第11話 金髪馬鹿
宿を出て、街の外れ近くに来ると俺の実家に到着した。
そして、すぐにラビィさんが品定めを始める。
その間、ラディナさんが村の女の子たちと一緒に、家の中を色々と見て回っていた。
「おぉ、意外とデカイ家やんけ。ちょっと外壁が痛んどるが、井戸、納屋付きの一〇〇万ガルドならそう悪い物件でもなさそうやな」
「でしょ。俺としても空き家にされているより、みんなが使ってくれた方がいいなと思うし」
「フィナンシェ君! みんなも結構気に入ったみたいよー。個室も人数分あるしー」
俺の実家は、冒険者だった両親が祖父母のために作った家で、個室は結構多めに作ってあった。
それが、女性たちにも気に入られたらしい。
この家は俺が産まれてからずっと祖父母と一緒に住んでた家だ。
でも俺が成人後、スキルの件でゴタゴタに巻き込まれ、違約金を払うハメになったと知った祖母が心労で倒れて亡くなると、人手に渡っていた。
それがちょうど一年前の話だ。
以来、ここは誰も住んでいない空き家になっている。
「ラビィさん、買っていいですかね?」
「おぅ、住むやつらが喜んでるからな。買うて損もないやろし、持ち主を連れてこいやー」
「その必要はないよ。久しぶりだねぇ、フィナンシェ君。借金の返済の目処は立ったかい? まさか、街のゴミ拾いだけで返せるとか思ってないだろうね?」
ラビィさんと話していたら、後ろから気分の悪くなる声が聞こえてきた。
声の主は、この家の持ち主になったフィガロという男だ。
配下の男を二人引き連れ、俺たちを見ていた。
金持ちのボンボンでありながら、冒険者もしている変わり種の男だった。
この男が俺をトップパーティーに誘い、次いで追放した男で借金した先でもあった。
「一応、目処はついたかも。このラビィさんと一緒に稼ぐことにしたからすぐに三〇〇万ガルドくらい返すさ」
さらさらの金髪を弄っていたフィガロの碧眼が見開いた。
「へぇ、面白いこと言うねぇ。そんなけもの兎と組んで三〇〇万ガルドを返せるって言うのかい?」
「おう! ワイとフィナンシェが組めば三〇〇万ガルドくらい訳ないわ!!」
「面白い法螺を吹く兎だ。この男が『ゴミ拾い』フィナンシェだと知って言っているのか? スキルすら満足に使えないゴミ野郎だぞ」
フィガロは、俺を見下すような視線を向けていた。
なんでか知らないが、金持ちのボンボンで年上の癖に、俺に対して常に難癖をつけてくるのだ。
俺が大きな借金したのも、こいつのトップパーティーから追放された際の違約金である。
『無能の君が悪い』と言って、違約金の借用書にサインさせられたのは今でも忘れていない。
そんな、フィガロにラビィさんが一〇〇万ガルドの金貨が入った革袋を投げつけていた。
「フィナンシェの借金は後でワイがしっかり稼せがせたるで安心せい。その前にワイにこの家を売れや。金はそこにある分で足りるやろ」
フィガロの配下が革袋を拾い金貨を数え終えると、彼に耳打ちしていた。
「ふん、多少の金は持ち合わせているようだな。だが、これは家の売買代金だ。フィナンシェの三〇〇万ガルドは別口だから必ず返すように」
「すぐにでも返せるようにしますから、待っててください!」
「フィナンシェ君、誰かお客さん?」
家の中を見学していたラディナさんたちが、声に気付いて外に出てきた。
その瞬間、フィガロの鼻がピクピクと動くのを見逃さなかった。
やばい、こいつラディナさんに興味を持った。
とっさにフィガロの視線から、ラディナさんを遮るように立つ。
「どきたまえ、フィナンシェ君。その麗しい女性と私は話をしたいのだよ」
「断る! 彼女は俺の婚約者だ!」
「『無能』の君に婚約者だと? あり得ない嘘を私に言って笑わせるな。さぁ、どけゴミが邪魔をするな」
「ちょっと!!! そこの金髪馬鹿!! あたしの婚約者を馬鹿にしてタダで済むと思ってないでしょうね!!!」
俺を馬鹿にしたフィガロに対し、ラディナさんが激怒していた。
「き、金髪馬鹿!? そ、それは私のことかい?」
「ええ、そうよ! あんたしかいないでしょ、この場に金髪は」
キョロキョロと周囲を見渡すフィガロ。
ラディナさんの言う通り、金髪はフィガロしかいない。
「いきなり女性を口説こうとかって、フケツです。金髪馬鹿決定ですね」
「ぷっ、ラディナさん直球すぎ」
「フィナンシェ君とラブラブだから、相手の人も可哀想に」
「確かに金髪馬鹿って顔よね」
「……馬鹿」
「金髪馬鹿のことよりラビィさん、この新居で一緒に暮らしましょうよー」
「あほう、ワイは世界を股にかけて冒険する男やぞ! 一つのところに腰を落ち着けられるかい! まぁ、寄った時くらいは顔を見に来たるで待っとれや」
アステリアさんも、ティランさんも、ルーシェさんも、セーナもハナちゃんも言い過ぎじゃ……。
間違ってはいないけども。
散々『馬鹿』と言われたフィガロが、顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
配下の二人もそう思っているらしく、笑いを堪えている。
「フィ、フィナンシェ君!! どうやら、私を怒らせたようだね! 三〇〇万ガルド返せると言ったからには返せなかった時は、君の婚約者と言ったラディナさんを身代わりに頂くことにした。それと、返済期日も今より一週間とさせてもらう。精々そこの兎と金を稼ぐ算段をするがいい!」
フィガロは顔を紅潮させたまま、そう言い捨てると配下を連れて戻っていた。
だが、途中で何かを思いだしたのか、配下の一人が戻ってくるとラビィさんに紙を手渡していた。
「なんやねん、あの金髪馬鹿は。まぁ、キッチリと家の権利書は渡していきおったから、律儀っちゃあ、律儀なんやろうけど。けったいな奴やな」
「す、すみません。ラビィさんまでトラブルに巻き込んでしまったようで……」
「フィナンシェ君、とっとと三〇〇万ガルド作って叩き返してやりましょう!!」
「ラディナさんも巻き込んでしまったようで申し訳ない」
「何、大丈夫よ! あたしとフィナンシェ君の力とラビィの口があれば三〇〇万ガルドなんてすぐにできるわよ」
「よっしゃ、ワイらのパーティーの初仕事はフィナンシェの借金返済からやな。腕が鳴るでー。その前にまずは掃除や。掃除して落ち着いてから話を始めるでー。準備よろしゅう」
ラビィさんが自分たちの物になった俺の元実家に入っていくと、俺たちも後を追って入っていった。
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