第110話 ムシムシパニック


ファイレル王国最後の魔王がこの城にいる。

この城は地元領主の子爵が隣国ウインレルとの国境に立てた城だった。

ウインレルと有事の際は防衛拠点として使われる城であった。

この城の主はどういう魔王なのか一切分かっていない。

城には無数の虫が出入りしているので虫を使役できる者だと思われている。


毎晩、近隣の村々を襲い人間が数人いなくなるという事件が多発している。

行方不明になる恐怖に耐え切れず村を出て行った人間も多く、ついには近隣5つの村が廃墟になった。

近くの領主の子爵が討伐軍を送ったのだが誰一人帰ってこなかった。

そして、子爵自ら指揮をして討伐の任に当たったのだが、子爵も行方不明になった。

ファイレル国も一度討伐軍を差し向けたのだが誰一人帰る事はなかった。


こうしている間にも色々な虫が城に出入りしている。

城に続く道はおびただしい蟻が地面を行進して黒い絨毯を作っている。

その絨毯の所々にカブトムシのような甲虫の大群もいる。

空には蝶や蜂が飛び交っている。



「うわぁ~~~~虫、虫、虫。キモーーーー」

茜が叫んだ。


「いや~~私も気持ち悪いです」

詩織も続いて言った。


「背筋が寒くなるぞ!!」

千代もそう言った。


「これどうするの?王子様?」

加奈は王子に意見を求めた。


「みなさんは虫がダメなのですか?」


「そうよ!!現代女子高生で虫がOKな人はいないわよ!!

 もう、気持ち悪い。無理、無理、無理! 私、帰る!!」

茜は城に背を向けて歩き始めた。


「あ、あ、茜様、お待ちを! 何卒何卒、お力をお貸しください」

と茜の手を掴み引き止めた。


「無理、無理、無理。あんなに虫がいっぱい居たのでは・・・・無理!!」


「そうです。王子様、女の子に虫は無理です」

詩織も完全に及び腰であった。


「あ~~~背筋がぞっとする」

加奈が叫び声を上げた。


すると城へ戻ろうとしていた虫たちは歩みを止め反転して茜たちの方へ行進を開始した。


ブーーーン、ブーーーン


蜂の羽音が近づいてくる。


「ギャーーー来る来る、虫が来たーーー」

加奈が絶叫した。


「ファイヤーボール、ファイヤーボール、ファイヤーボール!!」

茜が魔法を乱発し蜂たちは焼かれて落ちていった。


「アイス・ウインド!」

加奈が冷気の風魔法で蜂と蝶を風で吹き飛ばした。


所詮虫なのだ。

弱い。弱いのだが気持ち悪~~い。

しかも、何千、何万匹いるのかも分からない。


「蟻! 蟻! 蟻! 蟻!!」

千代も半分パニックになっている。



「ファイヤーボール!!」


茜が特大のファイヤーボールを蟻の大群に目掛けて打ち込んだ。

大方の蟻たちは燃えるか吹き飛んだ。


そこへ一匹の蝶がピタッと加奈の顔面に付いた。


「うぎゃ~~~~~~~~~~~~~~!! ちょ~~~~~~う!!」


加奈はパニックになりギャーギャーと狂ったように叫んだ。そして、


「ヘルフレイム!!」


と火炎系最大の呪文を解き放った。


ゴゴ

ゴゴゴ

ゴゴン

ゴゴゴゴーーン


茜たちの居るところから城めがけ一直線に火柱が上がる次々と地面から上がる。

地面は赤く焼け城へと続く綺麗に舗装されていた石畳は熔け地獄絵図となった。


「ぜぇ~~ぜぇ~~ぜぇ~~」

加奈の激しい呼吸音が聞こえる。


「加奈、やりすぎじゃない?」


「いいの!!虫よ、虫!!」


「加奈ちゃん・・・何がいいのか説明になってない気が・・・・」

詩織がツッコミを入れた。


「いいの!! 虫なら何をしてもいいの!!許されるの!!」


「雨宮、こえ~~~ 冷静なヤツがキレルと何しでかすか分かんねぇな」

織田が引き気味に言った。


「で、どうする?中に入る? なんかまだ出てきそうよね・・・・・あ~~~キモイ」


「茜様、今がチャンスです!突入しましょう~」


「いや~~~~、虫が出てきたらどうするの!!」


「そうは言っても、突入しないことには埒が明きませんよ」


「じゃ~王子様、先頭、よろしく」


「茜!王子様を先頭になんか出来ないでしょ。茜が行きなさいよ」


「か、か、加奈、酷い! 私を見捨てる気~~~!」


「私も行くわよ。千代も行くのよ!!」


「え!わ、わ、私も? 小さい虫なんか剣で斬っていられないぞ!」


「何でもいいから行くのよ!!」


「織田も詩織も特攻よ!!特攻!! ウガーーーーーーーーー!」


「加奈、冷静になろうよ冷静に!」


加奈は完全に常軌を逸ししていた



「いいから行くのよ!!ウガーーーーー!」


と狂気に駆られた加奈は茜と詩織の手を引っ張り城へと走っていった。


「加奈殿、冷静に!!」


王子とお付の騎士も一緒に突入した。


「加奈ちゃんが壊れてる~~~~~」

と手を引っ張られながら詩織は叫ぶのであった。


加奈は全速力で走り、城門をくぐり内部に突入した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る