第弐拾弐話―夢という希望―

武器を専門に扱う店舗の客は、荒くれ者の冒険者や騎士など利用をする。階級の高い身分が利用する武器屋には貴族街などにある高級感と珍しい武器など売っている。


武器屋と言っても作りや珍しい武器などが置かれていてゲームのように武器が統一感のある販売しているわけではなかった。


なので、良し悪しのお店をよく知るガロンは内ケ島椛葉に少しでも使える杖を購入しようとしたが、本人がこのままいいと言われれば服屋のように強く否定出来ない。

思い出の武器などもあるから。


「ガロンさんは、どうして

こんな、わたしなんかに優しくするんですか?」


その疑問を抱くのは必然であった。包み隠すようにした好意を向けられているのを内ケ島は感じていた。夕焼けに照らされる展望鏡のある高台のベンチに座って見渡される景色を見ていた二人。

夕方となると、人の数も帰路に就こうとして時間が経過するたび減っていく。景色を静かに楽しんでいたが、内ケ島は自然と言葉を発した。


「何か誤解をしていないか、俺はおまえを利用しているだけだ。

優しく向けてなどしていないし今後そんな情など期待しないことだな」


「ガロンさんそれって本心ですか?それとも無自覚・・・ううん、やっぱりいいです。ガロンさんが優しいんだってそう、分かれば十分かもしれません」


内ケ島椛葉うちかしまなきはは儚く笑いガロンの韜晦とうかいする慈悲を問い詰めるような事などするのは恩を仇で返すような行為と思った。

儚い笑みをガロンは横目で一瞥し、黄昏たそがれに染めていく街並みを見ている。


(先程の発言は一体なんだ。

まるで覚悟を決めたような・・・・・)


「ガロンさん、わたし迷惑をかけますし・・・そろそろ復讐を果たすためにここを出たら決闘しませんか」


「何を言っているのか、分かっているのか」


「はい。もう十分わたしは、楽しみました。えーと、こういうときって有終ゆうしゅうの美を飾るでしょうか?きっと、お互いのためになると思います」


内ケ島椛葉は有耶無耶うやむやになったガロンの激しく燃える復讐の焔を向けなくなり、憐れむような情を感じていた。


内ケ島は異世界で転生され短いながらも多くを知った。負の感情を読む事を、見下す視線と心のない言葉を浴びるように向けられて敏感になった。


ならざるにはならなかった。だからこそ、鬼人のガロンがその復讐以外に負の感情ではなく、憐憫れんびんな眼差し励まそうとする言動を感じて嬉しくて仕方なかった。


(ガロンさんに恩返しするなら、わたしなりに考えたのが、この選択ですから!)


決心したのは自由貿易都市ノルンに服を着たり一緒に食事して夕日に照らす都市を見渡せる場所の高台に感動するのも・・・いい思い出として永遠に残る。


(わたしが、亡くなってもガロンさんが覚えてくれるなら)


「わたしは、わたしのためにガロンと戦います。だから・・・・・戦ってくれますよね」


「・・・・・だが、それでいいのか。

他にも選択はあるはずだ。冷静になってよく考えろ」


「考えた末の選択です。ガロンさんに心配される事じゃないです!これは、わたしの決意なんです」


決心は固い。波波ならぬ決意表明にガロンは論破するための話術と言葉はなかった。情にほだされているのをガロン自身がよく分かっている自覚している。


「・・・・・そうだな。俺は自分の信じる正義のためにおまえと戦う」


「うん。それこそガロンさんです」


内ケ島はやっぱり儚く消えそうな拙い笑みをして返事をしているのだった。今日は宿で泊まることになった。中世ヨーロッパ風の宿屋は思ったよりも広く

内ケ島椛葉は廊下をなんとなく徘徊していた。入浴を上がりになんとなく無心にもなりたかった。


(わたし、落ち着いていないなぁ)


部屋は別々なのは当然。しかし、男の人とお店を巡るのは、まるで――


「デートみたい」


(わ、わたし違うから!これは、デートじゃないから。だから、落ち着こう。つい言葉を出すなんて!?)


小さく呟いたのはデートという単語。内ケ島椛葉がガロンに好意を抱くのは高潔な所と下手な無償な優しさなツンデレなど、理由を述べれば尽きないほど。


(デートなんて違うない。ガロンさんそんなこと一言も言っていないしドキマギなんて反応もしていないから・・・・・)


随分ずいぶんと元気だな」


「ひゃっあぁガロンさん!?」


背後からガロンの声に振り返ると、大きく仰け反る内ケ島椛葉にガロンは嘆息する。


(あっ、きっと呆れているんだな。この反応からして)


「ずっと歩いてノルンでもそうだっていうのに、元気なんだな」


「そ、そう見えますか?」


(も、もしかしてデートみたいなんて妄想なんかしたら元気になったのかな?わたし・・・・って!違う、ちがう!ちがううぅぅ!!)


