトラックが突っ込んできて、私は目の前にいた女の子を助けようとして、咄嗟にその子を突き飛ばした――


 というところまでは覚えているけれど、そこから先は何も思い出せない。


 あの後どうなったんだろう?


 あの状況では、私は絶対にトラックに轢かれたと思うのだけど、身体の痛みは全くないし、もしかして奇跡的に怪我1つしなかったんだろうか?


 いいえ、もしかするとあの事故から既に何年も経っていて、私は意識のないままで生活していたけれど、たった今、意識が覚醒したのかもしれないです。

 大きな事故の後、ほぼ無意識のまま日常生活を送っていた、という人の事例を聞いたことがあります。


 それにしても、ここはいったい?


 私の家でも、病院でもなさそうだし……

 というか、どう見ても『トレーニング・ジム』だよね? それも本格的な。


 過去の私は、こんな場所とは全く縁のない生活をしていたけど、事故の後に性格が変わってトレーニング・ジムこういう所に通うようになったのだろうか?


 私が考え込んでいると、上半身裸でピチピチのパンツ姿の大柄なお爺さんが、目の前に立っていました。


 さっきまでトレーニングをしていたお爺さん――

 顔だけ見ると年齢70歳前後くらいに見えるけど、身体つきは筋骨隆々の逆三角形で、恐ろしいほどのゴリマッチョ。

 昔、何かのCMで似た映像を見た気がします。


「お前、【早々野ささの隆美たかみ】だな!」


 マッチョなお爺さんが、私に話し掛けてきました。


「確かに私は『早々野隆美』ですが…… あなたは、どちら様ですか?」


「ああ、儂はここの管理人だ。ここにやってきた地球人の魂を選別して、どうするかを決める仕事をしておる」


 えーっと…… 言ってる意味が分かりません。

 つまりこのお爺さんは……


 認知能力が低下している人かな?


 ということは、やっぱりここは病院の施設か何かのようですね。


「お前、今すごく失礼なことを考えたな? どうやらお前は『地獄行き』が望みのようだな!」


 お爺さんは、私のすぐそばに顔を近付けて睨んできました。


 まさか、私の心が読まれたの? もしかして、このお爺さん……


「あ、あの…… あなたは『神様』なのですか? もしかして、私は死んだんですか?」


 お爺さんは、パンツの中から取り出した手帳を見ながら


「早々野隆美、16歳。お前は今日トラックに轢かれて即死したようだ。それから、お前が突き飛ばした女の子は、膝に擦り傷ができただけで助かったぞ」


 あの女の子、助かったんだ! 良かった!


「ああ、お前の質問の答えだが、儂は『神様』ではない。お前の国で言う『閻魔』ってのが近いかもな」


 閻魔様!? じゃあ、さっき言ってた『地獄行き』って……


 私がガクブルしていると、


「おっ! お前、超幸運ラッキーだぞ!」


幸運ラッキー?」


 どこが幸運なんですか? 幸運だったら、普通死なないと思いますが。


「ほれ! ここに番号が載ってるだろ」


 お爺さんは、私に手帳を見せてきました。


「100万―― と書いてますね?」


「そうだ! お前は今月の地球人の死者『100万人目』だ。

 何と毎月100万人目の魂にはな、そいつの希望を叶えてやる、という特典がついているんだ!」


 えっ!? まさかそれは!


「生き返れるんですか!?」

「それは無理」


 間髪入れずに返ってきた答えに、私はがっくりしたのですが


「だが、転生なら直ぐにできるぞ」


「転生!?」


 転生―― それは、ラノベ大好きな私にとって憧れの言葉! でも、そんな旨い話が?


「一応確認させていただきますけど、人間に転生できるんですよね?」


「ああ勿論だ。だが、地球のような文明の発展した世界への転生は、競争率が高すぎて何年も先になるから、待ってる間に魂が消滅することもあるが、競争率の低い世界になら割とすぐにでも転生可能だ」


「競争率の低い世界、って文明の遅れた危険な世界じゃないんですか?」


「何を言うか? 地球だって安全な場所ばかりじゃないだろ? それに、戦争なんかが起きたら、それこそ文明レベルの高い世界の方がよっぽど危険だろ」


 確かにそうです。


「じゃあ、お勧めの転生先とかありますか?」


「そうだな…… 日常的に魔法が使われている世界と、使われていない世界、どっちに行きたい?」


 ま、魔法ですって!? 当然、異世界物のラノベが大好きな私は


「魔法が使われている世界でお願いします!」


「そうか。で、他に希望はあるか?」


 もしかして―― チート能力までもらえるの!? これは確かに幸運ラッキーだったかも!


「先に言っとくが、物欲的な希望は叶えられないぞ。数か月前に『地球の物を自由に持っていける能力が欲しい』とかいう奴がいたが、そういうのは無理だからな。あくまで、人間の有する能力しか与えてやれないからな」


 そりゃそうですよね。それじゃあ――


「できれば、今の記憶を持ったまま転生したいのですが……」


「記憶を持ったまま、だと?」


 流石にこれは無理だったのかな? ラノベではお約束のチートだけど。


「あんまりお勧めできんが、お前が望むというのなら、地球での記憶を持たせておいてやろう」


 やったー! 現代知識で異世界無双はラノベの常識!


「はい! それでお願いします!」


「で、それだけなのか? 他に希望はないのか?」


 まさか、まだチートをもらえるんですか!? なんて太っ腹!


「それじゃあ、潜在魔力を『人間の平均の10倍』でお願いします!」


 本当は百倍とか千倍って言いたい所だけど、それは流石に問題あるだろうし……


「どうせなら1万倍にしとけ!」


 1万倍!? そんなチート能力をもらったら、世界のパワーバランスを崩してしまうんじゃあ……

 でも折角のご好意、喜んでいただきます! これで、ラノベの主人公みたいな『魔力無双』ができますよ!


「他にはいらないのか?」


 まさか、まだもらってもいいんですか!?


「そ、それじゃあ、どんな言葉や文字も理解できる能力…… とかは、流石に無理ですよね?」


「お前、そんなもんが欲しいのか?」


「勿論です!」


 英語のテストでいつも泣かされていた私は、2度と言語で苦労したくないんで、とても重要な能力なんです!


「まあ、いいだろう。で、他に希望はないのか?」


 いえいえ、これだけ貰えれば十分です!

「これ以上」なんて言ったら罰が当たります!


「大丈夫です! これで十分です」


「それだけでいいのか? 欲のない奴だな…… よし! お前には特別に、儂から1つ、とっておきの能力をプレゼントしてやろう!」


 最後に、無理やりに近い感じで『特別な能力』までいただきました。


 なんて素敵なマッチョ爺さん!



 そして私は、【ムセリット】という世界に転生することに決まったのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る