第24話:お礼もかねて
この日は冒険者登録窓口だけで終業を迎えて事務作業へと移っていたアヤだったが、隣で作業をしているリューネにこんな提案を口にした。
「今日の晩ご飯はご馳走させてくれませんか?」
「……何よいきなり」
「換金窓口でドロップアイテムを換金して臨時収入が入ったので、リューネさんにはそのお礼をと思いまして」
「お礼って、だからこれくらいでお礼なんてしてたら後から大変――」
「はいはいはーい! 私も行きたいでーす!」
リューネの隣で作業をしていたパーラが右手を上げながらリューネのデスクに割り込んできた。
「ちょっと、邪魔なんだけど!」
「えぇー、二人だけで楽しむの? 大丈夫、私の分は自分で払うからさ!」
「あっ! だったらパーラさんも行きましょう! 今日は私の奢りです!」
「本当! やったねー!」
「私はまだ行くって言ってないんだけど?」
「「行かないんですか!?」」
左右から詰め寄られたリューネは頭を抱えて大きく溜息をつく。
それでも離れてくれない二人に諦めたのか、リューネも渋々頷いた。
「……すぐに切り上げるからね」
「ありがとうございます!」
「それはこっちのセリフ。奢りなんでしょう? ありがとね」
「……リューネさん、なんか格好いい!」
「パーラは本当にうるさい!」
あははと笑いながらパーラが仕事に戻り、リューネとアヤも仕事に戻る。
書類整理を早々と終わらせた三人は挨拶もそこそこにレイズ支部を後にして食堂へと向かった。
向かった先はモラの食堂だった。
すでに多くのお客様が入っていたのだが、なんとか机を見つけて席に着く。
すぐにモラが注文を取りに来てくれて、料理と飲み物を注文する。
「あれ、飲まないんですか?」
「明日も仕事なのよ?」
「私は飲めませーん」
「そうですか……」
お酒を注文していたアヤは申し訳なく思ってしまったが、二人とも気にしていないと言ってくれたので純粋にこの場を楽しもうと考え直した。
「それでは、今日は私の初ダンジョン攻略祝いで!」
「そうだったの?」
「知らないわよ」
「い、いいんです! それじゃあ皆さん――」
「「「乾杯!」」」
グラスを打ち鳴らして喉を潤していく。
アヤはお酒を一気にあおり盛大に息を吐き出した。
「ぷっはー! あー、美味しいですねー」
「アヤさんって意外と呑兵衛なんですね」
「の、呑兵衛って。たまに飲む時だけは楽しく飲みたいんですー!」
「あなたたち、食事くらい黙って食べられないの?」
「「無理です!」」
「……あ、そう」
黙々と料理をつまみお茶をすするリューネとは異なり、アヤとパーラは何でもない話題で盛り上がり笑い声を出している。
時折リューネを巻き込もうとしているのだが、その度に受け流されて二人はぶーぶー言っていた。
「パーラは分かるけど、アヤまでそんなことを言うの? あなた、酔っているんじゃない?」
「酔ってませんよー! 本来の私はこうなのです!」
「キリッ!」
「……パーラも茶化さないの。アヤ、明日が休みだからってあまり飲み過ぎたら――」
「えっ? 私も明日は出勤ですよ?」
「……そうなの?」
「はい。……えっ、二人とも私は休みだと思ってたんですか?」
お酒を注文した時点で二人ともアヤが明日は休みだと思っていたので何も言わなかったのだが、まさか出勤だとは予想外だった。
「……あんた、お酒はこれで終わりだからね!」
「そんなあ!」
「今回はリューネさんに賛成!」
「パーラさんまで!」
二人からストップが掛かり、アヤはすがるような目で交互に見ているのだが全く相手にされない。それどころか睨み返される始末である。
「これ以上飲ませて遅刻とかされたら支部長やヴィル様に合わせる顔がないわよ」
「同感。ってかアヤさん、明日来ますよね?」
「ちゃんと出勤しますよ! だから飲ませてくださいー! 今日のお酒は美味しいんですよー!」
「「ダメ!」」
「……あうぅぅ~」
結局、その後は水を飲まされ続けて料理を全て食べ終わるとお開きになった。
「も、もう少しだけ~」
「「帰るの!」」
「……はいぃぃ~」
もう少しだけ一緒にいたいのは本当だったのだが、それでも今日の飲み会はとても有意義なものになったとアヤは最後の最後まで笑顔を絶やさなかった。
※※※※
帰り道も楽しい道のりだったのだが、分かれ道に差し掛かり二人と別れたアヤは星空を眺めながら夜道を一人で歩いていた。
「はあー、今日は本当に楽しかったなー! パーラさんだけじゃなくて、リューネさんとも仲良くなれたし、明日からもまた頑張れるぞー!」
機嫌良く独り言も止まらないアヤは、家の前に人影を見つけた。
「……誰だろう?」
夜も深くなっている。こんな時間に自分の家を訪れる人に当てなどなかった。
本来ならば警戒すべきなのだろうが、今のアヤは機嫌も良く酔っぱらっている。
思考は相手を待たせてはいけない、という方向へ行ってしまい早足で家の方へ向かってしまう。
「あのー、どちら様ですか?」
そして振り返った人影を見て――後ろから顔に布を被せられてしまった。
「な、何を――ぶふっ!」
布の上から口を押えられてしまい声が出せない。
何とか逃げ出そうと手足をばたつかせるが、それすらも強い力で押さえつけられてしまう。
「――あなたが悪いのよ」
家の前にいた人物のそんな呟きが頭の中でこだましながら――アヤは意識を失ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます