第218話 イシス・メイザース
今回の私の任務は遠足の付き添いだ。
異世界から来たガキどものお守りが主たる任務だ。
ズガーンダムとかいうのとワレトラマンのお守りををフェルナンド王陛下から賜った。
ズガーンダムとか言う巨人は全高20mくらいある金属製のゴーレム。
剣や槍はもちろん、魔法でさえダメージ一つ与えることが出来なかった。
私の最大魔法ヘルフレイムは無論、ウインドカッターも受け付けなかった。
ビームライフルという武器があるのだが1点集中しているため広範囲への攻撃へは向かないが貫通力は魔法の比ではない。
ビームサーベルはたいていの物は切断が可能のようだ。
神話にあるタナ様の剣を切断出来るか試して欲しい物だが・・・・・所詮、神話の話だ。
ビームライフル、サーベルよりも普通に殴る蹴るの方が単純に使い勝手が良さそうだ。
20mの巨体があれば家どころか塔なども破壊可能だ。
ルホストの町を覆った土壁の破壊に役に立った。
もし、ズガーンダムとワレトラマンがいなければ私が魔法で一々破壊しなくてはならなかった。
町全体を覆う土壁を壊すなんて考えただけでも眩暈がする。
ガキどものおかげで無駄な労力を使わずに済んだのはありがたかった。
ルホストを覆う土壁は一瞬にして作られたそうだが、一体何者がやったというのだ!
当代一の魔法使いである私なら出来なくは無いが・・・・・しばらく動けないほどの魔力を消費するだろう。
だから二日にかけて壁と屋根を作ったのだろう。
いずれにしてもオリタリアにはアレだけの事をやってのける魔法使いがいると言うことだ警戒せねばなるまい。
ワレトラマンは使い物になるのか?
私には『ウドの大木』にしか思えないのだが・・・・・
40mの巨体は魅力的だ。
ルホストの土壁を破壊するのには多いに役に立った。
手から出る魔法も破壊力があるがズガーンダムと同じく広範囲攻撃には不向きだ。
ビームライフルと違って数秒間発射し続けることが出来るから点ではなく面での攻撃が可能な分、まだマシだが・・・・
マシなレベルだ。
広範囲魔法のようにはいかない。
しかも3分しかワレトラマンでいられないではないか。
3分経過すればどこにでもいる普通のガキだ。
先ほど指揮するといったが、このガキの回収が最大の任務だ。
くだらない任務なのだが無防備になったガキを放置しておくわけにはいかない。
たった3分だが瞬間火力はハルフェルナ最大だろう。
奇襲をかけるにはズガーンダムがノソノソ歩いていくわけにはいかない。
だからワレトラマンに空から迅速に運んでもらい安全に降下させる。
安全に降下させるには霧でナミラーの町を包み敵の視界を奪うのも作戦の一つだ。
私が当代一の魔法使いと言われるのも天候を変化させることが出来る数少ない魔法使いだからだ。
坊やがワレトラマンに変身してズガーンダムを持ち上げ高速でナミラーまで運ぶ。
私の飛空魔法ではとてもではないが追いつけない。
私がナミラーに到着するとワレトラマンは予定通り両腕をクロスさせ魔法を放ち砦の破壊に成功した。
フフフフ!
勝った。
これでナミラーの駐屯部隊はほぼ壊滅だろう。
あの魔法は燃やす力は無いようだ。
が、砦の半分は破壊することが出来た。
騎兵隊、そして後から突入する歩兵部隊も仕事がはかどる事でしょう。
そして、ワレトラマンの坊やは変身が解け素っ裸の状態で何やら大声を張り上げている様子だ。
会話を聞くとどうも知り合いのようだ?
坊やたちの知り合いと言うと初日に追放された子たちか、後日に逃げ出すことに成功した女子生徒たちしかいないはずだけど。
どうも同じ年頃の少年と少女と会話しているようだ。
初日に追放された子たちか。
まだ生きていたのね。
中々しぶとい坊やだこと。
そういえばバルボア卿が追っ手は撃退されたと言っていた。
騎士の追っ手を撃退出来る技量があるということは侮れないわね。
生身の『僕たち』よりは強いのは間違いないわね。
でも所詮、その辺にいる子供たちレベルの話。
私の足元には及ばない。
まぁ~~嫌ね。
あの子は何をしているの。
裸のまま、股間を前後に振って。
どれだけ馬鹿なの。
あの年頃の男の子はガキ気分が抜けないのね。
これだから年下の男はダメなのよ。
男は渋みと円熟味が増してからね。
「鈴木! お前!馬鹿か!! フェルナンドに利用されているだけってのが分からないのか?
