第拾玖話―少しの平穏を―

時刻は数分前に戻す。

アランがゴブリンやホールドラグーンを倒した馬車の帰り道に山中にいた内ケ島椛葉うちがしまなぎはの眼下に街道のアラン一行の馬車を見ていた。


「あの馬車が何かあるのか?」


内ケ島が、妙に真剣な表情で見続ける方向には馬車が走っているたげで目立つような事はなかった。怪訝に思ったガロンは問うと、内ケ島は曖昧な憶測を伝えるべきか逡巡しゅんじゅんしていたが考えた末、言うことにした。


「ガロンさん・・・あそこにアンノーンオーブの使い手を感じます」


「何っ!?それは本当なのか!」


「はい・・・微弱ですけど安心感と熱くなるような気配を感じるんです。この感覚、間違いないと思います」


「そうか・・・あの中にいるのか」


ガロンと内ケ島いる山は高く草木が茂っていて発見されにくい。

しかし、アランがこちらの視線に気づいていると直感でそう思うガロンは馬車を見下ろしながら心中で宣戦布告する。


(必ずおまえを討つ・・・それが俺達、同族の手向たむけになる)


アンノーンオーブを世界から消えれば悪魔族が侵略戦争がいずれ起きるだろう。しかし、災厄と変わらぬ力を振るえば阿鼻叫喚となるのは必須・・・俺が戦う理由なんていくらでもある。それなのに――ガロンは躊躇ためらう。

内ケ島椛葉とは協力も含めて。


「よし、行くぞ」


「えっ!?戦わないのですか」


「情報、対策もなく無策で挑むのは死に行くようなものだ。

アンノーンオーブを使う相手に準備に準備を重ねて戦う。必ずなぁ」


ガロンは復讐ふくしゅうに燃えて焦燥感しょうそうかんを駆られることはあるが、身に任せて挑めばあの頃の二の舞いを演じることになる。


ガロンは顔だけ振り返り、走る馬車は見えなくなった。魔物を倒していると山中は闇夜と変化した。山の中では夜の時間帯は魔物の活性化以外にもオーガの領土は整備されていない道が多い。そのため落下するのでき火をする。


「まるで、キャンプみたいですねガロンさん」


「キャンプか・・・道具が少なく現地で確保しないといけず、魔物がいる。キャンプとして選ぶには絶景スポットがない。欠点だらけだなぁ」


ガロンは腕を組んで、つまらそうに答える。今夜の食事はクマ鍋だ。


「そうですね。ですけど、こんな何も無いような場所でキャンプなのも楽しいじゃないですか?」


弾くような笑顔を向けられガロンは鼻で笑う。


「フッ、そう思うなら別に構わん」


「バカにした笑いに、悲しいかったですけど。じゃあガロンさんは楽しくありませんか?」


「楽しくない」


そっぽを向くガロンのしゃに構えた態度に苦笑する内ケ島だった。そして日は過ぎて早朝、内ケ島椛葉はガロンに入浴すると伝え近くの川まで探す。

すぐに発見してガロンは、その間に毒矢など武器の手入れを始める。もちろん覗きはしない。

内ケ島は一糸、まとわずの裸になり川に入る。


「んうぅーー!」


腕を高く伸ばし気持ち良さそうにする。壁や塀がない入浴に最初は抵抗はあったが、開放感と自然の厳しい景色にもいい風景に不思議と思っていると草むらからガサガサと動いく音が聞こえた。


「えっ?も、もしかして魔物」


不安になる内ケ島は川をゆっくり出ようと着替えがある場所へ向かおうとする。


「ガアァァァッ!」


「や、やっぱり!!」


草むらの中から出て来たのは・・・

野生のグリーンベアーが出現した。

4本足で歩き内ケ島の方へゆっくり進んでいく。川で魚を獲るにしては、わたしをずっと見ているしやっぱりエサだって思っているんだ!と内ケ島は考え恐怖する。


内ケ島椛葉の攻撃はこぶしか杖で叩くしかない。その杖がない、あったとしても物理攻撃はしないが。もしかしてクマ鍋を食べたから、その恨みを晴らしに・・・内ケ島はそう考えると納得して怖くなっていく。


「きゃああぁぁーー!!」


思わず恐怖に負けて叫び出した内ケ島。グリーンベアーは一瞬だけ怯むが、駆けて内ケ島を喰らおうとする。覚悟して目を閉じる・・・・・痛みと衝撃がいつまでもこずに不思議に思った内ケ島は

仕方なく目を開くとガロンがクマを倒した。


グリーンベアーの顔面の鼻には矢が刺さっている。次に背には貫かれた血が流れている。槍で刺されたのでしょう。死骸しがいとなったグリーンベアーをガロンはサバイバルナイフで切っていた。そして、ガロンは内ケ島が目を開いた事に気づく。

タオルなど隠していない全裸で。


「さっきの悲鳴で、爪を振り下ろす瞬間で危うかったがグリーンベアーを倒したぞ」


「あ、あわわ・・・」


「どうした?何か傷でもついたのか」


近づこうとするガロンに、内ケ島はどうして裸を見て普通に話を掛けてくるか憤りと悲しくなる。


「ガロンさんバカあぁァァー!」


女の子として扱われいない悲しさで涙目になり、、平気で見ないでよ!と心の中では絶叫する。

着替えが置かれている場所へと全力疾走していく内ケ島。


「どうして罵声を上げた?」


お礼ではなく、罵声だったことに驚いていたガロン。内ケ島椛葉が着替え終えると・・・・・


「ガロンさんはデリカシーがないにもほどがあります!」


ビシッと指を突きつけられる。数日前は戦った相手とは思えない空気であった。


「そう糾弾されても、何が不平不満なのか分からんが?」


「そういう所です!本当に分かっていない所が本当に分かっていませんよ!!」


指をブンブンと激しく上下に振りその動作が怒りを顕著に表れている。油に水を注ぐ発言をされ、彼女は赤面して訴える。


(どうせ、わたしなんかの小さな胸じゃ女の子扱いしませんか。

ショックだし、もうごちゃごちゃで苦しいのに怒りが。悲しいのに許せない気持ちです!)


