第16話 鑑定屋テリー

 翌日、昨日集めた廃品からできた品物を元実家に預け、再び朝早くから街に繰り出していた。


「いらない物、捨てたいゴミがありましたら、あたしたちが無料で引き取りにお伺いして作業を致しますので、お気軽にお声かけくださいませ」


 ラディナさんたちに呼び込みをしてもらいながら、ラビィさんに荷馬車を運転してもらい街中を流していく。


「よぅ! ねーちゃんたち、昨日から街で噂になってる廃品回収してくれるって子たちだろ?」


「はいっ! なんでも回収させてもらいますよ。フィナンシェ君、お客さんよ!


 ラディナさんに呼ばれ荷馬車の奥から出てくると、俺たちに声をかけてきたのは鑑定屋の主人であるテリーさんだった。


「あ、テリーさん。ご無沙汰してます」


「おお、フィナンシェか。そうそう、お前がこのお嬢ちゃんたちとゴミ集めしてるって噂になっててな……そんなに借金で生活が苦しいのか? 親父さんやお袋さんから色々と頼まれた身としては、心配でしょうがないんだが」


 鑑定屋のテリーさんは、両親がダンジョンで見つけてきた未鑑定品を持ち込んでいた繋がりで、冒険者になった当初は世話になっていた人だった。


 けれど、俺がフィガロのパーティーを追放されてからは彼の店から足が遠ざかっていた。


「えっと、その……実はこれには色々とありまして……借金の返済の方はほぼ目処が立ってまして。問題はないので安心してください」


「お、おぅ、そうか。ならいいんだが……借金で困ってるなら、冒険者やめてうちの店の手伝いでもと思ったんだがな。返済の目処が立ったならわしも安心だ」


「フィナンシェ、知り合いかー?」


 停車していた荷馬車から、ラビィさんが降りてきた。


「あ、はい。両親がお世話になってた鑑定屋さんです」


「鑑定屋か、ワイはエルンハルト・デルモンテ・ラバンダピノ・エクスポート・バンビーノ・フォン・ラビィだ。フィナンシェはワイとパーティーを組んだから安心せい」


「なっが」


「おっさんっ! ワイの神聖な名前が長いとか言うなやー! いてこましたるぞっ!」


「まぁ、兎人族とはいえフィナンシェに仲間ができて、ぼっち冒険者から卒業か。良かった、良かった」


 飛びかかろうとしているラビィさんを、テリーさんが上手く頭を押さえてあしらっていた。


「おっさんっ! ワイに対する狼藉っ! 許さへんでぇ!!」


 頭を押さえられたことで、ラビィさんが飛びかかれずに手を振り回していた。


 こういう姿のラビィさんを見てると癒されるわぁ……。


「フィナンシェがぼっち冒険者から卒業となれば、わしからも祝いの品の一つでも……進呈する――」


「あ、いや。そんなの悪いですから……あっ、そうだ! テリーさんの店の不用品ください。ほんと、廃棄するような物で結構ですから」


「は!? フィナンシェ……そんな遠慮しなくてもいいんだぞ」


「いや、遠慮とかじゃなくって、本当に切実に不用品が欲しいんです。自分を成長させたいので、不用品がすごく欲しいんです!」


「お、おぅ。よく分からんが、そんなのでいいなら、うちの倉庫に呪いがかかってて鑑定できずに積んであるもん持ってっていいぞ。鑑定不能の呪いが鑑定スキルを受け付けんから処分に困っておるもんだからな」


 俺の勢いに圧倒されたテリーさんが、倉庫の不用品の持ち出しの許可をしてくれた。


「あ、ありがとうございますっ! じゃあ、全部俺が引き取らせてもらいますっ!」


「お、おぅ、いいぞ、持ってけ。倉庫の場所は知ってるだろ。わしは店におるから帰る時は声をかけてくれ」


「はい! ラディナさん、こっちです、こっち!」


「うん、今行くわ! テリーさん、お邪魔しますね。みんなこっちよ」


「「「「はーい」」」」


 ラディナさんと村の娘たちがテリーさんに挨拶して店の方へ行こうとすると、ラビィさんが吼えていた。


「おっさんっ! ワイに対するこの扱い許さへんからなぁ! 覚えとけよ!」


「わしも歳だからなぁ、ついさっきのことも忘れやすくってなぁ。はっはっは!」


「このおっさんイラつくわぁー! ぜぇええええったい、どついたるっ!! 放せ! フィナンシェ! ワイはあいつのドタマを絶対にどついたるんやぁ!」


「ラビィさん、落ち着いて! さぁ、行きますよ」


 俺はいきり立つラビィさんの手を引き、勝手知ったるテリーさんの店の奥にある倉庫へ入っていった。



 ほこりとカビの匂いのする倉庫に入ると、隅の一角に乱雑に積み上げられた品物の山があった。


「フィナンシェ君、だいぶほこりが積もってるね。口元を布で覆った方がいいかも」


 ラディナさんが、ポケットから出したハンカチで俺の口元を覆ってくれる。


 本当によく気が付く人だ。


「ありがとう、ラディナさん! 重そうな物は俺が運ぶからね」


「うん。でも、できればフィナンシェ君と一緒に運びたいな。ダメ……かな?」


 薄暗い倉庫の中だが、ラディナさんの顔が赤く火照っているのが見える。


 い、いや、そんな顔されたら断れないでしょ。


「あ、はい。いいです――」


「おーい! フィナンシェ、狂暴女。そんなところで油売っとらんと、はよこっちにこいやー。ぎょーさん、未鑑定の品物が積んであるでぇ」


 先に廃棄予定の未鑑定品の山にたどり着いていたラビィさんたちが、俺たちが来るのを今かと待ち遠しそうにしていた。


「はーい! 今行きますから~! ラディナさん、ラビィさんが呼んでるんで行きましょうっか」


「もぅ、あの口悪兎はタイミングが悪いわよ……」


 俺たちは手を繋ぐと、倉庫の奥に向かった。

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