第102話 魔王・茜


「では、もう一度、魔物を誘き寄せましょうか。今度は茜様以外のみなさんに戦ってもらいましょう」


クラスメイトたちに緊張が走る。

アルファが匂い袋を投げる。

しばらくすると今度はゴブリンが10匹ほど現れた。

剣や斧、革の鎧、仲には鉄の楯を装備している者もいる。


「剣士は前列へ、後列は真ん中に回復系を両脇に攻撃魔法を持っている者が配置してください。 茜様は私と共に最後列へ」

と陣の建て方を指示し、お付きの騎士二人を剣士たち前列の外側で待機するよう指示をした。

戦闘職でない平内は後方で待機させた。


ゴブリンが一斉に走ってくる。

戦術もフォーメーションも何も無い。

ゴブリンの習性なのか指揮官がいないからなのか?


「魔道師は攻撃魔法を!」


アルファの指示が飛ぶ。

魔法使いの加奈と賢者の理沙がファイヤーボールを唱え、先頭を走っているゴブリン2匹に命中する。

その後も何度かゴブリンにファイヤーボールを唱えた



「僧侶は支援魔法を前衛に!」

聖女の詩織が身体強化を僧侶の桃花が攻撃力強化の魔法を前衛の剣士たちに掛けた。


「隙を見て他の支援魔法を」


そして、前衛の剣士たちがゴブリンと激突した。

織田、藤吉、明石は素が一般人なので・・・・・・・弱い、弱い。

格好だけは騎士然としているのだがへっぴり腰で剣に振られている状態だった。

その中で千代一人だけは剣の太刀筋がしっかりしていた。


「おお、千代殿は別格ですね」


「千代は剣でも有名な剣道少女だからね。千代が勇者だったらどれほど良かったことか」

男3人はちゃんばらゴッコの様相だが千代は一人で次々ゴブリンを切り倒していく。

千代は無傷のゴブリン4匹を一人で倒した。

男どもは加奈と理紗にファイヤーボールでダーメージを受けたゴブリンを一匹ずつ倒すのがやっとだった。

残りの3匹は加奈と理紗の魔法攻撃で倒したのであった。


「こえーーー異世界、こえーーーよ!」

「死ぬかと思ったぞ」

「ぜーぜーぜー、やったぜ!」


男3人は息も絶え絶えという状態だった。



「ふ~~」

と千代が息を吐く。


「千代、凄い!」

「千代、惚れちゃいそう~~」

「さすが有段者は違うな!」

「千代、お願い、今から勇者になる修行を積んで!」


「み、み、みんなどうしたんだ? そんなに誉めても何もでないぞ」


「千代殿とはいつかお手合わせをしてみたいものですね」


「こちらこそアルファ王子のような強い騎士にそんな事を言っていただけるなんて光栄です」


「王子様、それでみんなはどうなの?戦えそう?」


「茜様、今の段階では少々厳しいものがありますね。男子の前衛チームは全滅と言ったところでしょうか」



「ところで王子様、『封印』ってどうやるの? いきなり魔王に封印って効くの?」

と加奈が王子に問いかけた。


「いきなりは難しいかと思います。弱っているところを封印しないと封印されないと聞きました」


「で、織田、今、『封印』持っているのね?」


「持っているよ」


「ちょっと、やって見せて」


う、うん

と咳払いをした後


「勇者・織田が命じる! 魔王・白田を封印せよ!!」


と、茜に手を向け念じた。

一瞬、茜はエッ!という顔をして驚いた。




「あ、あ~~~~~、く、く、苦しい。た、た、、助けて~~ 詩織、加奈~~~~」


と喉を押さえ跪き茜は苦しんだ。


織田も一瞬、エッ!?と顔をした後、ニヤリと笑い。


「魔王・白田!!苦しいだろ苦しいだろ。俺にアイアンクローを掛けた恨みを思い知れ!!

 封印されたくなければ俺の命令に従え!!服従しろ!!」


「あ、あ、あ~~~く、く、苦しい」


「あ、あ、茜ちゃん!」

詩織が茜に飛びつき封印の呪文から守るように多い被さった。


「や、や、止めろ!織田、それ以上、呪文を掛けたら許さない!!」

加奈はファイヤーボールを手に貯めた。


「やめるんだ、織田! 茜が苦しんでいるだろ」

千代は剣を抜き織田に向けた。


「あ、あ、あ~~~~」

と茜は言うと体から力が抜けたようにすっと立ち上がった。

その様は意識が無いように見えた。


「あ、あ、茜ちゃん」

「茜~~~~~!!」


そして、織田の元にゆっくり歩き始めた。


「織田!!お前なんてことをしてくれたんだ!! 茜が、茜が!!」

加奈はパニックを起こし織田を怒鳴り散らした。


ゆっくり、ゆっくり織田の元へ近づき目の前に来たとき


「アイアンクローーーーーー!」


と言って織田にブチ噛ました!


「いで、で、で、で、で」


「織田、お前ふざけたことをしてくれたな。女子高生に向かって魔王だと!!

 こんなに可愛い魔王がいるわけないだろう!」


「痛いです、痛いです。白田さん。ごめんなさい。ほんのちょっとしたイタズラ心です!!」


「それで許してもらえると思っているのか? あぁ!」


「ホンの冗談です。白田さま。お許しを」


「このまま魔王イフリートのとこへ行こうかな。アイアンクローしたまま空を飛びながら Sky high!」


茜は飛空魔法を唱え空を飛んだ。


「おお、人を捕まえたまま空をこんなに高く飛べるのね」

と10m、20mと宙吊りのまま舞い上がった。


「ぎゃーーー下ろして、下ろしてください。痛い痛い。茜様。すべて私が悪うございました。もう二度としません」


「仕方ないわね」


と、地上に戻ってアイアンクローを外した。


「茜ちゃん、良かった」

「茜~~~!!脅かすなよ。本当に織田に魔法をぶつけるところだったんだからな」

詩織と加奈は泣きながら縋りつくのであった。


「二人ともごめん、ごめん。織田が調子に乗ったから一つシメておこうかと思って」


「茜!!そういう悪ふざけも禁止!! まだ、色々分からないことが多いのだからオフザケは止めろ。

 私も織田を斬り殺そうと思っていたから・・・・・人殺しにならないで良かったよ」

千代は剣を鞘にしまった。


意外と千代は武闘派であった。


王子を初め他のものたちは目の前で繰り広げられた突拍子もない寸劇に振り回され何一つ動くことが出来なかった。


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