第拾漆話―無能と揶揄されたアンノーンオーブ―
「何故、アンノーンオーブを
隠していた」
「・・・憎まれるのが恐かったんです。唯一、優しくしてくれるガロンさんにまで嫌われたら生きていく気力が無かったから」
オーガの所領となる
ガロンはそう仕方なくせざる得なかったと思っているが心の中では感謝していた。天涯孤独で幸福を忘れた彼女を殺めることに強い迷いと
険しい山道に木々が生い茂り隠れるには向いている場所だ。
しかし、魔物が多いのと凶暴なのを目をつぶればの話だが。
「嫌われるか。俺は最初からおまえを仲間とは思ってもいない」
腕を組みガロンは断言した。
快晴とは言わなくても陽光が眩しく空が僅かに流れる天候の下、二人は昼食を食べていた。
リンゴを実る木から槍で丁寧に取って。彼女の分も、何も言わずに渡したガロン。
だからこそ、内ケ島椛葉は良好な関係に戻れると期待していたが、
その一声で絶望的になる。
「ですよね。仲間なんて・・・なかった。どうせ、わたしなんかを好きになってくれるなんていません」
「フンッ、勘違いしていないか。
ウール村に住む鬼達はおまえを温かく出迎えたことを忘れたか」
「わたしを・・・温かく出迎えた」
「そうだ。どんな奴でも関わる者はいる。だから取るに足らない死でも意味はある。悲しむ者はいる、俺はそれを多く見てきた」
ガロンが倒してきた異世界転生したチート能力には、強い絆の人もいれば悪人にも良く思う人もいた。ガロンの人生の
「おまえが命を落とせば村の鬼達は悲しむだろう。そして、そんな悲観になる姿を見せれば余計にだ。
前だけ見るな、ときにはおまえを見る誰かを見ろ」
前だけ見すぎると時には進まらなくなり遅く、遅く、牛歩のようになり心が暗くなる。
そんな時には振り返り誰かが支えてくれる事や見守っている者に向ければ、次に向かうべき明るい力が
「一つの命は一つじゃない
思いがある」
「・・・うぅっ、アッ、ァァァッ」
泣き始める内ケ島は次第に嗚咽となっていく。内ケ島は木に背中を預け葉が落ちた地面に座り顔を
自分の膝に埋める。
「アアッウゥゥゥ」
唸り声のように泣き続ける内ケ島にガロンは、空に仰ぐ見る。
(調子が狂う。俺は復讐のために戦っているのに、本末転倒な
気がしてならない)
内ケ島椛葉が泣き止むまで、ガロンは自問自答したり
内ケ島椛葉は、
「ガロンさん。ありがとうございます。少し楽になりました」
「お礼ほどじゃない。ただ、真実を独白しただけだ」
「どくはく?」
「
意味が分からず首を傾げた今出川の姿にガロンは一言で説明して移動を始める。内ケ島はなるほどっと頷きガロンの背を追う。
オーガとエレナ達に見つからずに移動していると熊型の魔物と接触した。ガロンは、二つの槍を抜き内ケ島は杖を取り出してアンノーンオーブ[絶対なる聖域]を発動する。
ちなみに杖を取り出さなくても発動できて関係はなかった。
内ケ島が出来る事は状態異常を回復と無効の広大な聖域を発生させること。回復魔法が使えない内ケ島椛葉が
「疾風迅雷にも、色々と試してみたい事があったからなぁ。
はあぁぁぁ、はぁっ!」
ガロンは3頭の熊の魔物に突然。
槍を高く掲げ振り下ろしの打撃。
「グガアア」
速度を上げて片方の槍で致命傷の突きを放つ。
「ァァァ!?ガアアッ」
読みを与えず、素早く攻撃したガロンに魔物の熊は倒れる。残り2頭。
「ガアアァァッ!」
鋭い爪で切り裂くには、あまりにも鈍感だ。疾風迅雷を使わなくてもこれぐらいの敵は数の内に入らない。内ケ島のアンノーンオーブを頼りに疾風迅雷の戦法を編み出そうと模索している。
「もう少し頭を使ってくれば、練習にはなるんだが・・・魔物にそれを求めるのは、石に
二槍で熊の胴体をクロスの形で打撃に苦しもがく。
