第239話 子龍との食事


子龍の元に近寄り声を掛けた。


「ありがとう、子龍。

 結果はどうあれ、やれる事はすべてやった。

 お前も回復を祈ってくれ」


子龍はコクンと頷いた。


「ポーション、飲むか?」


マジックランドセルからポーションを取り出し子龍へ放り投げると器用に空中でキャッチし蓋を開け飲んだ。


「う、美味しくない」


「良薬口に苦し、という言葉があるくらいだからな」


「お姉ちゃんにヒールを掛けてもらう方が気持ちいいな~

 お姉ちゃんの癒しの力は心が休まるんだよな~」


先ほどの喧騒は一体どこへいってしまったのだろう?

子龍の邪気はどこかへ消え、俺の殺意も今はどこにもない。

聖女さまの為せる業なのだろう。

智弘もミリアも適当に座り休んでいる。

智弘のゼーゼーという息遣いが聞こえる。

辛そうに智弘が言う。


「碧、何か食い物無いか?」


「あぁ~食事にしよう。体力が回復するものを食べよう」


マジックランドセルからカレーとから揚げの残りを取り出した。


「各自、取り分けて食ってくれ。

 子龍、お前も食うか?」


「くれるの?」


「あぁ、お前さえ良ければ。子龍が何を好物にしているか知らないが」


「人間の食べ物、美味しいから・・・・・・久しぶりに食べてみたい」


「いっぱい食いそうだから・・・・・・ちょっと待て」


中華君に溜まっている龍の涙をマジックランドセルに流し込み、中華君の上にありったけのから揚げを置いた。


「とりあえず、から揚げだ」


子龍は爪先でから揚げを器用に1個だけ摘むと口の中に放り込んだ。


「ウウウウ、美味しい! こんなに美味しい物は久しぶりに食べたよ」


「美味いだろ~~ その辺のから揚げなんかより俺の作るから揚げはもっと美味いからな!」


次から次へパクパクと口にした。


「カレーって知っているか?

 これがそうなんだが」


と中華鍋にライスを入れ寸胴からカレーをよそい子龍のとこまで持っていった。

子龍の鼻腔をカレーの香りがくすぐったとき


ジャバーーーー!


「なんだ!! これ! ヨダレかよ! 汚ねーな!!」

思わず上から降ってくる大量のヨダレをかわすために飛びのいた。


「だって、だって、仕方ないじゃないか! 美味しそうな臭いがするんだもん」


「お前はガキか!・・・・・・あ~そうだった。子供なんだよな。

 図体がでかいから大人だと思っていた」


子龍はヨダレを拭き中華鍋を持ち上げ、一気に啜った!


「お前! カレーは飲み物じゃないんだぞ!!」


「くはーーーー美味しい!! 何これ!! 美味しすぎるよ!!!」


とカレーを一気飲みをすると


クオーーーーー! クオーーーーー! と雄たけびを上げた。


「お前! うるせーよ!! 将太が起きちゃうだろう!!」


と耳を塞ぎながら怒鳴った。


「しょうがないじゃないか! こんなに美味しいもの今まで食べたこと無いんだもん!!」


「さすが碧のカレーだな!」

「お主の料理は龍まで魅了するのか」


どの世界でもいつの時代でもカレーほど暴力的な料理は無いのでは無いだろうか?

あの香りを嗅いだだけで脳が欲しがってしまう。

悪魔の料理なのかもしれない。


「ねぇ、ねぇ! 他にもない?」


子龍がおねだりをしてきた。


「まだ、色々あるぞ! 次はパスタなんてどうだ?」


マジックランドセルから取り出し中華鍋にパスタとミートソースを装った。

豚汁、サラダ、うどんetc次々にマジックランドセルから取り出し振舞った。


「美味しい、美味しい。

 人間の作るものは何でも美味しいね」


モグモグと片っ端に平らげる。


ジャラ、ジャラ、ジャラ・・・・・ジャラ、ジャラ!


「その鎖、うるせーな! 

