番外編 6人そろって

 朝だ。いつも通りの朝。

 

「ご飯作ってくるから、しばらくしたら降りて来てね」


「は~い」


 リアがベッドから降りて着替えをし、朝ご飯を作りにキッチンへ向かった。

 俺はまだベッドに残るリアの温もりを感じながら、まどろみを味わう。

 ゴロゴロしていると、いい匂いが漂ってくる。

 そろそろ起きないと、温かいご飯が食べれなくなるかな。


「よっし! ご飯ターイム!」


 勢いよく起き上がり、かけ布団をはねのけて着替えを始める。

 青いローブを着て顔を洗い、さっきから鳴りやまない腹を押さえながら階段を下りていく。


「おはよ~」


「おはよう、ユーさん」


「おはよう! 今日もご機嫌だネ!」


「おはよう。そろそろ準備が出来るから、みんなを起こして来てくれ」


 キッチンではいつもの通りリアとアニタ、そしてメイアが料理をしている。

 いやぁ~、暗殺者であるメイアの料理が上手いお陰で、ウチの食事はどこよりも美味い。

 リアもアニタも腕が上がる上がる。


「ん、じゃあ起こしてくる」


 半分まで降りた階段を再度登り、まだ閉まっている部屋をノックする。


「おーい、朝ご飯が出来るから降りといで」


 ……反応が無いな。

 アズベルのやつ、また2度寝したな。

 そういう奴はこうしてやる!


「ぐぉ~ら起きろアズベル! お前の分も食っちまうぞ!」


 乱暴に扉を開けて、ベッドで寝ているアズベルの布団を問答無用で引っぺがす。


「ぐへへぇ~……もう1回、もう1回やろうぜぇ~ヒヒヒ」


 どんな寝言してんだコイツ!

 朝っぱらからエロイ夢を見やがって、相手はアニタか?


「ばんちょー、もう1試合しようぜ~ヒヒヒ。ん? なんだユグドラか。寝込みを襲いに来たのか?」


 相手は番長だった!!

 やっと目を覚ましたアズベルをベッドから蹴り落とすと、目をこすりながら背伸びをした。


「メシだ、さっさと着替えて降りろ」


 さて次の部屋だ。

 次の部屋をノックすると、やはり反応がない。

 この部屋は注意しないといけない。もう一度ノックしてゆっくり扉を開ける。


「エバンスぅ~、朝だぞ~美味しい美味しい朝ご飯が待ってるぞ~」


 扉の隙間から中を覗くと真っ暗だった。

 相変わらず窓に暗幕をしてるのか。もう少し薄いカーテンにしてくれないと何も見えないぞ。

 ドアを全開にして中に光を入れ、ベッドがある位置を見るが暗く、エバンスを確認できない。


「おーい、おきろ~、朝だぞ~ごは「エネルギーボル」まてーい!!」


 慌ててベッドにボディープレスをかます。


「ガフ!! ……重い」


「起きたか?」


「起きた。寝込みを襲うなら、もっと優しくしろ」


「襲ってねーよ! むしろ襲われそうだったわ!」


 エバンスは寝言で魔法を撃つ。最初は偶然だと思ったけど、数回魔法を撃たれて以来、エバンスの部屋には魔封じの護符を大量に張っている。

 ドアを開けると弱まっちゃうんだよな~。


「早く顔を洗って下に降りろよ」


「ん」


 次の部屋。

 ここは別の意味で注意しないといけない。


「おーいベネット、朝だ、早く降りて飯を食うぞ~」


 ドアをノックすると中からゴソゴソ音がする。起きたかな?

 部屋の中から何かが倒れたりぶつかる音がして、ゆっくりドアが開く。


「着替えて下に降りて……服を着てからドアを開けろよ!!!!」


 ベネットはスケスケのネグリジェ姿だった。(下着無し)

