第57話 詰問


仮面の魔道師・西原を倒した後、サリムさんたちから詰問にあった。


「お前たちは何者なんだ!」

サリムさんは剣を向けながら聞いてきた。

その声には明らかな不信感・・・いや、怒気が含まれていた。


「普通のパーティですけど」


「ふざけるな! 普通のパーティーにリッチなぞいる訳がない!!」


「ギルド長のドリスタンさんは知っていますよ。了解した上で俺たちに討伐の手伝いを頼のまれたのですが」


「聖女がいてリッチがいて姿を変えることが出来る少女がいて・・・・・お前たちは魔王の手下なんじゃないだろうな」


「まさか、俺たち普通の人間ですよ」


「信用できん!! リッチなぞ殺してしまえ!」


俺はサックブラッド・ナイフを手元に召喚した。


「彼女に手を出したら殺すよ。

これでも俺、グリフォンを殺したことあるから・・・・覚悟はあります?」


と、グリフォン横取り事件を大袈裟に誇張しておく。


「グ、グ、グリフォンをか!」

サリムさんたちのパーティーが臨戦態勢に入る。


「カ、カレー屋、お前一体何者だ? お前が一番怪しい!」


「商人ですよ」


「どこの世界にグリフォンを討伐できる商人がいる!!」




「あ~~~~うるせーな!! 今、クラスメイトをこの手で殺して心がささくれてるんだよ。静かにさせてくれよ!」


イラつきながら髪の毛を掻き毟った。


「みなさんや町の人に危害を加えるつもりはありませんので剣を収めてくださいませんか?