アイツは魔王になったんだろ!
魔王なんかに与してどうするんだよ!
正義のワレトラマンが泣いているぞ!」
あら、向こうの坊やはフェルナンド陛下を侮辱するのね。
「ファイヤーボール!!」
二人めがけ魔法を唱える。
少年が少女を庇うように盾を構え前に出る。
ファイヤーボールが盾に当たり何事も無かったように霧散する。
あの坊や、なかなか良い反射神経・判断をしているわね。
渾身のファイヤーボールだったのだけれど・・・・
あの盾は業物ね。
あの盾をフェルナンド陛下に献上すれば喜んでいただけそうね。
今は『僕』のお守りが優先ね。
あの坊やを殺すのは次の機会にしましょう。
「僕! 用事が済んだから撤退よ!」
「イシスか! 『僕』扱いするなよ!」
「二十歳にもなってないガキが偉そうなこと言わないの!
ほら、帰るわよ!
そっちの僕とお譲ちゃんもバイバーーイ!」
「白田! お前は死んでもいいが緑山は死ぬんじゃないぞ!
俺のハーレム要員だからな! ハハハハ」
「ほら、バカ言ってないで行くわよ」
・・・・・これだからガキのお守りは疲れる。
『僕』を抱え空に舞い上がりルホストの町へ帰還する。
「なぁ~ イシス、俺、カッコ良かっただろ!」
「素っ裸の『僕』が何言っているんだか」
「『僕』扱いするのは止めろよ!」
「ルホストへ戻ったら、さっさと服着て騎士にイラークまで送ってもらうのよ。
イラークへ着いたら、そこからイズモニアのワセンにいるフェルナンド陛下の元へ合流するのよ。
分かってる?」
「分かってるよ。人使いの荒いこった!」
「何言っているの! これは戦争なんだから!
あんたも男爵位を授かったんだから、それくらい働きなさい!」
「分かってるよ。
なぁ~イシス。お前も俺のハーレムに入らないか?」
「はぁ? 何言ってるのよ! 『僕』のクセして!
手を離すわよ!」
「なぁ~良いだろ? イシスはキリッとした美人だからさぁ~」
「『僕』! それ以上言うと本当に手を離すわよ!!」
・・・・これだからガキはイヤなのだ。
まだ何か言っているみたいだが私は無視する事にした。
ルホストに着きガキを下ろす。
「『僕!!』言われた通りにするのよ! 分かった!!
とっとと服を着る!!」
「分かってるよ」
「私はナミラーへ行ってくる」
ズガーンダムとワレトラマンの攻撃で今やナミラーは陥落寸前。
私がナミラーに着くころにはすべてが終わっているでしょう。
ルホストの土壁事件で侵攻が遅れたけど、これで帳消しね。
フェルナンド陛下もお喜びになることでしょう。
私は飛空魔法でナミラーの向かう。
流れ星? 鳥?な訳は無い。
鳥があんなに高く飛べるわけが無い。
途中、私の遙か上空を何かが飛んでいったのが分かった。
はぐれのワイバーンあたりかもしれない。
そんなことよりナミラーへ向かい歩兵部隊の援護をしなくては。
ナミラーの町へ近づくと・・・・・何か様子がおかしい。
殺気を一切感じない。
軍と軍がぶつかり合えば憎しみ、怒り、憎悪など悪しき感情がぶつかり合っているのだがナミラー方向から受ける感情は静寂だった。
不審に思いつつもナミラーの町の平原が目視できる位置にたどり着く。
そこに広がる風景を信じることが出来なかった。
大小の穴が広がる。
真っ直ぐに一列の小さな穴が連なる。
穴の付近には必ず兵士が倒れている。
着ている鎧を目をこらし見てみると、我が軍の兵士達の鎧ばかりだった。
オリタリア軍、冒険者の着る鎧は一つも見ることが出来なかった。
まさか!! 壊滅!?
そんな馬鹿な!