「グウオォォ」
「トドメだ」
ニ槍で突き絶命する。
「最後の一頭は逃げるか。遅い」
ガロンは背を見せた魔物に飛びつくようにニ槍を突きさした。
熊の背をどき槍を抜き、血を払う。そんな生々しい戦いに内ケ島椛葉は杖を持つ手は震え顔を青ざめていた。
「どこかで洗わないといけないか。・・・まだ、慣れないのか」
「ひっ!?は、はい。まだ、
恐いです」
「そうか・・・なら、練習してみるか?」
「練習ですか?」
「ああ、俺の威圧感を耐えるものだ」
ガロンは、そう言い終えると威圧感を起こし出す。鋭い眼光で敵を狙う狩人。空気が一変して息苦しくなるのを内ケ島は感じていた。
「あぁぁぁっ!!?」
恐怖に潰されそうになり足が震え転倒して地面に両手をついて後へ逃げようと顔をガロンに向けたまま。
「・・・冗談だ。気にするなぁ」
涙ぐんで逃げようとするひどい姿にさすがのガロンも傷ついた。
圧力は霧のように消えて内ケ島は冷静になり自分の失礼な反応に激しく後悔した。立ち上がり頭を深々と下げる。
「も、申し訳ありませんガロンさん・・・気をつかってくれたのに。
本当にごめんなさい」
「気にするなぁ。
ただの
もちろん嘘。顔を上げた内ケ島はガロンが言葉の鋭さが無いことに落ち込んでいると気づく。
「もう一度、お願いします」
挑戦しようと思った内ケ島。ガロンは内心そんな驚いていた。
「いいだろう。だが、先程のような圧には耐えれないだろうから
かなり抑えてやるぞ」
「はい!お願いします」
ガロンの戦圧に内ケ島は膝をつきそうな力に耐える。汗は頬を流れて次第に気にしないほど苦しくなる。だけどまだ立つ。少しずつ圧力を増していき、内ケ島が膝をつくと限界と思い霧散。
「休憩しよう」
「は、はい!」
それから山岳地帯で3日ほど魔物を狩り魚を獲り食事して威圧に屈しない精神力を鍛えていく。
「なかなかの成長速度だな。
ここまで耐えれるようになるか」
「えへへ、そうですか?」
ならと、全力で上げる。
「ガロン。もう少しレベルを上げても構いませんよ」
(なにっ!?
3日でここまで耐えれるのか)
さっきまでは全力じゃない圧力に怯えていたのが嘘のようだった。
ガロンは、これを自動効果を持つアンノーンオーブではないかと考慮したが、そもそもアンノーンオーブは一つしかないと至る。
(なら、精神力が元々は強いのかもしれない)
「ガロンさん?もう慣れましたのでレベルアップをお願いします」
聞こえなかったと考えた内ケ島は催促した。ガロンは思考を巡らすのを中断して次のステップに移ることにした。
「ここまで慣れれば十分だ。
次はこの圧力のまま歩いてみろ」
「は、はい!やってみせます」
内ケ島は、深呼吸して歩き始める。まるで戦意を漲らせるガロンなど、どこ吹く風だ。
(・・・まるで、気にしていないみたいだ)
「次は俺の前まで走ってみろ」
「は、はい!」
言われた通りに内ケ島はガロンの前まで走って寄る。恥ずかしくなる内ケ島は頬を赤らめ上目遣いを向ける。
一般の人なら美少女にそう向けられるとドキマギするだろうがガロンは、そういう感情は起きなかった。
「まさか・・・ここまで成長するとは。この練習はもう教えることはなくなった。見事だ」
「えっ?もう、終わったのですか。その、面倒くさくて手加減とかしてませんか」
内ケ島は、手加減をしてくれたと勘違いした。そんな天然なところにガロンはため息をこぼした。
「おまえが自分で思っているよりも成長は早い。自身を持って俺が認める」
「わあぁ、はい、ガロンさん!」
内ケ島椛葉は屈託のない笑顔でガロンの言葉に嬉しくて仕方ないと言わんばかりな反応を示した。
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