 おい、子龍! 繋がれているという事はお前の力じゃ引き千切れないということだよな」


「うん、この鎖は『戒めの鎖』と言われていて・・・・・・悪い事をした龍が縛られるんだ」


子龍は下を向きながら言った。


「お前、ガキのクセに悪さしたのか!」


子龍は何も答えなかった。

これがあるからドラゴンたちから逃げることが出来なかったのだ。

形勢が不利になるとあのようにとぐろを巻いて身を守るしかなかったのだろう。

そして嵐が過ぎ去るのをじっと待つ。

なんて残酷な刑なのだろうか。


「ちょっと待ってろ! 

 このカッコいいお兄さんがぶった切ってヤッからよー」


マジカルランドセルからまぐろ君を取り出す。


「無理だよ! この鎖はアダマンタイトで出来てるし、この霊峰の地脈と繋がっているから鎖を斬ることが出来ても霊的にこの山と繋がっているんだ。

 だから無理だよ」


「お前、ずっとここで独りでいたんだろ。寂しかったんじゃないか?

 鎖が無くなれば自由になれるだろ。

 仲間のところへ行けばいいじゃないか」


「仲間は僕を受け入れてくれないよ・・・・・・」


「なぜだ? お前、子供なんだろ! 受け入れてくれるんじゃないか?」


子龍は答える事は無かった。


「答えたくないなら無理に聞かないよ。待ってろ!」


まぐろ君を肩に乗せ子龍の足元に行く。

緑色の鎖が地面から伸びている。


「この先が地下の地脈と繋がっているのか。

 この辺りを切ればいいかな」


大体の切断する箇所に当たりをつけ


「うんじゃ、ぶった切るか!」 


どっせー!!


の掛け声と共にまぐろ君を振り上げ、振り下ろす。


パキンッ!


と言う鋭い金属音がはじける音と共に緑色の鎖は切断された。


「な~!!」


と子龍に勝ち誇った顔をして見せた。


「カッコいいお兄さんはやるだろ!!」


「え、まさかアダマンタイトをそんなに簡単に切断するなんて・・・・・・

 でも、地脈は切れていないよ」


子龍は数歩歩くと ガン! という音と共に子龍の足に付いている鎖と地下から出ている鎖がピンと伸びた。


「え?マジか!」


「ホラね」


と子龍はガッカリした顔をした。

ピンと張られた鎖と鎖の間を触ると。

片手で掴める太さの何かがあった。


「掴める! これが地脈なのか!

 これがそうなのか?」


「そう、それが霊峰の地脈なんだ。

 鎖が切れても、地脈と繋がっている限りここから離れることが出来ないんだ」


と悲しそうな顔をした。

 


「あぁ~ん、諦めんなよ!!

 このカッコいいお兄さんがぶった切ってヤンよ!!

 女神さまから貰ったまぐろ君を舐めんなよ!!

 まぐろ君は『何でも切れる』という設定なんだよ!!

 血脈だろうが霊脈だろうが、ぶった切ってヤッから!!」


ペッ! ペッ! と両手に唾をつけ上段の構えから見えな鎖と鎖の間の見えない地脈目掛け振り下ろした。


どっせーー!!


バビン!!という甲高い音がするとピンと張られていた鎖が地面に垂れ落ちた。


「すごい、切れた! 切れたよ! お兄さん!」


「なぁ~ 言っただろう! カッコいいお兄さんを舐めんなよ!!

 待ってろ、こっちの足枷も切ってやるから。

 じっとしてろよ」


今度は一気に切断するのではなくノコギリの如く、ゆっくりと前後に動かし子龍の足に傷を付けないように少しずつ切れ目を入れていった。

何度目か前後に動かすとジャランという音をたて足枷が地面に落ちた。


「切れた! 凄い! 『戒めの鎖』から解放されるなんて思ってもみなかったよ!

 クォーーーン! クォーーーン!!」


「だからお前はうるさいんだよ!! 一々、鳴くな!!」


そのとき、将太がゆっくりと体を起こした!!



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