「ちがう!ちがうぅぅぅ!!」


「うぉ!?ど、どうした急に叫びやがって」


悶々となる内ケ島は、否定するのに必死なあまり言葉に出てしまったことに、カァッーと顔を赤くなる。


「い、いえ。何もありませんよ。ただの精神統一?です」


「その疑問系はなんだよ。

ともかく明日はここを出るが、構わないか?やり残しているなら

留まるぞ」


ガロンは、なるべく決闘の日を長伸ばしようとする。しかし――


「いえ、気遣いはありがたいですけど心残りは・・・・・ありません」


「そうか、ならいいんだが」


それだけ言うとガロンはきびすを返して部屋に戻る。その背を内ケ島は角に曲がるまでずっと見ていた。

彼女は、無心で徘徊を続け飽きると部屋に入る。一人だけ利用には少々、広く観葉植物や家具など間隔を置いて美しく整理整頓されている。ベッドにうつ伏せで倒れる内ケ島。


「つ、疲れた。よく考えたら、わたしって体力が無かったの思い出したよ」


転生してから、体力をつけた内ケ島だが余裕が出来ると忘れたように疲れが襲い眠気が龍のあごを開いたように襲い。すぅ、スゥーと寝息を立てる。内ケ島が目覚めるのは早朝の6時だった。


「ふわぁー。カーテンの隙間から明かりが・・・時間は?」


壁時計のある方へ見上げる6時と分かると、内ケ島は伸びをして立ち上がり洗面所に向かう。櫛で整えポーションの化粧用を使い

準備は終わる。


「よし、行こう!」


寝間着から魔法使い白のローブを袖を通して道具を確認して部屋を出る。エントラスホールに行くとガロンが本を読んでいた。ちなみに読んでいた内容は、純文学作品であった。神の恩恵で異世界の文字は日本語に見える内ケ島だったが難しい漢字が使っていたため読めなかった。ベンチに座って読書中に声を掛けるべきか躊躇い隣に座ることにした。


「「・・・・・」」


没頭しているガロンは、内ケ島が隣にいることなど気づかず数時間が経過。


(こうなったら、もうやけだぁぁ)


内ケ島はようやく決心してガロンの袖を引く。ガロンはそれで奴が目覚めたかと本を閉じる。


「・・・気のせいか。不機嫌そうに見えるのだが?」


「ふ、不機嫌じゃないです」


嘘だった。内ケ島椛葉は声をかけるまで没頭していたガロンにわずかな不満を持っていた。ここまで集中するなんて知らない姿を見れて嬉しいようで悲しいようで苛立ちを覚えていた。チェックアウトして宿を出ると、関所を出るのは簡単だった。怪しい物がないか確認もなくノルンを出る。


「楽しかったですガロンさん」


「そうか」


「はい、ガロンさんは?」


「少しだけなぁ」


「えへへ、そうか」


一言と内容もほとんどない会話なのに多く意味や想いなどを含んでいるような会話に内ケ島は上機嫌だ。しかし、このあとは決闘して

内ケ島の人生を幕を閉じるとしても。亜人領を経由してオーガ領の険しい山を登ることになる。


「はあぁっ!!」


跳躍して槍を叩きつける。よく戦った熊型の魔物は致命傷を受けて動けなくなると、槍を内ケ島に渡し逡巡しゅんじゅんしたが受け取る。そして――


「やあぁぁ!」


槍の矛を魔物を突き刺す。


「カアァァッ!!」


断末魔を上げて、声と動きもしなくなった魔物を絶命させたことに内ケ島は激しく息をしていることに気づく。


「ハァ、ハァァ・・・・・ハァ」


「その恐怖を決して忘れるな」


「えっ?」


ガロンの言葉にどういう意味か分からなかった彼女は、振り返って渡された槍を松葉杖まつばつえのように身体を支えたまま顔だけ振り返る。


「おまえの感性は間違ってはいない。俺のようにそれを失ったからこそ言える助言だ」


「は、はい。けど、忘れたなら気持ちは理解しないと思いますけど?」


どうして急に助言したのか、いくつか思いつく事はあるけど、意図が読めないのと変わらない内ケ島は自虐的な発言をするガロンの一部の言葉を否定する。失っていたなら相手の苦しみなんて理解できるはすが無いと。それだけは強く言い放った。


「実際に失えば思い出だけが覚えている。そんなことよりも先を行くぞ」


「は、はい。あっ!槍をお返しします」


魔物を倒しては、内ケ島のレベル上げにさり気なくやってくれる事を内ケ島は分かっていた。

好意を感じさせるのを避ける優しさに内ケ島は言葉にしない事にした。


(優しいガロンさんが、どうしてか、やっぱり気になる・・・

どうしてあそこまで復讐をこだわるかを)


たずねるべきか悩んだが、結局はやめる。そして日が沈み外は闇夜となるとまきを燃やし獲った魚を焼く。手頃な丸太を拾って椅子にして。


「もし、決闘で俺が負けたらおまえはどうするんだ?」


「えっ?」


沈黙が続いて慣れてきた内ケ島は焼いてくれる魚を凝視しているとガロンが唐突にそう訊いてきた。


「・・・サバイバル生活ですかね?」


「サバイバル生活。すでにしているのにか、おまえは先の事を考えていないのか?」


「い、いえ!考えていますよ。

それは海よりも深いほどにです」


ガロンに図星をつかれて、あせる内ケ島は、しどろもどろリアクションしたことに気づくと咳き込むと深呼吸する。


「こほ、こほ、すぅー、ハァー」


「必死に落ち着くこうとするほど、当たっていたのか」


「うっ!・・・・・は、はい。

いつも先の事なんて考える余裕はないですので」


(その前に、わたしはガロンさんに負けるんだから考えていないよ)


決闘の誘いは、自害に近い。このまま関係が悪化するよりも幸福に感じる今で終わりたいと思っている。本当に絶望に堕ちる前に。


「混迷しているから、それもしょうがないだろうなぁ。だが、夢ぐらいは持ってもいいはずだ」


「夢ですか?」


ガロンの言葉に夢という言葉を口にしたことに内ケ島は目を見開く。


「絶望に堕ちない唯一の希望だ」


「フッフフ」


「・・・確かにらしくない事を言ったが――」


「ううん。素敵です!ガロンらしくないのもらしいとですし、

心に響きました!」


琴線きんせんに触れた内ケ島椛葉は屈託のない笑みをガロンにする。夢を持つ事など、出来ないと悲観にある内ケ島は、助言してくれたことに舞い上がるほど嬉しかったのだ。

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