「ガロンさん。言うことはありませんか?」


腕を組み気弱な内ケ島椛葉らしくもない圧力にガロンは怖じ気つく。


(なっ!?急にどうしたんだ。

いつもなら、圧力なんて出来ない奴がこれほどの力を使えるとは。

覚醒かくせいしたというのか)


ガロンは天然であった。

戦闘や政治などの駆け引きなどが鋭い観察眼で危機的な状況をくぐり抜けた。しかし、情や世間話など苦手なのだ。


「そうだな・・・おまえの威圧感には驚嘆するべきものだった。

そのまま精進をするといい」


「・・・ガロンさんって、天然だったんですね」


「天然か、自重しているが周囲からよく言われる」


「はい、そうですよね。なんとなくだけど・・・女の子の裸を見て言うことはありますよね?」


内ケ島は虚ろな瞳になり、嘆息する。自分から言わねばならない事に。


「んっ・・・ああ、理解した。

不可抗力とはいえ見てしまい悪かった。すまない」


ガロンはようやく言葉の意味を知って陳謝した。


「・・・・・はい」


彼女は腑に落ちず、言葉数が減り沈黙が生まれる。魔物が現れても無言でアンノーンオーブ[絶対なる聖域]を発動してサポートする。


(本当に怒っているなぁ、これは)


猿型の魔物を屠り疾風迅雷を解除してガロンは、どうするべきかと考察しながら頭を掻く。そんな時、別の方へ思考を回ってしまったためにガロンは気づかなかった。


「止まれ!そこの者達よ」


木々の陰から3人が現れたのは2メートルを超える巨人。そして、肌の色は赤と青といる。頭部には角が生えている。そして一際大きい武器と筋骨隆々りゅうりゅう


(オーガ。まさか避けていた種族に出会うなんて・・・クソッ!

アストライアーまで遠いはずだろ)


アストライオスの娘であり星女神と呼ばれる女神。ギリシア神話に詳しい人なら気づいただろう。異世界アークブルーの住人達はそんな女神を知らない。

アストライアーはギリシア神話の星空の神である。

異世界でのアストライアーではオーガの大きな村と意味になる。


鬼人とオーガの関係は最悪の一言。長年と紛争が続き最近は減っているとはいえ無いとはいえない。鬼人は傲慢なオーガを嫌い。

オーガは鬼人をオーガの劣等種と揶揄し見下している。ガロンは背中の二槍に手を触れる。


(どうする。こいつらを倒すか)


「待って!人間よ俺達は戦うつもりなんて鼻から無い」


静止の声を上げたのは、止まれと言った赤い肌のオーガ。

武器は蛮刀ばんとうオーガが持つと魂まで恐怖が刻まれそうだ。


「あぁ、ひぃっ!?」


恐ろしく悲鳴をこぼすのは内ケ島。赤い鬼は、内ケ島の反応を見て敵ではないと手を上げて笑顔を作り前へ出るが、失敗。

笑っても鋭い歯や目などが原因で。


「こ、こないでぇ」


「待って、待って。敵じゃねえから安心しろ。俺の名前は

ケンウェイだ。アストライアーの村では腕自慢の剣士だ。ともかく、悲鳴が聞こえてきたんだが、あの少女の悲鳴なのか?」


ケンウェイは、内ケ島の隣に立つガロンに質問をした。この、敵愾心てきがいしんがない事に察知する。


(俺の事を鬼人きじんと思っていない。なら、話し合いでいけるか)


「そうだ。チート能力が近くにいると耳に入っていても立てずに

探していたんだ。それでここの魔物は強くってなぁ」


咄嗟とっさの理由と目的をひらめき事情を伝える。馬車を見かけた事を思い出し切り抜くために嘘の言葉を作り演じる。

ケンウェイの反応は。


「はっはは、それは災難だったな。なら途中まで送ってやるよ」


「なっ!?」


「えっ!?」


「そう、警戒しなくても何もしねぇよ。チート能力者に喧嘩けんかなんてしたくねぇし。逆に評判をよくする目的があるから安心しろ」


警戒心を解こうと事情を説明した。ケンウェイは権謀術数かもしれない。送ってもらえるなら甘えることにしよう。


「それじゃあよろしく頼む」


「おう!任せろ」


ガロンがお願いすると、ケンウェイは白い歯で承諾する。

ガロンも内ケ島もケンウェイ達の親しげに話をしてくれたおかげで

警戒しなくなる。そして、亜人領とオーガの領土の境目に到着。


「警戒して悪かったなぁ、

ありがとうケンウェイ」


「いいってことよ。二人とも気をつけるんだぞ!」


「いや、ケンウェイもう安全だから」


ケンウェイの仲間の青い肌の鬼が突っ込むと、ドッと笑いが上がる。


「ケンウェイさんとオーガさん!ありがとうございました」


元気よく手を振るうは内ケ島。

二人はケンウェイの護衛によりオーガの領土から亜人領に入る。


「いい人達・・・ううん、いいオーガさん達でしたねガロンさん」


「・・・ああ、まさか鬼人の以外ではこうも歓迎するとはなぁ」


「へぇー、仲良くなれるといいですねガロンさん」


「ああ、そうだな」


長い歴史で争っている鬼人とオーガが手を結ぶなど、天がひっくり返ろうと実現しないだろうと心中でそう呟くのであった。

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