 過去にどれほどリッチに苦しめられたか分かりませんが、私は人を好んで殺めようとは思ってもいません。

 故郷に帰りたいだけです」

七海が骸骨の姿のまま深く頭を下げた。

慌ててマジックランドセルから代わりのローブとマスクを取り出し手渡した。


「彼女は俺たちのクラスメイトで学校でも有名な美少女で心優しい子だったんだよ。

 不慮の事故でリッチになってしまっただけだから」


「僕からもお願いします。七海さんは皆さんの知っているリッチとは別の存在です。

 誰からも好かれ愛される心優しい人ですから剣を収めてください」

将太が頭を下げる。


サリムさんたちはお互い顔を見合わせ剣を収めてくれた。


「チッ! 仕方ねぇー なんだか深い事情がありそうだな。

 カレー屋、後でカレーを奢れそれで手打ちな!」

頭を掻き毟りながらぶっきら棒に言った。


「喜んでご馳走しますよ」


カレーでこの場が収まるのなら安い物だ。


「ヤッパリ、お前が一番怪しいよな」

とサリムさんは俺を警戒しているようだった。



町へ戻るとドリスタン・ギルド長が大剣を担ぎ飛び出してきた。

あのガタイからして元冒険者という予想はついていたたが大剣というのがあまりにもベタ過ぎると思う。


「魔道師はどうした?」


「カレー屋が倒しましたよ」

サリムさんが答える。


「なに、お前がか? グリフォンといいお前何者だよ! お前、商人だよな」


「はい、商人ですけど」


「やっぱり、あれなんだな・・・・・・」

俺たちが転移者だという事を思い出したみたいだ。


「ドリスタンさん、魔道師についてお話しがあります。

 内密に。ネーナさんたちも呼んでください。サリムさんたちも同席してください」


冒険者ギルドに向かう途中で南に展開していた騎士団長も合流した。

人数が少々多いのでギルドの会議室で会談する事になった。


ドリスタンが開口一番。


「BLパーティの諸君、助かった。

 ありがとう。初顔合わせだと思うが、こっちがナミラーの町の騎士団長ディーン・ヘルムートだ」


「よろしく」

とヘルムートが挨拶をしてきた。

俺たちも

「よろしくお願いします」

と挨拶を返す。


智弘と顔を見合わせどうする?と言う顔をすると。

顎でを突き出し「お前が話せ」という合図を送ってきた。


「魔道師の件ですが、あいつは俺たちのクラスメイトでした」


「なに!! どういうことだ!」


「理由までは分かりませんが呪われている仮面を被ったせいで暴走して暴れたようです。

 しきりに熱い、苦しいと唸っていましたから」


「あの魔道師はほとんどイフリートになっていた」

ライムさんが解説をしてくれる。


「イフリートは火の魔人。あの仮面にイフリートが封じ込められていた。

 どこで手に入れたかは分からないがあの手の魔道具は呪われているものが多い。

 封じ込められた事を恨み人間を殺しに来たのだと思う。

 身につけたら最後、道具に体や魂を乗っ取られる。

 助ける方法は倒すしか無い。

 倒すということ、即ち殺すということ」


「ライムさん、あの時、殺すしかなかったのですか?」

俺は聞いてみた。


「殺すしか無い。一刻も早く殺すことが救う事になる。

 あれしか選択しは無い。カレー屋、お前が苦にすることは無い。

 お前の選択は間違ってない」


「間違っていない・・・・・・・・・・か」

と俺は小さい声でつぶやいた。





「クラスメイトと言っていたが、どういう学校だったんだい? 魔法学校かな?」

としばしの沈黙の後。話を変えるようにヘルムート騎士団長が会話に入ってきた。


俺は一人一人と顔を見合わると全員が頷いた。


「他言無用でお願いしたいのですが、俺たち転移者なんですよ」


「何だと!」

「エッ!」

「転移者!!」

「ホントかよ」

知らなかったヘルムート騎士団長、レディースパーティの方々は驚きを隠せなかった。


「だから、訳の分からないパーティー編成なのか」

サリムさんは疑問が少し解消されたようだ。


「カレー屋さんが一人混ざっているのがいかにも不自然なのよね。

 だから私はどこかの密偵だと思っていたのよ」

アマネさんが話した。


そして、職業を話した。

七海の事を話す前にヘルムート騎士団長に念押しをしておいた。

剣を抜かないでください。

いきなり斬りつけたりしないでください。と。


「彼女はリッチです」


「何だと!ふざけるな!、今すぐ殺す!」

案の定、いきり立って剣を抜く。


「騎士団長、冷静にお願いします。

 彼女を斬りつけたら、俺があなたを殺しますからね。

 これでも、グリフォンを殺したことがあるんですよ」

と言っていつも通りサックブラッド・ナイフを手元に呼び出した。


「な、なに、グリフォンをか!」


グリフォンの威力絶大!!

