第137話 老人の昔話
「フェネクシー、あなたは白田 碧というカッコいい少年知らない? 私のお兄ちゃんなの。クラスメイト35人と一緒に召喚されたのよ」
「35人と申すか!!」
「やっぱり驚くのね」
「そりゃそうじゃろ!異世界人を一人召喚するのに100人の犠牲が必要なのじゃぞ!
35人も召喚できる国など存在しない。国が滅ぶぞ」
「過去にそういう話、聞いたこと無い?」
「魔神大戦後、魔族、亜人、人間のすべてが人口を減らし争いは収まったかに思えたが数百年後、またすべての勢力間で争いが始まったのじゃよ。
そして、また人口が減り、つかの間の平和が訪れる。
人口が増えるとまた争いが始まる。減ると戦いが収まる。
中でも人間が一番酷くてな。人間同士で平気で殺し合いをするのじゃよ。
人間の人口が増えたと思ったら人間の国同士で争う。
領土を広げようとして魔族界、亜人領にも戦いを仕掛ける。
それを永遠に繰り返しておるのじゃよ。
人類は欲望のせいで増えることもままならぬ。
だから文明も進まぬ。
それに魔神大戦のときのように自国が滅んでも世界のために召喚しなくてはいけないほど切羽詰ってもおらんからな。
35人も召喚する理由も無いのじゃよ」
「じゃ、お兄ちゃんはどこへ行ったんだろう? 違う世界なのかな?」
「そなたらの世界があると言う事は、他にも異世界が合ってもおかしくは無い。
そしてもう一つ時代が違うと言う可能性もある」
「時代が違うって? どういう意味?」
「かつてワシが倒した召喚者がいるのじゃ」
「あんた、人間殺してるじゃない! やっぱりプスっと
「まぁ、慌てるな。それなりの理由があったのじゃよ。
私が倒した召喚者どうしの国が対立して人類を二分する大きな争いに発展してしまってな。
これでは人類が滅んでしまうと思ってワシは二人の召喚者に手を下したのじゃ。
一人はコーテー・ネンロといい、もう一人はアンドルフ・ヒスターという奴じゃ。
ヒスター曰くネンロは2000年前の暴君と言う話しじゃ。
歴史上最悪の君主の一人だそうだ。そなたたち知っておるか?」
「ネンロってあまり聞いた事がないな~ そんな人、居た?」
「ローマンの皇帝よ。自己中心的な人物で暴君と言われていたわよ」
「でも、ヒスターも、お前が言うなよ!!というくらい悪逆非道な人物だったわよ。
うんうん、フェネクシー、あなた良いことしたと思うわよ。許す!」
どこまでも尊大な茜であった。
「ネンロもヒスターもそなたらも同じ世界から来たのは間違いないな。
ネンロとヒスターは500年くらい前にハルフェルナに来たのじゃ。
そなたらの世界とハルフェルナは時間の流れが異なっているのだろうな」
「ネンロは2000年前、ヒスターは100年くらい前の人物だから・・・・・
ハルフェルナと地球では時間の流が違うと言うことなんじゃないかな」
と加奈が言うと
「え~~じゃ、お兄ちゃんはどこ?時間の流れとかどうでもいいの!お兄ちゃんさえ見つけられればなんでも良いのよ!!
他の世界だったらどうしよ・・・・・うわーーーーーー」
と茜は座り込み泣きだした。
「この
「強いといっても普通の女の子ですから」
「タナの剣を持っていると言う事は『名無しの女神』に召喚されたのじゃろ。『名無しの女神』に聞くしか無いじゃろ」
「どうやったら会えるの? ブラドーさんは時々、降臨していると話していたけど」
「そなた達なら何れ心配になって降臨するのじゃないか? 色々とありそうだからな」
その話を聞くと茜は泣き止み立ち上がった。
「マジ?その話、マジなの?」
「あれでも名無しの女神は慈悲深いからの召喚者を見捨てたりはしない奴じゃ」
「あなた、詳しいわね。それは年の功って奴?」
「ワシは魔神大戦の生き残りじゃからな。若かりし頃、魔神側で戦っておったからな。
これでもブイブイ言わせておったんじゃぞ!
名無しの女神と剣を合わせたこともあるのでな」
えーーー
え~~~~
「フェネクシー、あんた、年、幾つよ!!」
「ワシか・・・・・・・忘れた! 5000歳くらいまでは数えていたが、そこからは面倒になって止めた」
「ちょっと、大魔王さん、『魔神大戦』って本当にあったのね。
私たちの世界だと神話っておとぎ話と相場は決まっているから誰かが作ったインチキ話だと思っていたわ」
「インチキも何も、そこの
魔神大戦は魔神側が、ほぼ一方的に人類、亜人、神々を倒しまくって、後一歩と言うときに勇者・タナ様とロゼ様がこの世界に召喚され、二人の力で神々の負け戦を五分に戻したのじゃよ。
しばらく膠着状態が続いた後、タナ様は剣をロゼ様はローブを着て、そして名無しの女神は突如として現れたのじゃよ。
そこからはほぼ一方的に魔神側の撤退戦が始まったのじゃ。
そして魔神はタナ様とロゼ様に倒されたと言うわけだ」
「あなたもタナ様っていうのね。魔神側で戦ったのでしょ」
「確かに。一応、これでも魔族じゃからな。魔神側に立たないわけにはいかないだろう」
「大魔王さん、嫌そうね」
「何を好んで戦わなくてはいけないのじゃ。人間がいなくなったら困るのはワシだからな。途中から手を抜いて戦ったのじゃ」
「あの女神様って、そんなに強かったの?」
「強いも何も魔神とワシ以外、勝てるものはいなかったろうな」
「え!!そんなに強いの? あの女神様、茜にアイアンクロー噛まされて泣いていたわよ」
「な、な、何!! 名無しの女神にアイアンクローをか!」
「はい」
「そんな馬鹿な! 人間ごときがあの女神に触れられるわけが無い!
この世界の最高神だぞ。他にも神はいるが名無しの女神は別格なんだぞ!!」
あまりの話の内容に話し方さえも変わってしまったフェネクシーだった。
「ワシがあやつを倒すのにどれだけ苦労したか。
並みの悪魔、魔族なぞあやつの足元に及ばなかったのじゃ。
透き通った真っ赤な剣と漆黒のローブを着てバッタバッタとなぎ倒していく様は『
ワシがどれほど苦労してあやつを倒したかと思っているのだ!」
ピカーーー!
と辺りがまばゆい光に覆われたかと思うと。
ゴロゴロドーーーン
と雷が落ちた。
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