 慌ててドアを閉めようとしたが足を入れて止められる。


「やっと……来てくれたの……? 入って……」


 虚ろな目で手をグイグイ引っ張られて部屋に引き込まれそうになる。


「早く! 早く目を覚ませベネット! お前は毎回毎回!」


 そう、熟睡した時のベネットは寝起きが悪い。

 誰これ構わずベッドに誘い、そして……一緒に寝る。

 前にリアが捕まり、力ではかなわわないためベッドに引き込まれそして……リアを抱き枕にして1時間ほど寝てた。

 正直眼福だったが、毎回やられてはたまったもんじゃない。


 何とか手を振りほどき、速攻でカーテンを開けて部屋に光を入れる。


「と、とにかく起こしたからな! 早く降りて来いよ!!」


 急いで部屋を後にした。


 次は大丈夫だろう。少なくとも面倒にはならない。


「おーい、起きろー、メシだぞメシ」


 ドアをノックしたが反応がない。もう1度ノックするも変化なし。

 これはどっちのパターンだろう……まあいいか。

 ドアを半分開けてベッドを見るが居ない。

 このパターンか。ドアを全開にすると……いた、椅子に座り机に突っ伏して寝ている。


「おいしずか起きろ、メシの時間だ」


 肩を揺らすと小さな反応があり、体を起こしたかと思うと作業を再開した。


「まてまて! 裁縫は今はいいだろ? まずはメシを食おうぜメシ」


「……ああ、朝ですか? おかしいですね、さっき日が沈んだばかりなのに」


「日が沈んだのはもう10時間以上前だ。作業に集中し過ぎるなって、何度も言ってるだろ」


「いえ、寝てしまったという事は集中力が無くなった証拠です。次回はもっと集中して」


「あーはいはい、良いからメシだメシ」


 問題は次からだ。

 気を抜くと命の危険すらある。深呼吸をしてドアをノックする。


「おーい、朝だぞ~、美味しいご飯が待ってるぞ~?」


 ……お願いだから起きてぇ! という願いも空しく反応なし。

 ああ、今は異世界にいるお父さんお母さん、僕は今日死ぬかもしれません。

 覚悟を決めてドアを開ける。

 すると目の前に目があった。目? 何の目?


「ぶもぉーー!」


「ぎゃぴー! メア! こらナイトメア! 食うな! 俺は朝飯じゃないぞ!!」


 漆黒の馬・ナイトメアに頭を噛まれて振り回されている。

 このっ! ルリ子め、またゲートで呼んで一緒に寝てやがったな!!

 この前は飛龍だったし!!


「ブハ! この駄馬め! 主人の家族に噛みつくとは何事か!」


 メアの頭をぶっ叩いて、何とか口から逃げられた。

 こいつの歯は鋭いから痛いんだよ! 牙なんだよ牙!


「なんだい? 朝っぱらから騒々しいねぇ」


 騒ぎで目を覚ましたルリ子が、ベッドで体を起こして頭をかいている。

 はぁ、死ぬかと思ったぜ。


「お前な、ペットと一緒に寝るなって何度も言ってるだろ!」


「良いじゃないか、可愛いんだから」


「可愛いならしつけしとけ! 毎回噛みつかれるこっちの身にもなれってんだ!」


「それはお前が弱いからさね。姉のやる事に文句を言うんじゃないよ」


 ベッドから降りて背伸びをしている。なんてのんきな奴!


「お前は俺の妹だろーがっ! 設定年齢と実際の順番を間違えるな!」


「へいへい、お兄様はご機嫌斜めですこと」


「あーんもう、良いから早く降りて来いよ!」


 いい加減すっ裸で寝るのは止めろってんだ。


 次! 次……次かぁ……。

 ここもなぁ……なんで俺の兄弟はこんなのばっかりなんだろう。


 ドアをノックする。反応なし。もう1度ノックする。反応なし。

 諦めて帰っていいかな? イイヨネ? ボクがんばったよね?

 でもご飯が残るとリアが悲しい顔をするし……少しだけ覗いてみよう。


 少しだけ開けて中を見る。ああ、寝てるね。

 まあここまでは良いんだけどね、起こす手間がね。


「おーい番長おきろー」


 小さな声で、耳を澄ませば聞こえるようにささやく。

 当然起きない。番長は布団をはおらず大の字でいびきをかいて寝ている。

 風邪でもひいて大人しくしてくれればいいのに。


 ベッドに近づいて声をかける。


「おーい起きろ番長。朝ごはんの準備がで―――」


 キーン

 といういい音がしたかどうかは定かではない。

 しかし俺には“ドグシャ!”という何かが潰れた音が聞こえた。

 番長の足が的確に俺の金●を蹴りやがった。


「ぬぐぉあー!!」


 股間を押さえて地面にへたり込む。

 動けないんだ……ココを蹴られると動けないんです……しかも蹴られた場所とは違う、下腹部も痛くなるんです……人体の謎なんです……ポックリ逝けたら楽になれるかな?