ありがとう、グリフォン君。これからも何かあったらありがたく君の死を利用させてもらうよ。


「剣を収めてください。彼女は好んでリッチになったわけではありません。

 人間に戻りたいと思っているくらいですから。

 学校では聖女と呼ばれていたくらい優しい女性なんですよ」


「ヘルムート、剣を収めろ。彼らを信用しよう」


「とは言うがな、ドリスタン・・・・」


敬称をつけないと言うことはこの二人は付き合いがありそうだ。


サンジョウやダイワの件もヘルムート騎士団長の耳に入れておいた。

そして、ガルメニアが覇権を求めていると言うことも。


「フェルナンド王も終に行動に移したか・・・・・まさか召喚者を使うとは思っていなかったがな」

ヘルムート騎士団長が頭を掻きながら言った。


「俺はナミラーが戦場になると思っていたがな。ヘルムート、お前はどう思う?」


「俺もイズモニアに侵攻するとは思ってもいなかったな。ルホストの陽動にまんまと引っかかったな」


ガルメニアはルホストに兵を集めているという情報が流れていた。

いや、情報を流していたのだ。


「俺たち土地勘や地理に疎くて分からないのですがイズモニアへの侵攻は想定外だったのですか?」


「あぁ、イズモニアは1000年の歴史がある宗教国で皇王が代々納めていてハルフェルナで最も信者が多いロゼ教の総本山でもあるんだよ。

 ロゼ教というのは神話に出てくるロゼ様を崇めた宗教だ。

 聞いた話だから分からないが、魔族の中にもロゼ様を崇め信者も居ると聞く。

 そこを攻めると言うことはハルフェルナのほぼすべて敵に回すという事だ。

 ハルフェルナの人口の3分の1はロゼ教徒だからな」


ロゼ教すげーーー! 俺自身、無神論者だし宗教に係わり合いは持ちたくないから信仰するつもりは無いけどロゼ教の人たちを敵に回すのは止めておこう。

ヘルムートさんは話を続けた。


「フェルナンド王は自分が神になりたいと思っているような輩だから。

 俺もドリスタンも元ガルメニアの騎士団の人間だったのだが、あの王にはついていけなくなってガルメニアを後にしたんだよ」

ヘルムートさんが教えてくれた。


「イズモニアの皇王・ダニアス陛下は皇王なだけあって争いを好まないのだ。

 魔族も人間も同じ。共存できると考えておられる方でな。

 紅姫べにひめのクリムゾン魔国と共存を考えておられるらしい。

 それが可能かどうかは難しいがな」


「ドリスタンさん、難しいというのはなぜですか?」


「感情と距離の点で難しいんだよ。

 感情の点で言うとハルフェルナの歴史は魔族との戦いの歴史といわれているくらい深刻な対立が続いていてな。

 お前たちも聞いたことはあると思うが、神話と言われるタナ様、ロゼ様の時代から魔神・魔族の対立は終わることなく永遠に続いているんだよ。

 その後、勇者・茜様が幾度となく降臨され、その度にハルフェルナの危機を救ってくれたのだが・・・・・・・


 紅姫べにひめが茜様を倒したのでな・・・・・人類の感情は紅姫べにひめ許すまじ!

 ハルフェルナの恩人である勇者・茜様を倒した者をハルフェルナの民が許せるわけないだろう。

 俺も目の前に紅姫べにひめが居たら有無を言わさず飛びかかるぞ。殺されようが何されようが。

 ちなみに紅姫べにひめを討伐した者は10億円の賞金がでるぞ。

 BLパーティーも挑んでみたらどうだ?」


「10億円!!」


「人類の敵だからな。そこのお嬢さんたちの実家も多額の懸賞金を出していると思うぞ」


といってネーナさんとアレックスさんを見やる。


「勇者・茜様は倒されたのでしょうか?」


「学者さんたちが言うには色々意見はあるが、紅姫べにひめ朱殷城しゅあんじょうに赴き帰ってこないという事を考えると倒されたと考えるのが普通だろ。

 その後、現れたという話は聞いたことないからな。


 それでも500年前くらいに紅姫べにひめが現れてから対立はずいぶん沈静化したんだよ。

 その前までは至るところで魔王が現れ人類社会に仇をなしていたから、それを抑えるということはそうとうな統率力があると見える。

 勇者・茜様を倒しただけのことはあるな。


 その紅姫べにひめが人間界をに侵攻してこないのは魔族界を統一しているからと言われているが広大なワイハルト帝国から伝わってくる情報だから信憑性がどれくらい正しいか分からないんだよ。

 ワイハルトもガルメニアと大差は無い侵略国家だから色々秘密が多いんだよ。


 距離の問題だがワイハルト帝国は東西に広く紅姫べにひめの納めるクリムゾン魔国との間にリッピという小国がありイズモニアがどうやってクリムゾン魔国と連絡を取ることが出きるのかという問題がある。

 だから、俺個人としてはクリムゾンとイズモニアが共存を考えていても実行するのは難しいと思う」


俺たちは頷きながらドリスタンさんの話を聞いた。




「大変です!ギルド長! ガルメニア軍が来ました!!」

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