第96話 アイスボール


茜は飛空魔法でクレーターにたどり着くと早速アイスボールの練習に取り掛かった。


「小さい氷、小さい氷。アイスボール!!」


と唱え氷の玉をイメージした。

出来たボールは小さい、あまりにも小さい。

親指サイズの小さい氷しか出来なかった。

もう一度アイスボールを唱える。

やはり親指大の氷しか出来なかった。

その後、何度も何度も繰り返すが出来たのは親指大の氷だった。


「私には水系の魔法の素質が無いのかな?」


もう一度、丁寧にアイスボールを唱えてみる。やはり親指大の氷しか出来なかった。


「・・・・・・・・・・・・チッ! 面倒ね」


茜の中で何かが切れた。


「アイスボール!!」


と右手を頭上に上げ大声で呪文を詠唱する。

すると直径100mを超える巨大な氷の玉が茜の右手の上に出来た。


「あっ、これは不味いパティーンかも。加奈に見つかったら怒られる・・・・・」


慌ててクレーターに投げ込んだ。


ズーーン!

と地面が揺れる。


いやいや、大丈夫だ。クレーターに収まれば問題ない。OK、OK。

と一人納得した茜だった。


「茜~~、大丈夫か? 今、巨大な氷が出来たみたいだけど」


加奈たちがやって来た。


「大丈夫、大丈夫。上手い物でしょ。

なかなか良いサイズのアイスボールが出来たところよ。

上手くなったでしょ」


と、当初の予定はもっと小さい氷だったのだが、それは黙っておこう。


「まだ、これだと氷は足りなさそうね。茜ちゃんもっと作った方がいいんじゃない?」


ギクっ!!今のは偶然このサイズになっただけで・・・・

私はもっと小さいの予定していたのですけど・・・・


心を落ち着け右手を空に掲げ、もう一度アイスボールを唱えた。


「アイスボール!!」


右手の上に氷の塊が生成される。

が、茜のイメージを超えるスピードで氷は大きくなっていく。


あっ、これはやばいパティーンかもしれない。

嫌な汗が止まらない。


「みんな、危ないから離れて~」


氷の大きさは100mを超え200mも超え、300、400と巨大な氷が少女の頭上に出来上がった。

ま、ま、まずい。


「そいや!」


と言ってクレーターの方に巨大な氷の塊を投げ込んだ。


ズドーーーーーン!


揺れる揺れる。地面が揺れた。

立っている事が難しくなるくらいの揺れがあたりを襲った。

クレーターの下にあった100mサイズの氷は砕け散り、あっという間に水になり、そこには400mを超える氷の塊あった。


「アカネーーーーーーー!!! ヤッパリ、魔法禁止!!」


「えーーーなんでよ、加奈!! 上手くいったじゃない!! 予定通り氷河が出来たでしょ」


「本当に予定通りなの?」


「・・・・・・・予定通り・・・・だけど」


「本当に?」


「・・・・予定通りよ」


茜の声は段々小さくなっていった。


「本当に、本当!!」


加奈は真剣な目で茜の目をじっと見る。

茜は耐えられず目を背けた。


「アカネーーーーーー!! 魔法禁止!!」


茜は崩れるように膝をついた。




「王子!! 今のは何ごとですか? 凄い揺れが王都にもありました!!」

そこへモロトク隊長が騎兵隊を引き連れてまたやって来た。


「隊長、ご苦労。今のは茜様がクレーターに水を引いてくれたのだ」

と巨大な氷の塊を指して説明した。


「そ、そ、そうなのですか?」


「これで、新しい水源も確保出きるだろう。さすがは茜様だ!」


と茜の失敗を上手く誤魔化すアルファだった。



この日の夜、ファイレルの城下街は数年ぶりに涼しい夜を迎えることが出来た。


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