「ち、治療を……ふぅ」


 何とかスキルで治療し、痛みが治まった。

 俺のナニにナニかあったら、世界中の女が悲しむところだったゼ。

 と、大事なものを潰した番長の足をみる。


 なんで毎回的確に当ててくるんだコイツは! やっぱり男だから正確な場所が……ブルブル、考えたくもない。

 ふ……ふふ……ふふふ……やられたら、やりかえせばいい、ホトトギス。


「俺の拳は男の天敵! ファイナル・クラッシャー!」


「ぬぐぉあー!!」


 ホー、ホケキョ!


「お主は何という事をするのじゃ! ワシのナニにナニかあったら世界中の女子おなごが悲しむのじゃぞ!」


「お前に女は居ないだろうが!」


「心の中にはたくさん存在するのじゃ!」


「日本にいた頃の俺みたいな事言ってんじゃねーよ!」


 しばらく殴り合い、下からナベを叩く音が数回したから試合終了した。


「メシじゃったな」


「メシだ」


 起きてさえしまえば普通? なのになこいつは。


 さて、やってまいりましたメインイベント。

 こいつは何回か家を破壊している。末っ子なのにある意味一番危ない奴だ。

 まずはドアの周囲を良く調べる……こっち側には何も無いな。

 じゃあ内側か。

 まずは鍵穴を覗きこみ……!? Noー!

 針が飛び出してきて、廊下の手すりに突き刺さる。


 ……これは初めてのパターンだ! 今回はヤヴァイぞ!!

 ディータめ、罠の種類を増やしやがったな。

 ドアの横に背中を張り付かせ、手だけでノブを回して軽く押してすぐさま身をかがめる。

 ……何もないか。ドア周辺は安全?


 顔を半分だけ出して部屋の中を見る……ベッドで寝てるな。寝相だけは良いんだよなディータは。

 ドア周辺は大丈夫らしいから、ゆっくりと、慎重に歩みを進める。

 部屋に1歩、1歩と足を踏み入れ、最大限の警戒を怠らずに進んでいく。

 どこだ……次はどこにあるんだ……。


「おーいディータぁ~、朝ご飯だぞぉ~」


 小声で言うも起きる気配はない。これで起きてくれればいいのに!

 ベッドの横に立ち、肩を揺さぶろうと手を伸ばした瞬間! 向かいの壁からうすい円盤が3枚並んで飛んできた!


「ここでか!?」


 体をのけぞらせ、背中から倒れそうなのをブリッヂの体勢で堪える。

 あっぶな! マジあぶな! 壁には丸ノコギリが3枚食い込んでいて、人間なんて簡単に真っ二つに出来そうな威力がありそうだ。

 フゥ、と息をつくと天井から巨大な剣山が落ちてきた。


「ピョ!?」


 体をひねってかわし、床を少し転がると何かにぶつかった。

 導火線に火が付いた爆弾……わお。


 爆発音とともに俺は窓から外に飛ばされてしまった。


「1人ブルーインパルスー!!」


 


 俺は全速力で走った。

 川を駆け抜け森を超え、玄関の扉を乱暴に開けてリビングを抜け、階段を駆け上る。

 ディータの部屋の中に入るとそこには……寝息を立てるディータがいた。


「起きろバカ娘ーー!!」


 脳天にゲンコツを落とした。


「いったぁ~い、あにすんのよぉ~」


「罠を張るなと言っただろう! 危うく死にかけたぞ!」


「えぇ~? 生きてんじゃん」


「俺たち以外なら3回死んでるわ!」


「軟弱だな~」


「お・ま・え・の・あ・た・ま・が・ゆ・る・い・ん・だ!」


 両拳でこめかみをグリグリしてるが、反省の色が無い。

 毎朝毎朝、どうして起こすだけで命がけなんだ。

 ダンジョン攻略よりも遥に難易度が高いぞ。

 ユグドラ邸ダンジョン攻略とでも銘打って、ダンジョン探索の練習に使えそうだな。


「とにかく着替えて降りてこい、メシだ」


「ん~い」


 はぁ、やっと全員起こせたか。

 やっと肩の荷がおり、階段を降りているとディータの部屋で爆発が起こった。

 あ~、アイツまた自分の罠にかかったな。





「いやっは~、ディータちゃん死ぬかと思ったよ~」


 頭をかきながらイスに座った。

 いい加減懲りて欲しい。


「丁度ご飯が出来たから、みんなで食べよ?」


 リアの言葉で全員が手を合わせる。そして。


「「「いただきます」」」


 声を揃えて食事が始まった。



☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆


「っていう夢を見たの! ユーさん、本当は全員一緒に出て来れたりしない!?」


「出て来れないです……」


 他の5人と一緒に暮らす? マジ勘弁してください。

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