歩兵だけで1000人規模だったはずよ。
私がナミラーとルホストを往復10分で全滅なんて有りえない。
件の魔法使いの仕業か。
なら有りえるわ。
でも、魔法にしてはおかしいわ。
何の魔法を使ったのでしょう・・・・・・
穴をよく見る。
見覚えのある穴の空き方・・・・・これは!!
まさかオリタリアも手榴弾を持っているのか?
3人目のガキ、山中が召喚した歩兵部隊が持つグレネードが開ける穴の形状。
オリタリアも『現代の軍隊』召喚できるのか?
無いとは言えない。
オリタリアも100人を犠牲にしたのか?
自由と平等を是とする国も背に腹は代えられなかったと言う事かしら。
ナミラーの町の東から侵攻したズガーンダムを確認しに行くと・・・・・
あの巨体がどこにも見当たらない。
まさか!まさか! あのズガーンダムまで!
破壊されたのなら残骸が残るはず・・・・
魔法を一切受け付けないあの巨体を消滅させたと言うのか!!
どうやって?
有りえないわ!!
少し冷静になって上空から目を凝らして町の東側を見てみる。
地面にある不自然な土の盛り上がりを見つけた。
!! 落とし穴?
まさか、あの巨体を落とし穴に落としたというの?
生き埋めにしたというの?
良いアイデアだわ。
子供だましだけど無力化させたのだから・・・・・侮れないわね。オリタリアの魔法使いさん。
失敗ね。
ルホストに戻りましょう。
そして、派遣軍指令に状況を伝えなくては。
これ以上被害を増やさないためにも、ここは第2陣の派兵は取りやめるべきね。
フェルナンド陛下のガッカリした顔が浮かぶ。
ナミラーは最重要拠点。
ナミラーさえ征すればどこにでも軍を送ることが容易くなる。
ハルフェルナの中心に位置するナミラーを制することが出来れば世界統一に一歩近づくはずなのに。
やはり山中のコリレシア軍を全面に押したて侵攻するべきだったのでは・・・・・
と考えながらルホストの町が見えたとき!!
私は信じられない物を見た!
「あ、あ、あれは! メテオ!!」
突如、ルホストの町の上空に巨大な隕石が現れた。
伝説の呪文! 禁忌の呪文! 滅びの呪文!
ハルフェルナの歴史上、かつて一度だけ使われたと言われる究極の呪文! メテオ!
勇者・茜が魔王の軍勢を滅ぼすために使ったといわれている。
一瞬にして町を一つ消し飛ばしたと言われる呪文だ。
その呪文も勇者・茜とともに消えた呪文のはずだ。
歴史上、勇者は何人もいたが、その辺にいる勇者ごときでは使えるはずの無い呪文だ。
まさか勇者・茜は生きていたと言うことなのだろうか?
再度、降臨したのだろうか?
が、勇者・茜は紅姫に殺されたはずだ・・・・・
巨大な岩がゆっくりと落ちていく。
あぁぁぁぁぁぁ!ルホストの町が。
ピカッ!
一瞬、閃光が走る。
ドガーーーン!
今まで聞いた事がない音量の爆発音が響き私の体を嬲る。
危ない!
衝撃波と爆風が来る。
慌ててナミラーの町へ向きを変え全速で逃げる。
来る来る来る!
「うわーーーー!」
爆風が私を襲う。
宙をくるくると回転しながら薙ぎ飛ばされる。
幸い地面に叩きつけられる事は無かった。
確認しなくては!
ルホストの町の安否を早く確認しなくては!
突風が吹きつける方向へ再度全速力で飛ぶ。
砂埃が舞い上がり、建物らしき木片や小石が空からゆっくりと落ちてくる。
その間を縫うように飛ぶ。
一体何者の仕業なのだろうか?
そんなことが出来るのは件の魔法使いしかいない!
が、魔力の変動は一切感じなかった。
あれだけの魔法を使えば魔素が必ず変化すはずなのに。
おかしい。おかしすぎる。
あれはメテオだったはず。
魔法も使わずにこれだけの火力を出せるのだろうか?
今、見たことは幻だったのだろうか?悪夢を見ているだけなのだろうか?
私は目の前で起こった事を理解できなかった。
それを理解できたのは翌日、改めてルホストの町を確認したときだった。
本来、町のある場所に巨大なクレーターを発見したときに、あれが夢ではなかったと初めて理解できた。
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